オレが魔王でアニキが勇者

魔王城　城壁内

特設闘技場

工兵たちに急ごしらえで作らせた闘技場は、

多少作りの荒さが目立つが充分な広さと強度でそこに建っていた。

むしろ、たった一晩でよくここまでの物ができたと関心する。

土木魔術の得意な連中ばかりを集めた部隊ではあるけど

それでも翌日が竣工期日ってのはかなりキツかったと思う。

今は泥のように寝てるだろうし、

あとでうまいものでも差し入れてやろう。

なにがいいか考えていると、アニキは唇を尖らせて言ってのけた。

相手が悪徳領主であるかどうかってだけで

基本的に略奪行為だってことが分からないのか、この勇者ども。

睨みつければ、拗ねた顔で全員が顔をそらす。

ホンットになんなんだコイツら!!

ちなみに、バールってのはこっちでの通貨だ。

1バールがおよそ123円くらいだから

ざっと300万程度盗んでた計算になる。

ニッと笑って、マントをひるがえす。

指を鳴らせば、まるで花火のように爆裂魔法が開会を告げた。

わぁと大きな歓声に包まれ、魔王万歳の声が城を揺らす。

正直、これだけ支持があるのは気分がいい。

アニキたちも軽くビビってるようだし、

アウェイ試合ぶりを実感させられていい感じだ。

ずると音を立て、中空の魔法陣から巨大な戦斧を取り出す。

柄に長い鎖分銅のついた銀色のそれは、

じゃらりと重々しい音を響かせた。

やがて地響きをあげて地面に突き立てられると、

周囲の観客たちからどよめきが上がる。

風斬り音を上げて振り回された戦斧を、

ギリギリのところでかわして声を上げる。

その紙一重の回避に観客は悲鳴にも似た歓声をもらした。

今度は戦斧の先端を槍のように突き出して攻撃するフィランダーに

ヨナスは情けない声を上げながら攻撃をかわすしかできない。

その姿に観客たちから笑い声すら上がるのを目にしておきながら

だけどアニキたちはにんまりと笑みを浮かべているだけだった。

攻勢に徹しているフィランダーを一度下がらせようとしたところで

アニキの声が闘技場に響いた。

ヨナスの顔がパッと華やぐ。

だけどその手は、未だに武器の一つも持たないままだ。

いったいどうやって攻守逆転を仕掛けるつもりだと思っていたら

フィランダーの悲鳴に、オレ、そして恐らく会場の観客連中まで

全員の目が一点に集中する。

動転するその手に握られた戦斧は、急激に茶褐色へと変色し、

見る間にボロボロと崩れ落ちていた。

会場内で、ヨナスとアニキたちだけが笑ってみせる。

その笑い声にゾッとしたものを感じているのか

観客たちは青ざめた顔で勇者一行を見つめていた。