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鳴沢 真由子
表に出さないように努めたが、声音に若干の呆れが滲んだ。
山崎 母
向かいに座る山崎さんが疲れたようにため息を吐いた。
女子大生と男子中学生が交際している話 シーズン2 第5章
___1年近く前。 柚月と交際相手の仲を裂こうと、ある事ない事吹聴して回ってた時期に知り合ったのが山崎さんだ。
変にベタベタせず、私にとっては心地良い距離感を保ってくれるので現在も交流が続いている。
今日も買い出しにスーパーに赴いたら ばったり出会った。
いつもなら数分立ち話をしてそれぞれの買い物に戻るのだが、今日は違った。
「今時間あるか」と尋ねられ、あると答えると「少しだけお茶しませんか」と返って来た。
そして会計を済ませ、近くの喫茶店に入り今に至る。
山崎 母
山崎 母
山崎 母
鳴沢 真由子
山崎 母
山崎 母
山崎 母
山崎 母
……つまり私もその立食パーティーに向けて何か用意しろ、と言うことだ。
と言っても別に気を揉むほどじゃないな、と思っていると、まだ続きがあるらしい。心無しか憂鬱そうに山崎さんは口を開いた。
山崎 母
山崎 母
こういう提案をする女が昔から嫌いだ。
ラインで伝えれば事足りる物を、わざわざ対面で決めようなどマウントを取る為としか思えない。
ため息を堪(こら)えながら山崎さんを見やると、山崎さんはひたすら申し訳なさそうに小さくしていた。
その様子から吉田某(なにがし)との力関係が大体把握出来た。 誘われてる、と言ったがもう決定事項でこちらに拒否権は無いのだろう。
鳴沢 真由子
山崎 母
山崎さんは何度も頭を下げる。
そしてやがて小さくため息を吐いた。
鳴沢 真由子
山崎 母
平日の午前中で店内に客は私たちしかいないが、それでも山崎さんは辺りを窺ってから肩を潜めた。
山崎 母
山崎 母
山崎 母
山崎 母
山崎 母
鳴沢 真由子
山崎 母
山崎 母
鳴沢 真由子
堪えていたため息が零れ出た。
山崎 母
それは客観的に見ての景色だ。
周りの人間がなんでも肯定するから、自分の意が通ることを当然と思っているのだ。
虫酸(むしず)が走る。 私の一番嫌いなタイプの人間だ。
そして非常に面倒臭いがランチ会とやらの日を迎えた。
わざわざ時間をかけて化粧するのも馬鹿らしいので、普段の格好で山崎さんと指定された店に赴く。
指定された時間の5分前に店に着いたのに、私たちが最後のようだ。
本日のランチが記されている看板の前に屯(たむろ)していた5~6人ほどの女から一斉に無遠慮な視線が向けられる。
取り巻き 母
吉田 母
笑いを含んだ声と共に一団から自己主張の強い身なりの女が歩み出て来た。
ファーコートに両手を突っ込んだ女の視線が私の全身を さっと撫でる。
吉田 母
吉田 母
ラメ入りのアイシャドウを塗りたくった女の目元が三日月のように細くなる。
吉田 母
一団から忍び笑いが漏れる。 隣に立つ山崎さんが一歩前に出た。
山崎 母
吉田 母
打って変わって冷たい声で山崎さんの抗議を叩き折ると、女は目だけ山崎さんの方に向けて腕を組んだ。
吉田 母
山崎 母
吉田 母
山崎 母
女はコートを翻して踵を返すと声のボリュームを上げた。
吉田 母
くだらない人間ほど序列や身分を意識する。 メニューを広げている時もそれは如実に表れた。
意味不明だが店員を呼ぶ前に、自分が注文する物を順に発表しないといけないらしい。
他の保護者は時折吉田さんの顔色を窺いながら、さりげなく吉田さんより値段の低い物を選んでいた。
山崎さんも遠慮がちにメニューの一角を指差した。
山崎 母
その瞬間、同じ物を注文した保護者が聞こえよがしの ため息を吐いた。
そして大袈裟な渋面を作る。隣の保護者が小さく嗤う。 山崎さんが申し訳なさそうに俯いた。
ため息が出そうだ。いや、出た。 こういう事をされるといつまで経っても食事に ありつけない。
鳴沢 真由子
渋面と忍び嗤いが動きを止めた。
このランチ会に置いて、私と山崎さんは最も下の身分の者らしい。 刺すような視線が一斉に向けられた。
鳴沢 真由子
取り巻き 母
鳴沢 真由子
鳴沢 真由子
鳴沢 真由子
鳴沢 真由子
渋面と忍び嗤いが顔を赤くして黙り込む。他の保護者も2人と私との間で視線をさまよわせていた。
そして彼女達の戸惑いの視線はボスである吉田さんに集まる。 吉田さんは頬杖をついて私に顔を向けた。
吉田 母
吉田 母
取り巻き 母
吉田 母
私は1つ息を吐いてやると、店員を呼ぶべく店の奥に目を遣る。
私が視線を外す間際、吉田さんの笑みが消えたのを視界の端で捉えた。
そして吉田さんは小さく舌打ちした。
クリームパスタと違い、私と山崎さんとその他1名が頼んだパスタは あっさり系にカテゴライズされる。
故に一番早く卓に並んだ。
山崎 母
山崎さんが私の分のフォークとスプーンも用意し手渡しながら、こそっと頭を下げた。
すると目敏(ざと)くその光景を見ていた取り巻きの1人が咎めに入る。
取り巻き 母
吉田 母
吉田さんが貼りつけたような笑みを私に向ける。
鳴沢 真由子
吉田さんの目が すっと細くなったが、さっさとパスタを口に運ぶ。
吉田さんは小さく鼻を鳴らしたが、切り替えるように声のボリュームを上げた。
吉田 母
吉田 母
吉田 母
吉田さんはスマホを操作して自慢のお菓子とやらのお披露目会を始める。
私は吉田さんの対角線上に座しており、また吉田さんはスマホをテーブルに置いて操作しているので、私からスマホ画面は見えない。
さらに取り巻き達が身を乗り出すなどして さりげなくバリケードを作る。
吉田 母
至極幼稚だ。 何が楽しいのだろう。
やがて他のパスタも運ばれて来たのでバリケードはあっけなく瓦解した。
吉田さん達は私たちの存在を完全に無視してお喋りに興じていたが、私が冷水を口に含んだ瞬間__
吉田 母
出し抜けに水を向けられた。 しかし発言主である吉田さんの視線は手元のパスタに注がれている。
吉田 母
山崎 母
吉田 母
吉田さんは紙ナプキンで口元を抑えるとようやく顔を上げた。 その目は三日月のように細められている。
吉田 母
鳴沢 真由子
吉田 母
鳴沢 真由子
吉田 母
鳴沢 真由子
吉田 母
吉田さんは紙ナプキンで抑えたまま周りの仲間と嗤いさざめく。 私はにっこりと笑ってみせた。
鳴沢 真由子
言葉尻を捕らえただけの、自分でも恥ずかしくなるほどの屁理屈だと思う。
しかし相手もくだらない屁理屈を振りかざしているのだ。 屁理屈に理論で対抗してはいけない。
事実効果はてきめんだった。 嗤いさざめいていた取り巻き達は一様に押し黙り
チラチラと吉田さんの顔色を窺っている。
___吉田さんが紙ナプキンをテーブルに置いた。 能面のように表情の無い顔が露(あらわ)になる。
しかし次の瞬間、その口元は弧を描く。
吉田 母
ぐしゃり と。 吉田さんがテーブルに置いた紙ナプキンを握った。
吉田 母
下を向いたまま吉田さんは低く笑う。 紙ナプキンを握る手は震え、一筋の血管が浮いた。
吉田 母
吉田 母
吉田さんは紙ナプキンを手の中で小さく丸めると、ようやく顔を上げた。
目と口は等しく弧を描いているが、放たれる空気は冷たい。
吉田 母
「ほら見て。このガトーショコラ美味しそうやん」
「………澪」
「ほらトリュフチョコも」
「澪!」
「ん?いいのあった?」
「いいのあった?じゃないよ! なんで私チョコカタログなんか見てるの!?」
「? もうすぐバレンタインやから柚月君に何あげるか考える為やろ?」
「なんで私だけ市販のチョコなの!! 澪は手作りするんでしょ!?」
「うん」
「私も手作りしたい!」
「去年も一昨年も!柚月君が病院送りになるって説得されて結局市販のやつしか渡せなかったんだよ!?」
「しょうがないやん。のぞみはピータンとスライムしか作れへんねんから」
「違うもん作れるもん! 切って溶かして固めるだけでしょ!
もう怒った今年は絶対手作りするからね!!」
山崎 母
山崎 母
ランチ会の最中(さなか)。 皆のお菓子作りの実力を知りたい、と吉田さんが言い出した。
そして2週間後に各自で作ったお菓子を持ち寄ることになった。(案の定拒否権は無い)
そこで最も評価の高いお菓子を持ち寄った人をリーダーとし、話し合いを円滑に進める為リーダーの意見を是とする__
__つまり山崎さんの言う通りお菓子バトルで、敗者は勝者に絶対服従だ。
鳴沢 真由子
山崎 母
山崎 母
山崎 母
山崎 母
鳴沢 真由子
脳裏に嫌な人物が浮かんだ。 私をボス呼ばわりする人はあの人しかいない。
___そもそもこんな事態になったのも、1年近く前にあの女が いろいろ言って来たからだ。
__とりあえずスーパーに行ってどうするか決めよう、とスーパーのお菓子売り場に赴くと ……聞き覚えのある声がした。
山川 のぞみ
相原 澪
山川 のぞみ
山崎 母
鳴沢 真由子
全部この女に端を発している。 この女が奇異な事態を招く。
__それを受け入れようとしているのもまた、この女の影響だ。