鉄の扉が軋む音が、耳の奥に刺さる。
ここは私だけの場所。
そう思っていたのに、扉の向こうから足音がひとつ、ふたつ。
嫌な気配がした。
ミカ
振り返ると、クラスメイトのミカがいた。
あいかわらずの明るい笑顔。
完璧な制服、乱れない髪型。
私は反射的に口角を上げて、愛想笑いをつくる。
日向
嘘。
この屋上は風が強すぎて、いつだって髪がぐちゃぐちゃになる。
しかもフェンスは低い。
風に押されて一歩踏み出せば、たやすく落ちられる。
ミカ
ミカの声に、ぞくっとした。
なんで知ってるの?
私が"演じてる"ってことを。
日向
笑顔のまま答える。
でも心はざわついてる。
ミカはそれ以上なにも言わず、ふいっと去っていった。
私は肩の力を抜いて、フェンスに手をかける。
落ちたいのか、飛びたいのか、自分でもわからない。
その夜、自室。
薄暗い照明の中、机の上には成績表と、書きかけの願書。
どれも「優等生」の証拠品だ。
私の"偽り"の栄光。
日向
口から漏れるため息は、呪いのように部屋の空気を重くする。
そこに、不意に声がした。
レイ
ベッドの上。
いつの間にか、見知らぬ少女が座っていた。
白いワンピースに、天使の羽根。
だけど、目つきは爛れていて、爪先には真っ黒なマニキュア。
日向
レイ
笑いながら、レイは鏡台の前へ歩いていく。
私の手鏡を手に取り、ふっと息を吹きかける。
鏡面が曇り、そこに映ったのはーー
首輪した、私自身だった。
レイ
レイは私にウィンクして、耳元で囁いた。
レイ
私は、黙って首を振る。
レイ
レイの言葉が、胸に刺さる。
演じることに疲れているのは本当。
でも、辞めたらどうなる?
誰も私を好きでいてくれなくなる。
褒められなくなる。
愛されなくなる。
レイ
レイはまた笑った。
だけど、笑顔の奥に、どこか哀しみを感じた。
夜の闇は、私の部屋を静かに包む。
窓の外にはネオンが瞬き、街の音が遠くに聞こえる。
私はベッドに潜りこみ、レイの姿を探したけど、もういなかった。
ただ、心の奥に小さな声だけが残っていた。
「デビルじゃないもん」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!