すみれ
水の中に沈む棺桶には、巫女達が愛し合った写真が入っている。
黒川真魚と神崎直哉は、二人とも看取りの能力を持っていた。
真魚の能力は人の心を読める程度だったが、直哉の場合は死者が見えると言うものだった。二人は恋人同士であったが、ある日の事をきっかけに、直哉は真魚に対して不信感を抱き始める。
ある朝、いつものように目覚めた直哉は違和感を覚える。ベッドの隣を見るとそこには誰もいない。慌てて部屋を出るとそこはまるで廃墟のような光景が広がっていた。
家族の姿も無く、街にも誰一人見当たらない。外に出るとそこは深い霧に包まれていた。
ふと足下を見るとそこに誰かがいた。黒い影に覆われた人間の形をした何か、それはゆっくりと立ち上がるとこちらを見た。その姿に見覚えがあった。それは自分の死体だったのだ。
驚き戸惑っていると、今度は足元から別の音が聞こえてきた。そちらを振り向くと、また別の死体が横たわっていた。それも自分が殺した相手だ。
その時になって初めて気が付いた。ここは死後の世界なのだと……そして自分は死んでしまったのだという事を理解した。
だが何故ここにいるのか?どうしてこんな場所に来てしまったのか分からない。とにかくこの場所を離れようと歩き出すが……。
(ここはどこだろう?)
暗い闇の中に光が見える。どうやらその光が出口になっているようだ。
(行ってみるしかないよね)
恐る恐ると光の方に歩いていく。そこは洞窟のような場所で天井が高く、広い空間が広がっていた。そこに一人の男が立っている。
「お前さんは誰だ?」
「あぁあのすいません」
男は不思議な格好をしている。黒い着物を着ていて頭には笠を被っていた。
「あんまり驚かないんだな」
「えぇまぁちょっと驚いていますけどね」
驚くよりも困惑の方が大きい。
「それで貴方はどちら様ですか?」
「俺は夜泉だ」
「ヨミ?よく分かりませんがとりあえず人ではないんですね」
「そうだな。簡単に言うなら神様みたいなものだ」
自称神を名乗る男を見て思う事がある。
(何この人?胡散臭い)
胡散臭そうな男に対して警戒心を解かない。そんな様子を見ていると夜泉と名乗った男は肩を落としていた。
「おいおいなんだ?俺が怖いか?安心しろ何もしねぇから」
「信用できないですけど、今は状況がよく分かっていないんで。少し話を聞かせてくれますか?」
「おぉいいぜ。話せる事は全部教えてやるよ」
こうして二人の話は始まった。
「まず聞きたいのですがここは何処なんでしょう?」
「ここか?ここはお前さんの居た世界とは違う世界。つまり異世界って奴だよ」
「やっぱりそうですよね。でもどうして僕が此処
