オレが魔王でアニキが勇者

申し出に耳を疑う。

まさかそんな話がアニキから出ると思わなかった。

さも当然といった顔で、アニキは肩をすくめて見せた。

ケラケラ笑ってるが、うさん臭さが半端ない。

打算的なアニキのことだ。

これからお互い仲良くしましょうなんて

そんな単純な理由の申し出じゃないだろう。

言葉の真意を探ろうとにらみつけるオレの考えを

アニキも当然、すぐに察したらしい。

上機嫌を装っていた態度を

まるで蛇口の水を止めるように引っ込めて

アニキは腹が立つくらい自信ありげな笑みを浮かべた。

だろうな

アニキの言葉をさえぎって、ウーベと名乗った奴が手を挙げる。

ちなみに、まだ口はモグモグしたままだ。

口のまわりもかなり脂でギトギトになってる。

……せっかく頭良さそうなシリアス顔してても

これじゃカッコつかないなぁ。

……

…………

えー…………

怒られた……

嫌いとかいう次元の話じゃないだろ、これ。

自己中心的すぎて、ちょっとおかしいくらいだぞ。

……なんでこいつこんなにエラそうなんだ。

なんて？

つまり役立たず領主たちの宝物はみーんなこいつらが

自分たちの懐に収めていたわけだ。

……

普通に犯罪だろう、それは!!

どのツラ下げて収入うんぬんの話をしてるんだ!!

コイツらの面の皮は水族館のガラス並みにぶ厚いのか!!

かたくない。

この件に関しては断じてオレの頭がかたいわけじゃない！

見てみろ、アンセルムの顔！

歓待すべきか処罰すべきかで悩んでる!!

オレたちが頭かたいんじゃない。

お前らが脳ミソゆるゆるなだけだ。

ふんと鼻息荒く突っぱねてやると

アニキは苦虫を噛み潰したような顔をした。

どうせ考えてなかったんだろうな。

ちょっといい気味だ。

潔癖なんじゃなくて、飢饉や天災に備えてるんだ。

……って言っても、たぶん分かってくれないだろうな。

王がいつでも贅沢してると思うなよ。

ていうか

コイツの中の魔王軍はどんなイメージだったんだ。

なんでコイツら、勝手に物事を進めていくんだろう。

でもまぁ、確かにその提案は悪くない。

ようは

全員ぶちのめせばいい話だ。

パシンと音を立てて、アニキの拳が手の平を打つ。

やる気は充分らしいが上等だ。

ここで泣くまでぶちのめして

まずは宝物窃盗の賠償を約束させる。

それから、元の世界でも逆らえないようにしてやる……！

本当に、うちのアニキのツラの皮は

いったいどんだけぶ厚いんだろう。

もしかしたら皮がぶ厚すぎるせいで

脳ミソが少ないのかもしれない。

なんにせよ、勇者一行との親善試合が決定した。

アニキたちの背中に塩をまく気持ちで見送って

オレは執務室へ足を向ける。

選定時間は少ないが、そうむずかしいことじゃない。

相手の態度に油断せず

相手の実力を軽んじず

過大評価くらいでちょうどいい。

笑みを浮かべて、選定書にサインをひとつ。

元の世界での朝までに、全力で叩きつぶす。

それだけを期待して、オレはペンを置いた。