俺は自分の目を疑った
何度も何度も表紙を見返す
ノートの表紙にはこんな見出しがついていた
「大戦記録 No.76 -人造兵器開発-」
人造兵器開発__
あまりにも見飽きた文字の羅列がそこにあった
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俺は表紙を凝視したまま
いるまに声をかける
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いるまは少し溜めてから
いるま
少し煽るような口調で告げた
俺は彼の方にゆっくりと向き直って
静かに問い詰める
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彼は答えない
ただ無言で俺を見つめているだけだ
分かってる
おまえがこの程度で
口を割る人間ではないことくらい
ならば
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これでどうだ?!
吐き捨てるような俺の呟きに
彼の眉がピクリと動く
ようやく反応を示した彼は
いるま
少しだけ息を吐いて
意味不明なことを口にする
いるま
どーるい、、、同類?
何を言ってるんだ?
脳が言葉の処理を拒む
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俺は声を荒げた
もう我慢ならない
こいつは俺の地雷を
1ミリのズレなく踏み抜きやがった
許せない許せない許せない!!
俺の気持ちは考えてすらないんだろうな
さらに彼はこんなことまで口走りはじめた
いるま
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俺は引き攣るように笑う
この男は俺を裏切った挙げ句
俺の信頼を盾にするのか
どこまで自己中心的な人間なんだ
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俺は彼を罵倒し続けた
頭に血が上っているせいだろうか
自分が何を言っているのか
見当もつかない
そんな俺とは対照的に
いるまはとても冷静だった
いるま
いるま
いるま
俺は口を開いたまま固まった
先程までの勢いは見る影もない
俺は何も言い返せなくなってしまった
いるまの言葉が俺に重くのしかかる
俺が信じると言ったのは
紛れもない事実なのだから……
あの言葉は
俺なりにたくさん考えて
悩み抜いた末の結論だった
俺の導き出した答えだった
でも“間違って”いた
現実というのは残酷で
努力と結果は比例するわけではない
たくさん考えたからといって
世界はそれを正解だとは認めてくれない
どうしようもない
俺にはどうにもできない
あれ以上の考えが浮かんでこなかったんだ
あの人だったら
正しい答えを見出せたのかな
じゃあ……
あの時間は
今まで考えてきた俺の時間は
全部無駄、だったってこと……?
俺はショックを受け
その場に座り込んだ
いるま
いるま
いるま
何も聞こえない
いや、頭に入ってこないと言うべきか
彼の口から発せられた波が
右から左へと流れていく
それでも
いるま
いるま
いるま
いるまは話し続けた
いるま
被験者
俺の鼓膜がようやく振動を捕らえた
途端に辛い記憶が溢れ出す
このとき俺は初めて
彼の言った言葉を
“同類”の意味を理解した
まさか
次から次へと押し寄せてくる記憶の断片
1つずつ繋ぎ合わせていくと
俺はある答えに辿り着いた
また間違っているかもしれないとも思った
だが俺にはそんな気持ちをも押しのける 何かを持っていた
そうだ
被験者は
俺だけじゃなかった
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震えながら彼を見上げる
いるまは俺の期待した通り
ゆっくりと首を縦に振った
心なしか
肩の荷が下りたように感じる
こんなところにいたのか
この記憶を共有できる人間が
俺の目から自然と涙がこぼれ落ちた
いるま
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いるま
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俺は両手で握ったカップを見つめながら
小さく頷いた
温かいものが喉を通って
全身に広がっていく
熱すぎずぬるすぎずな
ちょうどいい温度
あの後いるまは
泣きじゃくる俺を
愚痴一つ溢さず
最初にいた部屋まで背負って運んでくれた
俺をソファに寝かせると
どこからかカップを取り出し
ココアを淹れて俺に渡した
俺が落ち着いたのを確認すると
俺の向かいのソファに腰を下ろす
いるま
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無言を肯定と取ったのか
いるまは喋りだした
いるま
彼は一呼吸置いて再び話し出した
いるま
いるま
いるま
いるま
いるま
いるま
いるま
いるま
いるま
いるま
いるま
いるま
いるまは本気だ
本気で俺に協力してほしいと思ってるんだ
それなのに俺は……
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やべ…また涙が
いるま
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俺は食い気味に否定した
嫌じゃねーよ全然
そこじゃなくて……
沈黙を続けていた俺がいきなり喋るものだから
いるまは面食らったような顔をした
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いるま
俺は頷き、俯(うつむ)いて喋りだした
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沈黙が流れる
いるまの顔が見れない
いるま
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俺はいるまの言葉を遮った
にも関わらず
彼は俺が話すのを待ってくれた
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俺はいるまに向かって頭を下げた
顔を見なくても 彼が戸惑っているのが伝わってくる
いるま
彼は何かを言おうとしたようだが
いるま
その一言だけを残し
この場から去っていった
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そう言われてから随分時間が経ったが
彼が尋ねてくる様子はない
いるま
大きなため息をつく
今日中に話の決着をつけるのは難しそうだ
俺は諦めてベッドに潜り込んだ
さっさと寝よ
目を瞑る
眠れない……
考えないようにと努力しても
気が付けば
なつのことで頭がいっぱいになっている
考える時間をあげたとはいえ
何時間も音沙汰無しは
精神的にくるものがあった
明日には話してくれると良いけど…
今はそう願うしかない
外が明るくなってきた頃
俺はようやく睡魔に襲われた
普段より布団が温かかった気もするが…
まあ、、、気のせいだろ