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琥珀色の偽善者

第3話 - 琥珀色の偽善者

2025年11月06日

#あ

柊

…

あのあと彼女と俺が屋上で会うことはなくなった

彼女の担任の教師にあの件を伝えるか悩んだが俺にはそれができなかった

「貴方といると息が苦しい」

その言葉に込められた苦しみを考えたら彼女の意思も聞かないで勝手な行動なんかできなかった

数ヶ月後高等部で再会してもお互いに言葉を交わすこともなく

…そうやって、ただ時間だけがすぎていった

数ヶ月前

黄田貴之

あ〜…チョー暇だァ…

黄田貴之

（空きコマほどつまらないモノはないからなァ…実験でもしようかなァ…）

？？？

…あの、黄田先生？

黄田貴之

ホヘッ！？あっ、スミマセン！

黄田貴之

…えーと、貴方の名前は…？

？？？

…あー、えっと…

柏原恵兎

…柏原、あの時お世話になった、柏原恵兎…です

黄田貴之

…へ

黄田貴之

エーッッッ！？！？
す、随分とイメチェンしましたねェ…全然わかりませんでした…

柏原恵兎

あは…自覚はあります

柏原恵兎

…それで、その…

？？？

…本当に、ごめんなさい

黄田貴之

エッ！？なんで謝るんですかッ！？！？

柏原恵兎

あの時…黄田先生と屋上と話をしていた数ヶ月、私本当に楽しかったんです

柏原恵兎

…本当は、今まで生きてきた中で1番、息がしやすかった、楽だった

黄田貴之

…！

柏原恵兎

でも…だからこそ、先生と向き合うのが怖かった

柏原恵兎

…あのときの私は、先生みたいに、優しい人に恵まれなかったから…

黄田貴之

…

柏原恵兎

なんて、ひどい言い訳ですよね…

黄田貴之

…俺こそ、ごめんなさい
教師として情けないけど、君の苦しい気持ちをちゃんと理解できていなかった

柏原恵兎

そ、そんな…！！黄田先生はなにも…！

黄田貴之

…でも俺、今ちょっとだけ安心しちゃってるんだ

柏原恵兎

…へ？

黄田貴之

だって、今の柏原さんは…

黄田貴之

…今の柏原さんは、あの頃とは全然違くて…

黄田貴之

…本当に、生きるのを楽しんでるように見えるから

柏原恵兎

…！

黄田貴之

きっと、そう思える理由に出会えたんでしょ？

柏原恵兎

…

柏原恵兎

…はい、多分、そうなんだと思います

柏原恵兎

音葉さんと…あの人達と一緒にいるのは、本当に楽しくて

柏原恵兎

…最近はずっと、楽しいんです！

黄田貴之

そっか…

黄田貴之

（…俺のせいで不幸にした、とばかり思っていたけど…）

彼女は彼女なりに生きる意味を見つけたんだ

あの時の俺と、同じ…

黄田貴之

…それならよかった！

柏原恵兎

…そ、それで…

柏原恵兎

次の時間、体育なんですけど…サボろうと思ってて…

黄田貴之

…ん？

柏原恵兎

…また私の話、聞いてくれませんか？笑

黄田貴之

…！！

黄田貴之

ハイ！！もちろんッ！！超聞きますッ！！超ッッッ！！

柏原恵兎

…あ、ありがとうございます！笑

黄田貴之

（…ま、授業以外で彼女と話したのはそれきりだけどネ〜笑）

黄田貴之

…

そうだ、思い出した

あの時、柏原サン「音葉さん」の名前をあげてた

黄田貴之

（…嫌な予感）

…

黄田貴之

ホイホイ、失礼しますね〜ッ

佐賀椿

あ、黄田先生！
どうしました〜？

黄田貴之

突然スミマセンね〜…佐賀先生、今日柏原サンって来てます？

佐賀椿

ん〜と…あ、今日は休んでるみたいですよ！

黄田貴之

…なるほど、ありがとうございます〜！
失礼しましたッ！

…

佐賀椿

…

黄田貴之

（…学校にいなかったら情報がわからないよなぁ…）

水戸場代々美

…てか、今日柏原きてなくない？

黄田貴之

…！

皇麗

ん〜、多分音葉さんのことがショックなんやろ〜

水戸場代々美

あー、アイツその時現場にいたんだっけ？

皇麗

そうみたいや〜
…なんかカンケーあるんかなぁ？

水戸場代々美

そうねぇ、分かんないけどね〜…

…

黄田貴之

…

黄田貴之

（あの時の事、もう生徒は知ってるのか…）

黄田貴之

…っ

黄田貴之

（…色々考えてたら、帰る時間になっちゃったなぁ）

黄田貴之

柏原さん…

柏原恵兎

…あれ、黄田先生？

黄田貴之

…え、あ、柏原サン！！
偶然ですねェ、休んでいたから心配…

黄田貴之

し、て…

黄田貴之

…っ

黄田貴之

（なんだ、この目…？）

柏原恵兎

…休んでいたのは大丈夫です、朝は頭痛がひどくて…

黄田貴之

あ、い、今は大丈夫なんですか…？

柏原恵兎

はい、薬を飲んだので

黄田貴之

…その、お母さんとかになにか言われたりは…

柏原恵兎

…

柏原恵兎

…ズル休みしたんだって、察してくださいよ

黄田貴之

…！

黄田貴之

…そう、だったのか…

柏原恵兎

…

黄田貴之

…俺、今日一日、ずっと柏原さんのこと心配だったんだ

黄田貴之

君の目の前で音葉さんが亡くなったから、気に病んでるんじゃないか…って

柏原恵兎

…っ

黄田貴之

辛いなら休んでもいい。
もし悩みがあるなら、あの時みたいに、なんでも聞くし…

黄田貴之

だから、君が責任を感じる必要は…

柏原恵兎

出来ませんよ、そんな事

黄田貴之

…へ

柏原恵兎

…確かに、あの時の私は黄田先生に救われた

柏原恵兎

でも…今回だけは

柏原恵兎

誰に話しても、どうしようもないと思います

黄田貴之

な、なんでいきなりそんな…話して楽になることだってあるでしょ！？中学の時君だって…！！

柏原恵兎

あの時の私がそうだったからって、今の私にそのエゴを押し付けないでください

黄田貴之

…さっきからなんなんだ！！

黄田貴之

しんどい気持ちを抱えたままいるのは苦しいだろ！？解決するためには話してくれないと…！！

柏原恵兎

…

黄田貴之

俺は…俺は君を…！！！

黄田貴之

助けたいだけ…！！

柏原恵兎

やっぱり、貴方は恵まれているんですね

黄田貴之

…え

柏原恵兎

いや…ただそれだけじゃないかも
…理解したくないんじゃないですか？自殺を考えるほどの苦しみを

黄田貴之

…！！！

黄田貴之

…え、あ…

…そうだった

俺はいつだって、あの時の苦しみから目を背けていた

柏原恵兎

優しい人に恵まれて、苦しみを吐き出せる場所があって…幸福で

柏原恵兎

訂正させてください
あの時の私は間違っていなかった

柏原恵兎

…貴方には、私の痛みを理解できない

黄田貴之

…確かに、君の痛みが全部分かるわけじゃないかもしれない…でも、だから俺は君の話を聞いて理解していきたいんだよ！！

柏原恵兎

理解できないなら、勝手なエゴで、私を救うなんて考えないで

黄田貴之

…っ、でも…！！

柏原恵兎

…自覚ないみたいだからはっきり言いますが

柏原恵兎

自分がそうだったから他人もって、そうやって救済を押し付けるの

柏原恵兎

…ただの「偽善者」ですよ

黄田貴之

…！！！

黄田貴之

偽善、者…？

柏原恵兎

だから、優しさの押し付けはもうやめてください
話はそれだけです

柏原恵兎

じゃあ、私人を待っているので…

安藤光留

お待たせ〜、恵兎ちゃん！！あ、お話中だった？

柏原恵兎

…ううん、ちょうど今終わったところだよ

黄田貴之

（…あの生徒は、たしか２年の…？）

柏原恵兎

ねぇ、先輩のおうち、今日も行っていい？

安藤光留

も、もちろん！！
あ、き、ちょっと汚いかもなんだけど…！

柏原恵兎

大丈夫、先輩がいるなら十分ですよ…いきましょ？♡

黄田貴之

…！！！

黄田貴之

ま、待って！！

安藤光留

…ははっ、誰だっけ？この先生。理科室爆発してる人だよね？

柏原恵兎

そうだよ、黄田先生って言うの。たまたま会って…

安藤光留

ふーん…

安藤光留

…なんかごめんなさい、先生笑

安藤光留

彼女、もう俺のモノなんで笑

黄田貴之

…は？

柏原恵兎

彼女の目の前で惚気ないでよ…照れるじゃん

安藤光留

ははっ、ごめんごめん！！
じゃ、また学校で〜笑

黄田貴之

…柏原、さ…

柏原恵兎

…

柏原恵兎

さようなら、先生

…

黄田貴之

（…行っちゃった）

黄田貴之

…あの生徒、あの時ナチュラルに足踏んできたなぁ…担当の先生に話して成績下げてもらおうかな…

黄田貴之

…はは

黄田貴之

（…皇先生…）

数年前林咲学園高等部卒業式

黄田貴之（高校生）

…あ、皇先生！！

皇要

おー、黄田か！
見ない内に大きくなったな〜

黄田貴之（高校生）

高等部と中等部、ほぼ関わりないですもんね〜笑

皇要

まぁな〜…
…なぁ黄田、進路はどうするんだ？やっぱり大学か？

黄田貴之（高校生）

ん〜…内緒にする予定だったんですが…

黄田貴之（高校生）

第一志望にしてた…林咲大学の、教育学部に受かったんですよ
だからそこに行く予定です

皇要

…教育学部？黄田、教員になりたかったのか？

黄田貴之（高校生）

はい！！
…俺も、皇先生みたいに、苦しんでいる生徒を救える教師になりたいんです！！

皇要

…そうかぁ、そうだったのかぁ…

皇要

なーんか意外だよ、黄田のことだから科学者とかいうと思ってたが…

黄田貴之（高校生）

それも考えたんですけどね〜笑

皇要

…なぁ、黄田
先生今すごく嬉しいんだ

黄田貴之（高校生）

え？

皇要

今のお前は、あの時の死人みたいな顔じゃない
本当に、輝いて見える

皇要

…教師になって…生徒を助けるとか、そういう仕事はできるだけない方がいい…が、仮にそんなことがあったとしよう

皇要

でもまぁ、黄田は俺と違って、優しすぎるくらいだから心配いらないと思ってる

黄田貴之（高校生）

…優しすぎる？

皇要

あぁ、お前は一見頼りないけど、責任感が強くて困ってる人放っておけないタイプだろ？一見頼りないけど

黄田貴之（高校生）

二言くらい余計だったなぁ…

皇要

…だから、大丈夫だ

皇要

黄田は、黄田にしかできない方法で、俺と同じくらい…いや、俺以上に

皇要

…子供を救えるような大人になってくれよ！

黄田貴之（高校生）

…！！！

黄田貴之（高校生）

（皇先生、泣いてる…？）

皇要

おい、返事は〜？笑

黄田貴之（高校生）

…はい！
約束です、先生！！

…

俺は、頑張っていたつもりだった

1番救いたい人を、自分で救えた気でいた

…結局、救えてなんかいなくて、むしろ苦しめただけだった

それは"偽善"だったんだ

黄田貴之

…

黄田貴之

約束、破っちゃったなぁ…

皇先生俺、どうしたらいいのかな

俺にしかできない方法じゃ救えない時

俺、どうしたらよかったんだろ

黄田貴之

（…あーあ）

黄田貴之

本当最低だな、俺って

琥珀色の偽善者【終】

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柊

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