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二〇二二年 八月 ―――またの名を、葉月
鈴村総合病院、病室。
ピ、ピと電子音が聞こえる。
病室のドアからそっと中を除くと、 写真の通りの彼、山田さんが眠っていた。
──綺麗な顔。
配布された聖典によると、 なんと彼はオッドアイ。
今は目を瞑っていて見えないけれど。
澄んだ瞳が映すのは、 色素の薄い赤と紫だという。
私、十和は神の使い。
いわゆる、天使というやつだ。
死期の近い人間の未練をなくすお手伝いを生業としている。
天使の仕事には、 ルールみたいなものがあって、
名を、天空の掟。
それを破ると、罰が下る。 重度によってさまざまだけれど、 天使には謹厳実直な子が多いから、 最近破ったという話は聞かない。
――私をのぞいて。
どくん、と私の鼓動が響く。
幾多の未練を解消させてきた私だけど、未だ慣れることはできない。
私は深く息を吸った。
十和
私はそう声を掛け、クスクス笑った。
きっと規則的な時間に看護師さんに起こされるのが日常になっている彼にとっては、 不可思議なことだろう、って。
山田さん
十和
天使の方はね、と心の中で付け足す。
低くて心地の良い山田さんの声は、 いわゆる〝いけぼ〟というやつであろう。
カラコンかと疑うほどの神秘的な瞳も 〝いけめん〟らしい彼に調和していた。
山田さん
山田さん
苦笑いしている山田さんを見て、 まだ夜に決まってるじゃん、と 言ってしまいそうになった。
山田さんはベッドをリクライニングした。
──眠そう。
天使には、担当の人の事について書かれている本が1冊配られる。
それによると、
もうすぐ山田さんは 死ぬらしい。
けれど、まったくと言っていいほどそれが伝わってこなかった。
つまり、 全然普通に平然そうに見えるという意味。
とりあいず私は、 山田さんの未練を解決に専念することにした。