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帰るね

もう帰るの?

もう少しいてもいいんじゃない?

ほら、明日の朝ここから会社に行くとかさ

凛……

気持ちはわかるけどさ

スーツとか持ってきてないしさ

うん……ごめん

毎回さみしくなるからさ

なんか、ね

……いつか嫌になるくらい一緒にいる時が来るよ

それって……

そ、それじゃあ

うん……じゃあね

バタンッ

後ろ手で閉めた玄関のドアの向こうで凛が泣いているのは、 簡単に想像できた。

ドアノブにまた触れる。

(重い……)

また君に会えるのに

僕はゆっくりと手を離して、 一歩、また一歩と離れていく。

(臆病者だな、俺)

ただいま

誰もいない部屋では、その声がよく響いた。

おかえりって……アイツに言ってほしいな

俺はポケットから小箱を出した。

今日も渡せなかったな

箱を開くと、 指輪が電灯を反射して光っていた。

でも……これで

一歩進まないことで俺達は今の関係を維持できてると思うと

進むことができない

(なんでこんなに怖いんだろうな)

そこで、急に気づいた。

ああ、そうか……

俺はあいつのこと……

愛してるから、怖いのか……

そっか……

指輪の入った箱を閉じる。

今度こそ言うからな、凛

箱に向かってそうつぶやいて

指輪を机の上に置いた。

少しだけ、前に進めた気がした。

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