真冬
そ、それって、どういう……?

ニコ
……俺の15歳の誕生日。

ニコ
両親を殺すよう組織に裏で仕組まれて……それを知らないまま、2人とも撃ち殺した。

ニコ
その後からも全部同じ。組織の人間に拾われて、俺はスパイになった

真冬
っ……!?

ニコ
……たしか一ノ瀬さんは、孤児でしたよね

彼方
……はい。生まれてすぐ親に捨てられたところを組織に拾われて、それからずっとスパイとして育てられました

ニコ
うちの組織は、大半がそうやって加入して育てられた人間がほとんど。けど稀に、俺らみたいに組織側の自作自演で入った人もいる。

ニコ
そういう子供達には、一つだけ共通点があるんだけど……何か分かる?

真冬
(僕の時は……両親が何らかの組織と繋がってるって言われて、自分の身を守る為にって、2人を殺して……)

……もしかして、子供の親も
無関係じゃない、とか?
真冬
(親を殺して身寄りを無くせば、子供は自然と孤児になる。そこを組織が拾って、恩人ヅラして操って……。)

真冬
(……もし、親を殺させることに、もう一つ別の理由があったら?)

真冬
……子供の親は?

ニコ
関係あるよ

真冬
(っ……これ以上、父さん達を疑いたくないけど……)

真冬
……裏の世界と、繋がりがあった?

ニコ
正解。

ニコ
子供達の親はみんな、組織と何らかの形で関わっていたか、そこから足を洗った人物だった。これが共通点

真冬
っ……!

ニコ
本当の目的は、そういう人達を消すこと。そうして孤児になった子供は、“ついでに”スパイとして育てられる。

ニコ
俺の場合は、2人とも裏組織の元関係者だったよ。

ニコ
……まふの父親、“相川秋来”さんだよね?

真冬
え……な、何で知って……

ニコ
……元同志。

ニコ
それも、昔俺が組織に引き込まれた理由と経緯を全部教えてくれて、一緒に組織から逃げた人だった

元同志って、まさか父さんも
スパイだったの……!?
真冬
(それに、ニコの手伝いをしたって……??)

ニコ
逃げ出した後、俺は万屋を設立して、裏の世界で生きることを決めた。

ニコ
でもあの人は、自分の家族と生きていくって聞かなくてさ。……こうなることは、全部知ってたはずなのに。

ニコ
だから、秋来さんの息子が組織に入ったって知った時、最初は死ぬほど恨んだよ。

ニコ
っ……お前さえ生まれていなければ、秋来さんが殺されることはなかったのにって

真冬
っ……

そう、だよね……ニコからしたら、
本当の恩人が殺されてるんだから
僕だってニコの立場なら、
その人を絶対許せなかったと思う
ニコ
っ、だけど、自分も全く同じことをしたから、まふが何も悪くないのも知ってる。

ニコ
悪いのは全部あの組織だって、本当は分かってた。

ニコ
っ……だから……!

ニコ
……もう、これ以上、殺しなんてさせられないし……。

ニコ
っ……俺が、殺せるわけないんだよっ……!

真冬
……!

真冬
……そっか

きっと“ニコ”って名前は、ただの
偽名じゃなくて、自分につけた枷の
ようなものだったんだろう
ニコは感情を持ってないんじゃない、
こうしてずっと隠し続けていたんだ
真冬
(だからさっきも、わざと僕を突き放すようなことを言って……)

真冬
(全部、あの組織のせいで……っ)

ニコ
っ……組織は、俺のことを全部知ってる。もしここで、俺が2人を殺せたとしても……俺も一緒に、消すつもりだよ。

ニコ
多分組織は、こうなることを全部見越してた。

ニコ
一ノ瀬さんは今回異例だったとしても、俺らのことは、元々消すこと前提で引き込んだんだと思う。

ニコ
組織の裏を知った一ノ瀬さんも、晴れて抹殺の対象になった。

ニコ
……どうする? 3人揃って、あいつらの言われるがままに死ぬ?

ニコ
それか、復讐でもしてみる?

真冬
……したところで、きっと意味はないよね。

真冬
うちの組織有りきで今の日本が成り立ってるのも事実だし、もしするなら、国に楯突くのと同等。

真冬
多分、無駄死にするだけ

ニコ
……うん、俺も昔はそう考えた。

ニコ
じゃあ……どうする?

真冬
……僕はずっと、いつ死んでも構わないと思ってたんだ。

真冬
でも……やりたいことができちゃったんだよね

この1ヶ月でできた……ううん、
昔からずっと、やりたかったこと、
叶えたい夢があった
真冬
そらるさん

彼方
……?

真冬
僕が音楽好きなのは、知ってますよね

彼方
うん

真冬
……ユニット、続けさせてもらえませんか?

彼方
……!

真冬
依頼としてじゃなく、今度は正式に。

真冬
僕の夢を奪った分、叶えて欲しいなぁ、なんて……。

真冬
……ダメ、ですか?

彼方
……俺だって、できるもんならそうしてあげたいよ。

彼方
だけど、俺が歌い手を始めたのは任務の一環。活動は全部組織に監視されてる。

彼方
俺達が生きてるって知ったら、組織が何をしてくるか……

ニコ
じゃあ、俺がどうにかしますよ

彼方
どうにかって……?

ニコ
うちは『何でも屋』ですから。大事な社長とその相方の“願い”くらい、叶えてみせますよ

真冬
……!

真冬
……ちなみに、対価は?

ニコ
何言ってんの、社長から対価取るわけないでしょ?

ニコ
他に、叶えて欲しい願いは?

真冬
僕、歌い手とかまだ分からないし、そらるさんみたいにソロ活動も始めた時、きっと1人じゃ何もできないから……。

真冬
僕の活動を、そばで支えて欲しい

ニコ
……それは……

真冬
できないなんて言わないよね?

真冬
……僕らを生かす為に、自分だけ犠牲になろうとか、考えてないよね?

ニコ
……!

ニコ
……ごめん、ちょっと考えた。

ニコ
でも、まふが望むならやめるよ

そう言って笑ったニコの表情は、
今まで見たどの笑顔より、
一番本物に見えた
真冬
……よし、じゃあ帰ろっか!

真冬
そらるさん、立てますか?

彼方
何とか。一応自分で応急処置はしたし

ニコ
すみません一ノ瀬さん、撃ってしまって

彼方
いえ、急所外してくれたおかげで生きてますから。

彼方
あと、“そらる”で良いですよ。“一ノ瀬”だとまだ呼ばれ慣れてないし。……っと……

真冬
ちょっ、無理しないでくださいよ?

ニコ
……。

ニコ
じゃあそらるさん。俺から一つ、お願いがあります

彼方
……?

ニコ
これは、まふも聞いてて欲しいんだけど

真冬
うん

ニコ
俺が受けた一番最初の依頼……最初の“願い”は、秋来さんからだった

真冬
え……父さんが?

ニコ
願いの内容はこう。

ニコ
「もし俺が通例通り殺されて、真冬が組織に入った時は、真冬のことを守ってやって欲しい」

ニコ
ちなみに、その時対価として受け取ったのが、この“万屋”っていう店名。

ニコ
……まぁ、今となっては呪いみたいなもんだけど

真冬
……!

真冬
(しかも、ニコの名付け親だったんだ……)

ニコ
そこで、そらるさん。

ニコ
俺が万屋を名乗っている限り、まふに何かあった時は、例え相方であろうと、貴方に容赦しませんから。

ニコ
もし俺に恨まれて殺されても、しょうがないと思ってください。

ニコ
これ以上誰かに呪われても、面倒が増えるだけなんで

彼方
……はい、肝に銘じておきます

何だか、重い呪いを受けている気も
するけど、父さんからのものだと
思うと、少し嬉しさもある
ニコ
じゃあ行きましょうか。

ニコ
外に車止めてあるし、それで……

真冬
えっ、ニコって車運転できたの?

ニコ
それくらいできなきゃ『何でも屋』なんてやってられないでしょ

真冬
え……馬? 駕籠……??

ニコ
俺のこと江戸時代の人かなんかと思ってる??

彼方
たしかにいつも着物だし、ちょっと意外っていうか……

真冬
うん、逆に洋服着てるのすら見たことないし……

ニコ
子供の頃からこっちの方が着慣れてるから、何となく落ち着くんだよ

真冬
子供の頃から……??

さっきから少しずつ自分のことを
話してくれるようにはなったものの、
相変わらず謎が多すぎるなぁ……
ニコ
ほら、俺のことより、今はそらるさんの手当が先でしょ。

ニコ
もうまともに病院すら行けないんだから、うちでどうにかしないと

真冬
そっか、病院も行けない……

彼方
……今ちょっと嬉しそうな顔しなかった?

真冬
えっ、そ、そんなことないですよ?

彼方
病院嫌いは相変わらずだな……

真冬
何でそんなこと覚えてるんですか!?

彼方
お前のこと忘れるわけないだろ

真冬
余計なことくらい忘れててくださいよ……

ニコ
……?

ニコ
あ……ごめんまふ。やっぱここまでっぽい

真冬
えっ?

真冬
は……?

彼方
な……。──っ!!

続けて、すぐ近くにいた
そらるさんまで、僕の腕を
すり抜けてどさりと倒れた
真冬
え……? な、何で……

真冬
ゔっ……!?

何かが背中を貫いて、
その箇所から熱が広がっていく
真冬
……に、こ……そらる、さ……

必死に2人に手を伸ばそうと
するけど、腕に力が入らなくて、
指先一つ届かない
段々視界がぼやけながら、
意識が暗闇に吸い込まれていく
???
“万屋”任務失敗、予定通り3名を処理しました。死体回収後帰還します

真冬
(……全部、組織に監視されてたっ……)

僕らが誰も殺せないことを
知っていて、組織が寄越していたんだ
真冬
(っ……こんな、最期なんて……。)

真冬
(……あぁ、そっか……。)

真冬
(僕らには、当然の報いか……)
