深夜の東京を、一人きりで歩く
るなは、この時間が好き
「るな」って名前、…実は本名じゃないんですよね
本名、知りたいですか、?
う~ん…教えませんっ!
るな…いったい誰に話しかけているんでしょうね
無線イヤホンからるなの好きな音楽が流れてきます
「いなくなんないよねって」
「ここには誰もいない」って、
スマホを触って俯いたまま、かなりの人とすれ違いました
ですけど、誰にもぶつかることはありませんでした
まるで、るなが透明になったみたいに
本当に、『”ココ”には誰もいない』のかもしれませんね!
…もう、 5月も終わり、ですかね
妙にしめっぽい風がるなの髪をなびかせました
外の音は遮断されて聞こえず、
鬱陶しい排気ガスを宙に放っている鉄の塊の騒々しい音だって、
重たい重たいため息をつきながら重い足を必死に動かす生存ロボットの意味をなさない単語の羅列も耳に入らず、
曲が盛り上がるにつれて、司会に移り行く景色のスピードが速くなっていったんです
完璧な『演出』と
『完璧な』人生を
幼少期の面影は
誰も知らないんだ
んー…っ、そう…ですね
るなは変わっちゃいましたけど、
まだ〜…変わりきれてはないですね
この黒尽くめの激しい洋服だって…ほんとはあんまり好きじゃないです
もっと明るい色の…水色とか、ピンクとか…
でも、るなより先にいた先輩たちはみんな黒なので!
るなもそうしてます!
るな、るなの集まりの中で最年少なんですよね!
だから…仕事に出されなくて済んでます!
やったって、そのあたりのゴミ箱をあさって
使えそうなものとか取ってくるくらいです!
普段は、東京の人気のない駅の裏に居ます!
ほら真夜中はすぐそこさ
自然と足がステップを踏み始めて、
口が歌のメロディーをなぞります
「いなくなんないよね」
『ここには誰もいない』
くるりと一回転して、
濁って星が見えない夜空に手を伸ばします
今度は上ばかり見ていたら、
誰かにぶつかって転んでしまいました
ぶつかったのは、薄いジャンバーをがさつに着込んでいて、
いかにも不良っぽそうな、
長い髪の女の人
そのくらい大人っぽく見えるってこと…ですかね?
やった、ぁ…っ!
もう何度も何度も聞き飽きました
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度何度も何何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もも何度も何何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もも何度も何度も何度も何度も何度も
そんなるなのつぶやきは聞こえてしまったのでしょうか
その人は優しく笑って、手招きをしました
その人は深夜にふさわしくない太陽色に笑いました
見て見れば…その人のオレンジの綺麗な髪は、
昼でもないのに人工的なライトにキラキラ輝いていて、
「夜の女神様」るなは勝手にそんな名前を付けました
昼間は輝いて欲しくないな…なんて勝手で最低なことを考えながら
…不思議と、体の力は抜けていました
イヤホンはころんだ表紙に片方がはずれ、曲は止まっていました
返事をためらって、下を向いて片割れを拾おうとした時、
るなの左膝が割れていて、依頼らしい赤い液体が紺のハイソックスギリギリまで垂れていることに気が付きました
下を向いてそのまま、
手に顔を埋めました
意識した途端、痛みが襲ってきて、
生暖かい血の感覚が気持ち悪いんです
…体を小刻みに震わせて、
顔は伏せたまま縦に振りました
温かい、頼りがいのありそうな声が上の方から降ってきました
…このまま泣きマネをしていたら、
この人は…もっとその優しい声をかけてくれるんでしょうか
それとも…諦めて去ってくれるのでしょうか
どちらでもいい…という気はしません
この人には諦めという感情があって欲しくないなって…ありえないことなのに思ってしまいます
今日ぶつかっただけの…赤の他人
でも…るなはそう言いたくないです
今日出会えた…女神様
そう思い込みたいと思いました
…ふと、指の隙間から見えたセカイに、松葉杖が映りました
はっとして、視線を上げました
その人は…微笑みました
自虐的に、
悲しそうに
冷たい夜の東京に、
女神の温かい祝福があらんことを
コメント
1件
勉強してたけど、手を止めて読んじゃいました笑 ❄️彡が言ってる「夜の女神様」って素敵な言葉ですね ❄️彡が歌ってた曲私も好きなんですよ!偶然?ですかね ❄️彡周りに合わせなくて良いのに、、、 個性を出して良いのにって思っちゃいました!