月讀神社から帰ってきて、
再び広間で瀬様と向かい合って座る
瀬
まずBoEとは、“Bringer of Eclipse”の略称です。その意味は、“闇をもたらす者”。
瀬
魔法界の光、太陽であるオルコットを月で隠し、世界を闇に染める……そんな意味が込められているそうです
Bringer of Eclipse……
闇をもたらす者……
百瀬
(相っ変わらず不穏な空気漂ってんな、“BoE”……)
瀬
そして肝心なのが、このBoEの正式名称です。
瀬
“闇属性至上主義者連盟”。これが百瀬さん達が追っている、BoEの正体。
瀬
……ここまでの情報で、彼らの目的は何となく分かったのではないでしょうか?
百瀬
……魔法界への……復讐?
瀬
それもありますね
百瀬
“も”……ってことは、他にも?
瀬
はい。
瀬
彼らの目的は、“オルコットへの復讐”。そして、“魔法界の奪還と征服”です
百瀬
なっ……
復讐と、征服……もしかしてBoEは、
遥か昔の追放のことを根に持ってる?
罪を犯したのはうちの家だけだから、
自分達まで追放されるのはおかしいって
怒って、それで集まったとか……
百瀬
(けど、何で千年も経った今更……?)
瀬
……確かに、この時代にわざわざ掘り返すことでもないと思うでしょう。
瀬
しかしこれは、今更ではない。寧ろ千年以上前から今世まで、長きに渡り企てられていたものです
百瀬
え……
瀬
考えてもみてください。BoEの敵は魔法界。小さくとも個々が確実に力を持った、一つの“世界そのもの”ですよ。
瀬
そんなところに無策で乗り込んでも、一蹴されてしまうだけです
そうか……奴らの敵は“世界”だから、
長い時間をかけて計画して……
……ただそれにしても、やっぱり
千年は時間かかりすぎじゃないか?
瀬
それだけでなく、さらに闇属性には、“結界”という大きな壁もあります
百瀬
あ、結界……
百瀬
(復讐とか征服以前に、ここを突破できなきゃ元も子もないから……)
でも、これも千年あれば頑張って
解決できそうな気もするけど……
瀬
百瀬さんは、現在普通に魔法空間や魔法界に居られるとのことですが……以前はどうでしたか?
百瀬
前は……結界に弾かれてばっかで、慣れるまでまぁまぁかかった……。
百瀬
……あ
前までの結界に苦戦していた自分を
思い出して、とあることに気づく
百瀬
BoEって、千年間ずっとあの結界に苦戦してたんすか……?
瀬
恐らくそうです。対闇属性の作用が弱まり、今は力技ですり抜けられるとのことですが……それでも千年で進歩したのは、ここまで。
瀬
そもそも結界が弱まったのが、百数十年前……たった最近の話です。そして、それまでに結界の突破法は一切見つからなかった。
瀬
その為、恐らく彼らの計画が進み始めたのは、実質100年と少し前になります。
瀬
それ程までに完璧な結界が、何故今になって突然大きな綻びを生じ始めたのかは、私にも分かりかねますが……
百瀬
あ〜……
百数十年前って言ったら、天月君が……
というかベルが暴れてた時代だ
百瀬
(壊して直してを何回も繰り返してたら、そりゃそうもなるよなぁ……)
瀬
……百瀬さん……今、結界を壊すと聞こえたのは、私の気のせいですよね?
百瀬
え?
心なしか、目を見開いてるように
見える……のは、流石に気のせいか
百瀬
あ〜……っはは……ちょーっと、史上最強の友人が……
確かに、そんな最強の結界が
力尽くで破壊されたって聞けば、
こんな反応にもなるよな……
百瀬
(恐るべし、史上最強……)
瀬
……あぁ、なるほど……“鈴音様”なら、辛うじて納得はいきますね……
でもそうか、あの結界を初めて
突破したのはベルで、それも彼にしか
できない、相当な力技だったから……
百瀬
(そうでもしないと破れないものだったから、BoEは長い期間苦戦してたんだな……)
瀬
えぇと……話を戻しましょうか。
瀬
結界の突破法が発見されたのは、つい最近。しかし現在も百瀬さんのようになるには、まだまだ時間を要しますよね。
瀬
結界の壁は辛うじて越えられるものの、まだまだ高いことには変わりない。さらに綿密な作戦や強力な戦力も必要となります。
瀬
その為BoEは、千年もの時間をかけ、しかしその意志は決して消えることなく、存在し続けました
なるほど、結界の突破と作戦と、
諸々全部に時間を費やして、それで
こんなにかかって、ようやく今……
瀬
BoEについて、詳しい内部情報もお伝えしておきますね。
瀬
BoEという組織を立ち上げ、千年前から現在に至るまでその頂点に立つのは、現“影山家”。元の名を、“サーペンツ家”と言います
百瀬
サーペンツ……?
あれ、なんかうちの元の名前の
サージェンツと似てるような……
瀬
お察しの通りです。サージェンツとサーペンツが似ているのは、しっかりとした理由があります
百瀬
あ、そうなんすか?
瀬
はい。元々この2つの家は、闇属性一族の二大家門として、共に一族繁栄の責務を担っていた過去があります。
瀬
サージェンツ家はオルコットに仕え、サーペンツ家は一族を支える。
瀬
その為サーペンツの使いは、一族への想いがより一層強かったと言えるでしょう。
瀬
お互いの思想の差異により、サージェンツとサーペンツは、度々衝突することもあったそうです。
瀬
“オルコットに仕えるのではなく、自分達の一族の為に仕えろ”という風に。
瀬
このような過去があれば、彼らが“闇属性至上主義”なんてものを立ち上げることにも、納得がいきますよね。
瀬
確かに過ちを犯したのはこちらの責任。サーペンツ含め他の家門は、完全に巻き添えという形で追放されました。
瀬
このことにサーペンツ側が文句を唱えるのは当然です。……しかし私達は、過去にこのような誓約を交わしています。
瀬
“一族の誰か1人でも赦されない過ちを犯したのならば、我々は一族全員で連帯責任を負う”と
百瀬
一族で……?
瀬
本来は、一族の団結を深める為に交わされたものだったのでしょう。
瀬
ですが当時は、全ての闇属性の家門がこの誓約を守りました。
瀬
……しかし、サーペンツだけは違った。こうして今も、諦めずに魔法界へ戻ろうとしています。
瀬
きっとそれも、闇属性の為なのでしょう。現にこの鳴海家本部も、一度BoEの勧誘を受けたことがあります
百瀬
えっ、うちを?
鳴海は禁忌を犯したサージェンツの
末裔、オルコットと同じく恨まれて
いてもおかしくないのに、何で……?
瀬
あちらの考えによれば、“今”を現世で生きる私達は、彼らと同じ“被害者”なのだそうです。
瀬
そして彼らは、鳴海家の予知能力目当てでもありました。予言書の存在も知っており、幼い貴方を狙ったこともあったそうです
百瀬
俺……?
百瀬
……っ! え、まさか……!
瀬
お察しの通りです
俺が昔BoEって単語を聞いたことが
あったのは、きっと長崎支部の方にも
勧誘に来たことがあったからだ
しかもその頃は、丁度俺がこの鍵を
受け継いだ時期と重なる
多分その時期には既に結界慣れしてる
人もいただろうから、予言書がある
建物の鍵のことも知ってたんだろう
百瀬
(それで、うちでは代々鍵を継いでたから……。)
百瀬
(しかも、俺がまだ何も理解できない子供の内に……!)