太宰治
太宰治
力がするする抜けていく感覚がした。
人を、救っていた。
勘違いだ、お門違いだとはわかってはいるけれど、
探偵社でなくても、人を救えていたという喜びが脱力感を味わせた。
だけれど、実際は睡眠薬入りの注射液が体内に流れたことによる脱力感だった。
中原中也
……遅い。どう考えても遅い。
先に家へ戻っていた鏡花は、敦の帰りが遅いことを不審に思っていた。
もう夕食の支度も済ませてあり、あとは食べるだけなのだが……。
敦はそんな人ではなかった。
連絡もなしに遅くなるような人ではない。
ということは、どこかで何かしらの事故に巻き込まれている可能性が高い。
お人よしの敦のことだ。
その可能性は充分に考えられる。
十も年が離れていようと、自身を助けてくれた恩人の身を深く案じることくらい、許してくれるだろう。
鏡花は小刀を持ち、外へ出ようと、ドアノブに手をかけた時、
国木田独歩
通話
00:00
懐から小さく振動を感じた。
国木田からの着信だった。
泉鏡花
国木田独歩
泉鏡花
国木田が息をのむ声が電話越しでも伝う。
鏡花は胸元を強く掴む。
国木田独歩
心臓が大きく鼓動を打った。
ポートマフィアの禍犬……芥川龍之介。
敦から一度だけ彼のことについて聞いたことがある。
ポートマフィアの禍犬は恐ろしくて危険だから、鏡花一人ではとてもじゃないけど耐えられない、と。
だから、もし仮に会うことがあったら、探偵社に連絡をしなさい、とも言われていた。
泉鏡花
国木田独歩
泉鏡花
国木田独歩
国木田は力を抜くように声を絞り出した。
が、次の瞬間、突然声を荒げて鏡花の名を呼んだ。
国木田独歩
国木田独歩
国木田独歩
そこで通話は切れてしまった。
いや、切られてしまった。
それは、ポートマフィアの禍犬、
敦が切なそうに話していた、芥川龍之介の手によって。
芥川龍之介
鏡花は小刀を持ち、芥川から距離をとる。
一体どこから侵入してきた?
窓、扉を壊した形跡はない。
ならば、鍵で扉を開けて侵入してきたのか……?
鍵は、閉めていたはずなのに。
芥川龍之介
芥川龍之介
芥川龍之介
芥川龍之介
心を読まれたようで怖気付く。
だが、芥川の発言が妙で、鏡花はたずねた。
泉鏡花
芥川龍之介
芥川は口元に手を当て、咳き込んだ。
芥川龍之介
鏡花は頷く。
芥川龍之介
芥川龍之介
泉鏡花
芥川龍之介
芥川龍之介
芥川龍之介
腹の底からふつふつと熱い何かが湧き上がるのを感じた。
敦が攫われた。
考えていなかったわけではなかったが、こうして言われると腹が立ってくる。
鏡花にとって、敦は恩人だが、それ以上に愛していた。
だからこその怒りだった。
泉鏡花
自身でも驚くほどの低い声が出た。
芥川は微笑を浮かべる。
芥川龍之介
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