【プロローグ】 ――また、眠れない夜が始まる。 蒼(そう)はベッドの上で天井を見つめていた。 カーテンの隙間から覗く街灯の光が、ぼんやりと部屋の壁を照らしている。 時計の針は、もう夜中の3時を指しているのに――眠気の気配は一向に訪れない。 まぶたが重いくせに、頭だけが冴えわたるような奇妙な感覚。 呼吸すら苦しく感じるこの夜を、彼はもう何度も越えてきた。
篠原蒼
誰に言うでもなく、呟いたその声も虚しく部屋に溶けていく。 不眠症になって、どれくらい経つんだろう。 最初は「ちょっと寝つきが悪い」くらいだったのに、今では一睡もできない夜が当たり前になっていた。 学校では当然のように居眠りどころか、意識が飛びそうになる日々。 でも、誰にも言えなかった。心配されるのも、迷惑をかけるのも、怖かったから。
篠原蒼
その時
???
突然、どこからともなく 囁くような声が響いた。 蒼はビクリと身体を震わせる。
篠原蒼
当然、部屋には自分以外、誰もいない。そう思っていた。 けれど――いつの間にか、窓辺に 誰かが座っていた 白く柔らかそうな髪に、淡い水色のワンピース。 まるで夜の霧みたいに、ふわりと浮かんでいるように見える少女。
???
そう微笑んだ彼女の瞳は、どこまでも優しく、けれどどこか切なげだった。
篠原蒼
震える声でそう問いかける蒼に、少女はゆっくりと近づきながら言った。
ネムリ
――こうして、蒼と“睡魔”たちとの奇妙な夜が、静かに幕を開けた。
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