博衣こより🧪
何の気なしに呟く 風が冷たくて、自分の体を軽く抱きしめた 信号待ちの人々が目に入る その中にポッカリと空間が空いていて 警察に通報したほうが、なんて声もちらほら聞こえる 気になって覗いてみれば 血まみれの少女がいて 虚な目で空を見上げていた 横目で彼女を観察する 黒のメッシュが入った灰色の髪 耳に付いた数多くのピアス そして、真紅の瞳が特徴的で ふと、見惚れてしまう
博衣こより🧪
不意に少女がこちらに顔を向け その真紅の目と、目が合う 気まずさと驚きで、目を逸らした そのまま人混みに紛れ 何事もなかったように歩き出す
沙花叉クロヱ🎣
誰かの声が響く まるで自分に声をかけられているようで つい、辺りを見渡してしまう 視界の端に、先ほどの少女が映り そんなわけない、と馬鹿な考えを振り払う
沙花叉クロヱ🎣
再度響いた声に もう一度辺りを見渡す 真っ直ぐにこちらを見つめる少女に ありもしない期待を抱く
博衣こより🧪
自意識過剰な質問をしてみれば 一瞬、安心した表情をして 少し悲しそうに笑う少女
沙花叉クロヱ🎣
沙花叉クロヱ🎣
笑顔の仮面を付け直して 縋るように彼女は言う 間近で接して、改めて違和感を感じる 夜の街では、馴染みのあるセリフ 痛々しい、頰の痣 身体中にこびりついた、血の跡 微かに鼻をつく、性の匂い それらは、10代の少女にあってはならないモノで こんな少女に、と怒りが込み上げる そして同時に、少女の瞳に魅せられた
博衣こより🧪
気づけば、そう返していて 一瞬瞳を揺らす彼女に、しまった、なんて思う
沙花叉クロヱ🎣
博衣こより🧪
博衣こより🧪
不安そうに聞く少女の手を掴み、歩き出す 周りからの視線など気にならないほど 言い訳などできないほど、心が弾んでいる まずは彼女を風呂に入れて、と帰った後のことを考える 大人しく着いてくる少女が、時たま、口を開いて閉じてを繰り返す
博衣こより🧪
尋ねてみても、返ってくるのは沈黙で とりあえず、進むことを優先した
博衣こより🧪
いつものように、奥に声をかける 恐る恐る、といった感じでついてくる彼女に 風呂場の場所を教え、着替えを渡し、入ってくるよう指示をした 少し嫌そうに従う彼女の背を見送る ソファに座り、天を仰いだ
博衣こより🧪
零れた言葉は、こよの感情を如実に表していて 心臓は、早鐘を打っていて 頰は、少し紅潮してしまっていて 名前も知らぬあの子に、恋心を抱いてしまったことを 明確に解ってしまった 一目惚れなんて信じて無かったはずなのに 恋愛に興味なんて無かったはずなのに 彼女の瞳に魅せられた 彼女の匂いに安心感を覚えた 彼女の身体に惹かれた 彼女の全てに心を奪われてしまった
博衣こより🧪
沙花叉クロヱ🎣
ベタ惚れじゃん、なんて思っていると 風呂上がりの少女が、顔を覗き込んでくる そして同時に、正体の判らぬ違和感を感じる けれど、その違和感より、別のモノがこよの興味を惹いた 着替えとして渡したぼくの服に染み付いた、ぼくの匂い それに混ざる、彼女の匂い 尻尾が揺れていることを自覚する
沙花叉クロヱ🎣
博衣こより🧪
博衣こより🧪
困惑した表情を浮かべる彼女をはぐらかし、問う 重要なこと、必ず聞かねばならないことだ 少し躊躇した後、口を開く彼女の声に、耳を傾ける
沙花叉クロヱ🎣
博衣こより🧪
当たり前のようにいう彼女に、驚愕する あまりにも安いのだ 細く、それでいて出る所は出ている、引き締まった身体付き あどけなさを含む、整った容姿 甘く溶けるような、特徴的な声色 3万、いや5万でもおかしく無いと思っていた
博衣こより🧪
博衣こより🧪
沙花叉クロヱ🎣
何も言えず、咄嗟に名前を訊く 言い慣れない様子に、彼女の暮らしてきた環境の悪さを察してしまう
博衣こより🧪
沙花叉クロヱ🎣
そこまで会話して 違和感の正体に気付く 彼女と目が合わないことに気付く 彼女が敬語を使っていることに気付く 頰に手で触れ、こちらを向かせてみても 視線だけは絶対に合わなくて どこか苦しそうに顔を顰めていて なぜか悲しそうに瞳を揺らしていて 咄嗟に、彼女を抱き締めた
沙花叉クロヱ🎣
沙花叉クロヱ🎣
驚き抵抗する彼女の、頭を撫でる 少しずつ、力が弱くなって 抵抗をしなくなったかと思えば 体制を変えて、こよの膝に座ってきて 軽く抱き締め返してくる彼女に 尻尾を振ってしまう
博衣こより🧪
沙花叉クロヱ🎣
話を切り出すと、彼女は直ぐに反応して 少し離れた温もりに、寂しさを感じる
博衣こより🧪
沙花叉クロヱ🎣
思い付いた呼び名を言ってみれば、笑いながら応える少女 その様子が可愛らしくて、もう一度抱き締める 今度は抵抗せず、受け入れてくれて 頭を撫でると、力が抜けていって 少し後には、規則正しい寝息を立てる少女が腕の中にいて 起こさないように、ベッドに運んだ
少女をベッドに寝かせた後 近くの椅子に座り、見慣れた番号に電話をかける 聞き慣れた声が耳に響く 世間話をして、手短に要件を伝える 心配する相手に、大丈夫、と通話を終えた 机に置いてある薬に伸ばした手が、空を切る そこに薬はなく、ただコップが一つ置かれていた 今日はちゃんと眠れるのか、と考える 意識的か無意識的か、ベッドに目を向けた
沙花叉クロヱ🎣
起こさないように近づき、寝ている少女の頭を撫でる そのまま電気を消し、彼女の隣に滑り込む 規則正しい寝息と、密着しているが故に感じる鼓動が、眠気を誘う 無防備に、安心して眠る彼女に やっぱり今日は薬がなくて良かったかも、なんて思ってしまう 明日は久しぶりに、良い朝を迎えられる予感がして ほんの少し、まだ見ぬ未来に、期待をした
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