第2話
蒼太が奈々に恋をした日
春の終わり。 湿り気を含んだ風が校庭をなでるように通り抜ける、そんな午後だった。
その日、蒼太は“仕事”のため、ある学校に潜り込んでいた。 表向きは保護者として、裏では情報屋の依頼を受けた調査。 彼にとっては何でもない任務の一つだった。
だが そこに現れたのが、「奈々」だった。
運動場の端、落としたノートを探す少女。 誰にも気づかれず、独りしゃがみ込むその姿が、妙に目を引いた。
スカートの裾が少し泥で汚れていたのに、 彼女はそれを気にせず、風に飛ばされたページを何度も拾いに走っていた。
蒼太
あんた、落とし物なら先に足で押さえろ
無意識に声をかけていた。 自分でも、なぜ口に出したのかわからない。
振り返った奈々は、はにかむように笑った。 それは驚くほど柔らかく、眩しくて、 蒼太はその瞬間、心を撃ち抜かれたような気がした。
奈々
ありがとう、お兄さん……優しいんだね
その言葉が胸に残った。 「優しい」裏社会の人間にとって、 一番遠いはずの言葉。
蒼太は、帰りの車の中でずっと窓の外を見つめていた。 任務は成功したはずなのに、 胸のどこかが妙に落ち着かなかった。
たぶん、それが「恋」だった。
初めて、人を守りたいと思った。 初めて、名前をもう一度呼ばれたいと思った。
でも、奈々は「普通の世界」の人間だった。 蒼太のそばにいてはいけない。 だから彼は、想いを告げずに、そっと距離を置いた。
だがしかし蒼太は思いもしなかった。 数年後裏社会で奈々と再開するなんて…
どうだったでしょうか?
蒼太と奈々が再開することになった場所が 裏社会なのが少し悲しいですね
次回:牙を剥く獣たち
お楽しみに
バイバイ