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宗一
と言ってみるものの返事はない。一人暮らしなんだから当たり前だ。
宗一
スーパーで買ってきた3割引の秋刀魚をレンジで温める。
宗一
なんで気づかなかったのか。
いや、思い返してみるがそこにそんなものはなかった。
宗一
床に落ちていたウィッグ。綺麗なロングの髪。ウィッグが落ちていた……わけではない。
なんせそれは直立していて、スタンドに掛けられたように綺麗な垂直だ。
それもちょうど部屋のど真ん中に。
宗一
なんで日本人は見知らぬ髪の毛というものにここまで恐怖を抱くのか知らんが、手に湧いた汗はぬめりと気持ち悪かった。
恐る恐る髪を掴む。
軽く引っ張ると、声にならない悲鳴が漏れた。
宗一
宗一
と言いながらもそれが人形ではなく、生きているものだとわかっていた。
なんせ大きくつぶらな瞳は視線を変えてじぃっと俺を見詰めているし、
ぱくぱくと開く物言いたげな口はなにかを俺に伝えようとしていた。
宗一
全力で現実逃避した。
シャワーを浴びて頭を洗っている最中も、さっき見た強烈な光景が鮮明に焼き付いていた。
床から女の子が…あれは…なんだ、生えてるのか?
首元は床に根を張っていた。
まぁでもきっとしかしあれは見間違いで、俺は大変お疲れなのだ。
たかだかコンビニ勤務のフリーター、されど珍客の連続でメンタル面はボロボロなのだ、きっと。
今日は煙草の銘柄を覚え間違ってるおっさんしか来なかったけど。
メビウスっていうから何度もメビウス持ってったのに違う違うと、最終的に欲しがってたのがマルボロだと知って驚いたもんだ。
自信満々に
おっさん
いえ、それはマルボロです。と面倒だから言わなかった。
シャワーを浴びてさっぱりした俺は体を拭いてリビングに戻る。
いやリビングとか見栄を張った、なにせ我が家はワンルームだ。
部屋は一つしかない。
だから逃げ場はなく嫌でも目に入る。
たった一つしかない部屋のど真ん中に、床から生えてきた女の子。
宗一
ただ、不思議と。
段々と恐怖が和らいできたのはなぜだろう。
その女の子が目を奪われるほどに綺麗だからだろうか。
奇妙で不気味な存在なのに、理想を体現したかのような美しさだからだろうか。
宗一
女の子
宗一
女の子
宗一
話しかけて暫く待ってみる。
すると女の子はとても小さな声で、掠れながらも、必死に声を振り絞った。
女の子
宗一
女の子
覚えたての舌ったらずな赤ちゃんのような言葉。
宗一
宗一
女の子の前に皿に移したサンマを置く。
すると彼女は手がないため、犬のように顔を近づけて魚に食らいついた。
宗一
犬食いしてるから当たり前だが口の周りが汚れているし、食い散らかして床に魚が飛び散る。
彼女が食べ終わった後に床を掃除して、口の周りをハンカチで綺麗にした。
その間、彼女は一切の無表情で、そうされることに慣れているかのような、或いは気にもとめてない様子だった。
白い陶器のような肌に直接手が触れる。
すべすべで、つるつるで、潤った肌に指先が当たった途端、脳に稲妻のようなものが落ちた気がした。
宗一
一度触れれば抗いようのない欲望。
ただもう一度触れたくて、撫でてみたくて、この手で彼女を感じていたくて、
その想いのままに優しく頰をなぞり、
なぜか指を口に滑り込ませた。
すると女の子はぺろぺろと舐めて、慈しむように舌を絡めさせて、
宗一
宗一
彼女の口に入れた第一関節より向こう側は、ころころと小さな舌の上で踊っていた。
宗一
走る激痛と溢れる汗が顔を苦痛で歪ませる中、心の奥で静かに産まれた言葉に気づいてぞっとする。
痛みを、なによりその言葉を忘れるように頭を大きく振り払うものの、
どちらも消えてはくれなかった。
宗一
もっと、もっと。