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澪の朝は静かだ。

笑顔を貼り付けるのは慣れた作業。

挨拶も、相槌も。

教科書を開く手つきも完璧に整えられている。

でも、心は無音のまま。

ねぇ、霧島さんって、ちょっと冷たくない?

わかる〜、なんか壁作ってるっていうかさ。

前の学校でもそうだったんじゃない?

耳に入る声。

わざと聞こえるように言っているのも知ってる。

無視するのも慣れている。

反応したら負け。

彼女達は反応を餌にして、笑うのだから。

(ここでも同じ…か)

みおの心はいつからか諦めでいっぱいだった。

中学の時たった一度信じた友達に裏切られて、

笑い者にされてから人間関係は演技になった。

完璧な仮面を被り、誰にも見せずに過ごす術を覚えた。

でも、それを見透かしてくる目がひとつだけあった。

放課後。

いつものように無人の体育館。

ベンチの隅に座るひなたの隣へ、澪は黙って腰を下ろす。

今日は何故か手にボールが握られていた。

日向 翔陽

…久しぶりに、持ってみた。

ポツリと漏らされた言葉。

それだけで、澪の胸が少しだけ軋む。

霧島 澪

…怖い?

日向 翔陽

…わかんねぇ。怖い…けど、落ち着く。

日向 翔陽

手に馴染んでてさ。

手のひらの感覚を思い出すように、ボールをゆっくりと撫でるその仕草。

ひなたは今もバレーを、コートを

忘れていないのだとわかった。

日向 翔陽

ねぇ、霧島さんって飲んで毎回ここに来るの?

唐突な問いに澪は視線を逸らした。

霧島 澪

わかんない。ただ…静かで落ち着くから。

日向 翔陽

俺がいるのに?

霧島 澪

日向君がいるから静かなんだよ。

霧島 澪

余計なこと言わないから。

しばし沈黙が流れた。

そのあと彼は少しだけ笑った。

日向 翔陽

そっか。俺うるさいって言われてたのにな、昔は。

霧島 澪

そうなんだ…

日向 翔陽

うん。走り回ってて、叫びまくってて

日向 翔陽

バレーしか頭になかったからさ。

日向 翔陽

今とは全然違う。

彼の横顔はどこか遠くを見ていた。

今の自分と、かつての自分の間にある、

深くて長い溝を見つめているようだった。

澪もまたそっと目を伏せる。

自分も同じだ。

今の自分が本当の自分なのかすらもう分からない。

日向 翔陽

なぁ、霧島さんってさ

霧島 澪

…何?

日向 翔陽

誰かに裏切られたことある?

その一言に心臓が飛び跳ねた。

喉がきゅっと締め付けられて、言葉が出ない。

霧島 澪

あるよ_

やっと絞り出した言葉はかすれていた。

でも日向は何も言わずただ小さく頷いた。

そしてぽつりと呟いた。

日向 翔陽

俺も、ちょっとだけ…似たようなもん。

その声には少しだけ震えがあった。

澪は思った。

この人なら少しだけ、檻の中から

手を伸ばしてみてもいいかもしれない。

そう思えたのは生まれて初めてだった。

空を飛べなくなった烏と、君がくれた風

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