2010年8月31日
世間一般では夏休みの最終日
私は優真さんと共に病院に来ていた
この日、井川静(じん)さんとの面会の予定はなく
梶原さんは新規の案件で出掛けていいていなかった
優真さんの時とは違い
静さんの面会は取調室を使わせてもらっているが
毎日、取調室を利用することは不可能なため
面会の予定のない日には
こうして病院に付き添うことに決めていた
幸いいくつかあった別の案件は全て片付いていて
私には時間があった
芹沢さんも別の案件で出掛けていて
所長が事務所にて待機してくれている
ニュースでは連日のように
井川かすみさん、静さん親子のことが報じられ
未だに病院にはマスコミが待機している状態だった
前回と同様に裏の通用口から中に入り
あすみさんのいる救急病棟へ
私達が到着すると
あすみさんのはっきりとした声が聞こえた
井川あすみ
三村優真
見た目にもわかるほど回復している
井川あすみ
三村優真
言葉も交わせるようになってはいるが
その声はまだ弱々しく
長いこと失声状態でいたからなのか
所々、うまく発音ができていない様子だった
しばらくして会話は止まり
長く話して疲れたのか
彼女はスッと眠りについた
それでも優真さんは握った手を離すことはなく
ただじっと彼女のことを見つめていた
三村優真
沢田マリカ
三村優真
誰でもいいから愛してほしかった
でも優真さんの想いは一方的で
誰の心にも届かなかった
沢田マリカ
三村優真
三村優真
三村優真
沢田マリカ
三村優真
沢田マリカ
沢田マリカ
だから優真さんの優しさが
本当に嬉しかったんだ
普通に考えれば
自分を拉致した犯人に恋心を抱くことはないだろう
でも彼女は家族からの虐待によって傷ついていた
その心と身体の傷を
一生懸命に治療してくれた優真さんに
自然と心を開き愛するようになった
優しく抱きしめてくれた暖かい腕の中で
あすみさんはやっと
自分の存在価値を見出だせたのだと私は思う
優真さんの何気ない普通の言葉でさえも
彼女にとっては救いだったのだ
どれくらい時間が経ったのか
彼女がゆっくりと目を開けると
再び優真さんが語りかける
三村優真
井川あすみ
三村優真
優しい言葉に彼女の目から涙が溢れる
井川あすみ
三村優真
井川あすみ
井川あすみ
三村優真
まだうまく動かせない手で
あすみさんは必死に優真さんの手を握ろうとする
そんな彼女に答えるように優真さんが優しく髪を撫でる
あすみさんはこんなにも優真さんを求めている
このままそばにいさせてあげたい
そんな気持ちでいっぱいになっていた
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