テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
深緒が走り去ったあとも、降谷零はしばらくその場から動けなかった。
静かな廊下。遠くで、捜査員達の慌ただしい足音だけが響いている。
でも降谷の耳には、別の声が残り続けていた。
ーーーーー
松田深緒
松田深緒
ーーーーー
降谷零
ゆっくり目を閉じる。胸の奥が、鈍く痛んだ。
怒っていた。
護衛を撒いたことも。 単独で動いたことも。 危険へ自分から飛び込んだことも。
もし犯人と鉢合わせていたら。 もし一歩間違っていたら。 そんな“もし”が、何度も頭を過ぎった。
——失うところだった。
その想像だけで、血の気が引く。降谷は静かに息を吐いた。
でも、本当に苦しかったのはそこだけじゃない。
ーーーーー
松田深緒
ーーーーー
あの言葉だった。
降谷は壁へ軽くもたれ、目を伏せる。
“一緒に背負う” そんな発想を、自分は最初から捨てていた。
危険から遠ざける。 知らなくていいことは隠す。 巻き込まない。 その方が正しいと思っていた。
いや。今でも間違いだとは思えない。 公安の世界は、深緒が思っているよりずっと危険だ。
知れば狙われる。関われば利用される。弱みになる。 だから遠ざけるしかない。
そうやって、ずっとやってきた。なのに。
松田深緒
ーーーーー
降谷はゆっくり目を開けた。 あんな顔をさせてしまったのか。自分は。
守っているつもりで。ただ、置き去りにしていた。
不意に、昔の記憶が蘇る。
病院の白い天井。無機質な光。血の気を失った顔で眠る風見。爆発の跡。帰ってこなかった仲間達。 そして。
何も知らされず、ただ結果だけを受け取る遺族の顔。
——知れば苦しむ。 ——知らなければ、少しでも傷は浅い。 そう思っていた。
でも、深緒は違った。
苦しくても知りたいと。危険でも、一緒に背負いたいと。 真っ直ぐにそう言った。
降谷零
小さく零れる。 脳裏に浮かぶのは、昔と変わらない軽薄そうな笑顔。
ーーーーー
萩原研二
萩原研二
……あいつなら、そんな風に言うだろう。
降谷は苦く笑った。
降谷零
あんな風に、人を安心させることは出来ない。 自分は、どうしたって先に危険を考える。失うことを考える。
だから抱え込む。だから隠す。
でも。深緒の言葉で初めて気づいた。
“守ることと、閉め出すことは、同じじゃない”
長い沈黙のあと、降谷はポケットからスマホを取り出した。画面には、風見からの未読メッセージが並んでいる。
風見
風見
降谷は短く返信を打つ。
降谷零
指が止まる。少し考えてから、もう一文だけ打ち込んだ。
降谷零
送信。 画面が暗くなる。降谷は小さく息を吐いた。
——帰ってきた時に、話そう。
ちゃんと。今度は、置いていかないように。
ーーーーー
深夜。誰もいない部屋。 静かなリビングへ入った瞬間、降谷は僅かに目を細めた。
テーブルの上。朝のままのマグカップ。ソファに置かれたブランケット。 そこにいるはずの人だけが、いない。
降谷はネクタイを緩めながら、ゆっくり息を吐いた。
疲れていた。何日もまともに眠っていない。それでも無意識に、冷蔵庫を開ける。 何か作るか。それとも簡単に済ませるか。
そこまで考えて。降谷の動きが止まった。
——深緒が帰ってくるかもしれない。 そんな考えが、自然に浮かんでいた。
降谷零
自嘲みたいに、小さく笑う。喧嘩したままなのに。あんな顔をさせたのに。
それでも、自分は、帰ってくる前提で考えている。
結局、降谷は二人分の夕食を作った。
でもその日。深緒は帰ってこなかった。
コメント
4件

一気に読ませていただきました🙏 めっちゃ面白くてニヤニヤしたり、号泣したり最高でした👍 今回は零くんが切なかったですね🥺 続きも楽しみに待ってます😆👍

零くん、、。゚(゚´Д`゚)゚。 続き待ってます!
花梨
148