梓
さあ、さきちゃん。今日も始めようか
さき
かく!かく!
梓
どんなこと覚えてるの?
梓
よーく思い出してね
さき
あう!
与えられたクレヨンで黙々と書き続けるさき。
さきが意思疎通できる手段はこの方法のみ。
さきには両親がいない。
いや、この前まではいた。
さきの両親はこの前____
殺人鬼によって殺された。
唯一の生き残りのさきは、ショックによって頭脳が著しく低下してしまった。
そのため、言葉も上手く話せない。
少しでも事件のことを思い出してもらうため、梓はカウンセリングをしている。
さき
みてみて!
梓
赤いのいっぱい使ったね
さき
うあー!
梓
やっぱりさきちゃんは上手だね
梓
明日も思い出しながら描こうね
さき
ほしい!
梓
私の頭についてるピンクのリボン?
さき
いー!
梓
じゃあ、さきちゃんが思い出したらあげる
さき
あーい!
次の日
さき
のーのー
梓
あら、さきちゃん早く描きたいのね。はい、クレヨン
さき
あー!
楽しそうに描き続けるさき。
きっと、絵を描くのが好きな子だったのだろう。
ただ、使う色は偏っている。
梓
さきちゃんは青色使わないの?
さき
んー!
さきは不満げな顔をしている。
「いらない」と梓に訴えているよう。
梓
さきちゃん、思い出せそう?
さき
おーう?
梓
嫌なこととか、怖いこともあるだろうけど、思い出したほうが……
梓
"面白いから"ね
梓は、不敵な笑みを浮かべた。
さき
かいたー
梓
これはだぁれ?
さき
ぱぱ!
梓
そっか、お父さんなんだね
梓
さきちゃんはとっても絵が上手だね
さき
なぁー!
梓
あ
梓
さきちゃんは赤色ばっかり使うからクレヨンが半分より小さくなっちゃたね
さき
いー!
次の日
さき
うおー!うお?
梓
さきちゃん、ちゃーんと思い出してね
さき
まー!
さき
やーやー
梓
どうしたの?書かないの?
さき
うー!
怒りながら赤色のクレヨンを投げ捨てるさき。
何か不満があるのだろう。
梓
少ないのがいや?
さき
これ、かく!
梓
え?何を使って描くの?
さき
あいー
さき
かいたー
さき
ゆー!
さき
んー!
さきの揺さぶりに応えない梓。
絵を見てもらえないことに癇癪をおこすさき。
さき
んー!うーうー!
そして、さきは自分の描いた絵に涙を染み込ませた。