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井上 蒼空(そら)

おい

井上 蒼空(そら)

何やってんだお前

井上 蒼空(そら)

風邪ひくぞ

雨宮 雨(うるる)

何だっていいじゃない

雨宮 雨(うるる)

君には関係ない

井上 蒼空(そら)

毎回毎回雨が降る度に傘もささずに出ていく幼馴染を心配する身にもなってみろよ…

雨宮 雨(うるる)

…今日はお天気雨

雨宮 雨(うるる)

暖かいし、すぐ止むと思う

雨宮 雨(うるる)

…問題ない

井上 蒼空(そら)

はぁ…

井上 蒼空(そら)

家に来い

井上 蒼空(そら)

制服乾かすぞ、あとついでに風呂入ってメシも食ってけ

井上 蒼空(そら)

親、居ないんだろ?

雨宮 雨(うるる)

(コクリ)

井上 蒼空(そら)

気が済むまで打たれてこい

井上 蒼空(そら)

待っててやるから

雨宮 雨(うるる)

ありがとう…

井上 蒼空(そら)

もういいのか?

雨宮 雨(うるる)

うん

雨宮 雨(うるる)

君を長い時間待たせるのは良くないから

井上 蒼空(そら)

そりゃどうも

井上 蒼空(そら)

ほら、タオルにジャージ

井上 蒼空(そら)

急いで着替えねぇと風邪ひくぞ

雨宮 雨(うるる)

分かってるわよ…

井上 蒼空(そら)

ならいい

雨宮 雨(うるる)

雨宮 雨(うるる)

雨、止んだ

井上 蒼空(そら)

おー、ギリセーフ

井上 蒼空(そら)

傘ひとつしかなかったからどうすればいいか迷ってたところだった

雨宮 雨(うるる)

だったら私は濡れたかった

井上 蒼空(そら)

させるかアホ

井上 蒼空(そら)

今日はそれくらいにしとけ

雨宮 雨(うるる)

はぁ…

雨宮 雨(うるる)

梅雨も明けちゃったし

雨宮 雨(うるる)

これからぜんぜん雨ふらないんだろうな

井上 蒼空(そら)

そうかもしれないな

雨宮 雨(うるる)

井上 蒼空(そら)

ところでお前は

井上 蒼空(そら)

なんで雨に打たれたがる?

井上 蒼空(そら)

理由でもあんのか?

雨宮 雨(うるる)

あるにはある

雨宮 雨(うるる)

言う気は、ない

井上 蒼空(そら)

そっか

雨宮 雨(うるる)

君に言えなくて、申し訳ない

雨宮 雨(うるる)

ごめんなさい

井上 蒼空(そら)

いいんだよ

井上 蒼空(そら)

なんか重要な理由なんだろ

井上 蒼空(そら)

お前を見てたらわかるから

井上 蒼空(そら)

それでいい

雨宮 雨(うるる)

ありがとう

雨宮 雨(うるる)

お邪魔します

雨宮 雨(うるる)

やっぱり君の部屋、いつ見ても変わらないね

井上 蒼空(そら)

変わんなくて悪かったな

井上 蒼空(そら)

俺はこれがいいんだ

雨宮 雨(うるる)

井上 蒼空(そら)

はい、風呂入ってこい

井上 蒼空(そら)

それからメシ食って宿題も済ませるぞ

雨宮 雨(うるる)

宿題…うん、分かった

雨宮 雨(うるる)

蒼空のご飯って、いつも美味しい

井上 蒼空(そら)

なんだいきなり

雨宮 雨(うるる)

…いつも思っていることを口に出しただけ

井上 蒼空(そら)

…!

雨宮 雨(うるる)

母はこんな料理作ってくれない

雨宮 雨(うるる)

作ってくれないって言ったら失礼だよね

雨宮 雨(うるる)

ずっと働き詰めで、ほとんど家にいなくて、ご飯は家に帰ったって何も無いから

井上 蒼空(そら)

…親父さんが死んでから大変だな

雨宮 雨(うるる)

うん

雨宮 雨(うるる)

重い話をしてしまってごめんなさい

井上 蒼空(そら)

謝んなよ、きにすんなって

井上 蒼空(そら)

俺は、雨とメシを食えるだけでいいんだからさ

雨宮 雨(うるる)

雨宮 雨(うるる)

…ありがとう

井上 蒼空(そら)

母さんは?今日帰ってくるのか?

雨宮 雨(うるる)

ううん

井上 蒼空(そら)

泊まってけ

雨宮 雨(うるる)

それはちょっと

雨宮 雨(うるる)

ベッド、ひとつしかないし

井上 蒼空(そら)

頭使えよ雨

雨宮 雨(うるる)

井上 蒼空(そら)

敷ふとんあんだからどっちかがそれで寝ればいいだろ

雨宮 雨(うるる)

あー

雨宮 雨(うるる)

そうだったね

雨宮 雨(うるる)

じゃあ私、敷ふとんの方が慣れてるから

雨宮 雨(うるる)

敷ふとんにするね

井上 蒼空(そら)

おう

雨宮 雨(うるる)

おやすみ

井上 蒼空(そら)

おやすみ

下原 拓海

なあ、蒼空

井上 蒼空(そら)

なんだよ

下原 拓海

お前の幼馴染…

下原 拓海

えっと

下原 拓海

雨宮雨、だったっけ?

井上 蒼空(そら)

そうだけど

下原 拓海

あのさ、卒業アルバムで

下原 拓海

クラス全員の紹介、みたいなのを載せんだけどさ

下原 拓海

雨宮だけなんて書けばいいのかわかんないんだよ

井上 蒼空(そら)

分かんないだと?

下原 拓海

おう

下原 拓海

雨宮は、なんかその

下原 拓海

「神秘的で不思議な女子生徒」

下原 拓海

としかみんな言わなくてさ

下原 拓海

書きたくても書けねえんだ

下原 拓海

雨宮は見つからねえし

下原 拓海

助けてくれ…

井上 蒼空(そら)

分かったよ

井上 蒼空(そら)

雨になんてきけばいいんだ?

下原 拓海

「自分のことをどんな人だと思いますか?」

下原 拓海

ってやつで頼む

井上 蒼空(そら)

分かった

雨宮 雨(うるる)

「雨が大大大好きな変人」

雨宮 雨(うるる)

とでも書いておけば?

井上 蒼空(そら)

そんなセリフ書けるかよ

雨宮 雨(うるる)

…自分がどんな人

雨宮 雨(うるる)

分からないや

井上 蒼空(そら)

わからないのか?

雨宮 雨(うるる)

うん

雨宮 雨(うるる)

考えたことも無い

井上 蒼空(そら)

ひとつ聞かせてもらうけど

井上 蒼空(そら)

お前、雨好きなのか?

雨宮 雨(うるる)

…嫌いよ

井上 蒼空(そら)

じゃあなんでわざわざ?

雨宮 雨(うるる)

…秘密

雨宮 雨(うるる)

言う気は、ない

井上 蒼空(そら)

分かったよ、悪かった

井上 蒼空(そら)

っていう結果になりました

下原 拓海

なんも収穫できてないじゃねえか!!

井上 蒼空(そら)

あいつ昔からあんな感じなんだよ

井上 蒼空(そら)

俺でも手こずるんだからよ

下原 拓海

どうしよう…

井上 蒼空(そら)

想像で書けばいいじゃねえか

下原 拓海

は?

井上 蒼空(そら)

雨はいいよって言ってたぞ

下原 拓海

…なら

下原 拓海

雨宮に何も言われないといいけど

井上 蒼空(そら)

そんなうんちく言わねえよあいつは

井上 蒼空(そら)

よっぽど変なこと書かない限り問題ねぇよ

下原 拓海

はは、そうだな

下原 拓海

そうするよ

井上 蒼空(そら)

井上 蒼空(そら)

卒業おめでとう

雨宮 雨(うるる)

蒼空こそおめでとう

井上 蒼空(そら)

お前、大学行かずに働くんだってな?

雨宮 雨(うるる)

え、今更?

井上 蒼空(そら)

つい一週間前に知った

雨宮 雨(うるる)

ふふ、遅すぎ

井上 蒼空(そら)

悪かったな

雨宮 雨(うるる)

…私は

雨宮 雨(うるる)

この町を出て

雨宮 雨(うるる)

東京に行く

井上 蒼空(そら)

井上 蒼空(そら)

なら、最後に一つだけ

井上 蒼空(そら)

お前はなんで雨に打たれてた?

雨宮 雨(うるる)

最後の質問がそれ?

井上 蒼空(そら)

構わないだろ?

雨宮 雨(うるる)

まあいいけど

雨宮 雨(うるる)

…私の名前は雨で

雨宮 雨(うるる)

ずっと前からなんで雨って名付けられたのか

雨宮 雨(うるる)

知りたかった

雨宮 雨(うるる)

母に聞いたら

雨宮 雨(うるる)

「雨に打たれてみれば分かるわよ」

雨宮 雨(うるる)

って言ってた

井上 蒼空(そら)

お前はそれを実行したわけだ

雨宮 雨(うるる)

うん

井上 蒼空(そら)

そんなの冗談に決まってるだろ

雨宮 雨(うるる)

いや

雨宮 雨(うるる)

私にはわかった気がする

井上 蒼空(そら)

え?

雨宮 雨(うるる)

蒼空、雨が降ったあとの夜空はどうなるか知ってる?

井上 蒼空(そら)

綺麗に星が出る、だろ?

雨宮 雨(うるる)

ご名答

雨宮 雨(うるる)

綺麗に星が出るって言うことは

雨宮 雨(うるる)

大気中にある不純物が雨に取り込まれて

雨宮 雨(うるる)

空気が澄んで

雨宮 雨(うるる)

星もきれいにみえる

雨宮 雨(うるる)

だから母は

雨宮 雨(うるる)

私に「雨が降ったあとの綺麗な夜空のような何かを

雨宮 雨(うるる)

導き出して欲しい」って

雨宮 雨(うるる)

思ってたんじゃないかな

井上 蒼空(そら)

雨宮 雨(うるる)

そう思うとね

雨宮 雨(うるる)

雨も好きになれるし

雨宮 雨(うるる)

この名前も好きになれた

雨宮 雨(うるる)

雨は確かに冷たくて気持ち悪い時もある

雨宮 雨(うるる)

でも私はそんな雨がいつまでも好きでいられそうだわ

井上 蒼空(そら)

…雨、最後に言いたいことがある

雨宮 雨(うるる)

ん?なに?

井上 蒼空(そら)

俺は

井上 蒼空(そら)

そういう雨が大好きだ

雨宮 雨(うるる)

雨宮 雨(うるる)

そういう私、か

雨宮 雨(うるる)

君らしい言葉だね

井上 蒼空(そら)

はっ、よく言うぜ

雨宮 雨(うるる)

…私は

雨宮 雨(うるる)

二度とこの町に戻らないとは言ってないわよ

井上 蒼空(そら)

…帰ってくるんだな?

雨宮 雨(うるる)

うん

雨宮 雨(うるる)

私が向こうで働いて

雨宮 雨(うるる)

十分な給料を稼いで

雨宮 雨(うるる)

母に満足な仕送りをしてから

雨宮 雨(うるる)

ここに帰ってくる

雨宮 雨(うるる)

…5年後に私はこの町に帰ってくる

雨宮 雨(うるる)

必死に働いて昇進して帰ってくる

井上 蒼空(そら)

俺はそれまで待ってるつもりだぜ?

雨宮 雨(うるる)

井上 蒼空(そら)

お前が言わなくても待ってて欲しい、って思ってることくらいわかるっての

雨宮 雨(うるる)

さすが、私の幼馴染

雨宮 雨(うるる)

いや、彼氏かしら

井上 蒼空(そら)

雨宮 雨(うるる)

私、もう行かなきゃ

雨宮 雨(うるる)

またね、蒼空

井上 蒼空(そら)

ああ

井上 蒼空(そら)

またな、雨

雨がこの街を出てからもうすぐ5年がたとうとするクリスマスの日

俺はたった一人でイルミネーションを見に来ていた

大学を卒業し、社会人一年目も終わりを迎える

1年で3回も昇進した

雨に伝えたい

井上 蒼空(そら)

雨…

雨宮 雨(うるる)

何かしら?

井上 蒼空(そら)

!?

雨宮 雨(うるる)

気づかなかったのね

井上 蒼空(そら)

当たり前だろ

井上 蒼空(そら)

帰ってくるなんて聞いてなかったから…

雨宮 雨(うるる)

随分と驚いたご様子で

雨宮 雨(うるる)

私だって早く帰りたかったから頑張ったのよ…

井上 蒼空(そら)

なんか言ったか?

雨宮 雨(うるる)

ううん、何も

井上 蒼空(そら)

まあいい、とりあえず

井上 蒼空(そら)

おかえり

雨宮 雨(うるる)

ただいま

雨宮 雨(うるる)

それと、愛してるわ

やっと聞けた

俺がずっと聞きたかったこの言葉

俺の心の中が満たされたような気がした

俺は赤い顔をした雨をそっと抱きしめる

顔を赤くしたいのはこっちの方なのに

そんなことの前に体が動く

井上 蒼空(そら)

帰るぞ

井上 蒼空(そら)

また、あの日のように俺の料理食わせてやる

雨宮 雨(うるる)

ありがとう、期待してるわ

俺らの影はゆっくりとひとつになり、やがて離れる

そして俺らは、イルミネーションが光り、賑やかな人混みがある方と逆方向へ急いだ

この後の、甘い時間を楽しみにしながら…

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