オーナーさん
ほら、早くメイク終わらせてー!
オーナーさんが忙しそうに言う
私
……はい…
お互いのことを知らぬまま
私は今日も化粧をする
赤い口紅を塗り、肌を真っ白にする
この口紅も、汚れた身体も、
朔と共に洗い流せたらいいのに……
昔
君
絶対結婚しよう
小さい頃の、忘れそうな記憶
指きりをして、笑いあった貴方は
もう、夢の果て………?
私
よろしくお願いします
辛い心を隠して私は今日も
知らない男と踊る
何一つ抵抗できない私は
私
朧月……?
男
どうしたの………っ
首を振ると、男は笑った
笑わないでよ………
傷ついた心から流れる朱殷の糸は──
──貴方に続いていますか……?
この子、めっちゃ良いぞ!
マジかー!じゃあ、この子にしようかな……
その子も良くない?
私
私
バカみたい…
華やかな景観に吊られて
世の中の男は集まる
私
愛しさはいくらでも買えるけど………
私の心は……
私
動かないのよ。
オーナーさん
次ー!
私
あ、はーい……
いつまでも忙しそうなオーナーさんの
言いなりだ
誰か
はぁ…………っ
誰か
はぁ……っ
今日も知らない男の吐息を浴びて踊る
吐息と共に帳が軋んで
まるで共鳴してるみたいだ
暗がりへ手毬が転がった
私
あ………
追いかけようとして、ふと思う
……私の心と共に、転がってしまえばいいのに
私
私
お願いです、
私
一人にしないで……
小さな部屋で呟いた
そんな言葉は、誰にも届かなくて
月の雲間に消えていった──
私
君……
覚えていますか……?
愛しいと言い合った日々は
私が思ったよりも………
私
遥かに遠かった。
それでも私の気持ちは──
──冷めないまま
窓の外には、悠里に咲く雪月花
きっと私はこの花より霞んでしまうでしょうか
私
朧月のように………?
春の芽吹きと共に、
貴方のもとへ帰ろうと思います
手繰り寄せた朱殷の糸口が
貴方に続けと願って
朧月:まふまふ 様