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沙花叉クロヱ🎣
家の扉を開けた瞬間、目に入ったものが、信じられなかった 裸の男の足元に裸の妹が転がっていて 近くには引きちぎったような服が散乱していて 妹の口元と周囲に白濁とした体液と透明の体液が混じっていて 振り向いた男の顔には笑みが浮かんでいて やっと帰ってきたこいつじゃ満足できなかったんだ、なんて言いながら 沙花叉に手を伸ばしてきた 無言でその手を振り払い、妹に近づく 触れた頬に熱はなくて 触れた腹部は微動だにしなくて そこにもう、命が無いことは明白だった 視界が歪む 呼吸が出来なくなる 平衡感覚がおかしくなる ただただ暗い感情が湧き上がる 妹がいたから我慢していた 妹が父親を求めるから我慢していた 妹を傷つけないためにと我慢していた その妹を奪ったのなら 暗い感情を、恨みを、封じる存在がいなくなったのなら 我慢する必要が無くなったのなら 男を殺しても、何も問題はない 少しだけ、男に近づく 下卑た欲が浮かんだ顔に、躊躇う必要性を感じなくなって ほんの少し、感謝をする
沙花叉クロヱ🎣
呟いた瞬間に、慣れた痛みが頬を襲う どこか冷えた頭で、殴られた、と理解する 少しよろめき、膝をつく それを見て男は、愉悦の笑みを浮かべた 倒れた沙花叉の顔の前に、男は自分のソレを突き出してくる しゃぶれ、という意味だと解った 大人しく従うフリをし、ソレを口に咥え 力の限り噛んだ 男の醜い悲鳴が響いた 口の中に血の味が広がった 男が離れた隙をつき、ナイフを手に取る そして沙花叉は、男を 刺した
沙花叉クロヱ🎣
笑いが零れる 人を殺すとき特有の、昂り 殴ろうとする男の手を切る 飛び散る血に、男の悲鳴に、恍惚を覚える 少しずつ恐怖が見え始める男の目に、ナイフを突き刺す もう抗うこともできない男の首を切り裂く カヒュ、と息の漏れる音がした 地面に広がる赤いシミを見て 漸く、自分が男を殺したことを、実感した
沙花叉クロヱ🎣
口をついて出た、疑問 目の前の光景に、頭の芯が冷えていく 拠り所である妹を喪った 生きる意味が見つからなくなった 父親を殺した 俗にいう親殺しになった 妹に歩み寄る 口元の体液を袖で拭ってやる 一緒にいる、と誓ったのに 沙花叉だけ生きている事実が、苦痛だった ナイフを首にあて、掻き切った 掻き切りたかった 現実では手は動かず、ナイフは震え とても掻き切るなんてできなくて こんな時でも自分が大事か、と心の中で自分を嘲笑う けれど、沙花叉は妹を生き返らせる方法を知らなかった
沙花叉クロヱ🎣
漸く沙花叉は思い付いた 沙花叉と妹が一緒にいる方法 永遠に一緒にいる方法
沙花叉クロヱ🎣
暗い家の中、やけに声が大きく響いた 妹の手を取る ふと、思い出し
沙花叉クロヱ🎣
と、手を合わせた 改めて、妹の手を掴み、指を噛んだ 思ったほど硬くはなく、あっさりと歯が通った 男を噛んだ時と変わらず、血の味が広がる しかし、男と違って甘美な味だと感じてしまう 噛む力を強める 骨も簡単に砕け、口の中に指が転がり込む 咀嚼するとすぐに細かくなって 飲み込んだ時には、もう一本、と手を伸ばしていた
沙花叉クロヱ🎣
どれだけ時間が経っただろうか いつのまにか妹の遺体は消え失せていて どうしようもない満腹感と喪失感が、沙花叉を襲った 口に付いた血を拭うのも忘れ 玄関から外に出た
いつもと変わらぬ、夜の街 いつも通りに、殺す相手を探す なんてことはせず、ただ空を見上げていた 沙花叉の姿は血だらけで、誰も近づこうとなんてしなかった 警察に通報したほうが、なんて声もちらほら聞こえる
沙花叉クロヱ🎣
ぽつりと呟く 妹も、生きる意味も、何もかもを失ったのに 誰も沙花叉を救ってはくれない、という現実を再確認する ふと視線を感じ、辺りを見渡した オーロラの瞳と目が合って 直ぐに目を逸らした‘その人’を沙花叉は追った
沙花叉クロヱ🎣
‘その人’の背中に叫ぶ 一瞬周りを見た後、‘その人’は歩き去ろうとする
沙花叉クロヱ🎣
博衣こより🧪
もう一度、さっきよりも大きな声で話しかける やっと反応した‘その人’に、少しだけ安心感を覚えた ピンクの髪は風に揺れていて オーロラの瞳は困惑に満ちていて 獣の耳と尻尾は焦ったように動いていて 可愛らしい、なんて思ってしまった
沙花叉クロヱ🎣
沙花叉クロヱ🎣
そんな言葉が口をついて出る なぜか、断らない、と確信していた