テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
86
目を開いたとき最初に感じたのは『音』だった
規則正しく鳴る電子音
やけに白い光
消毒液の匂いが喉の奥に張り付いている
ここ、どこだ
そう思ったのに声は出なかった
山中柔太朗
代わりに誰かの声がした
すぐ近く。 いや、近すぎるくらい近くに。
山中柔太朗
視界に入ったのは1人の男だった
見覚えが…ない
整った顔
見慣れていそうな距離感
なのに何処にも引っかからない
記憶のどこにも。
佐野勇斗
掠れた声でそう言うと時間が止まった
一瞬。
本当に一瞬だけ
でも確かにその人の表情が崩れた
山中柔太朗
低く、落ち着いた声
さっきまでの柔らかさが嘘みたいに消えた
山中柔太朗
あ、怖い
そう思った
理由は分からない
でも本能的にそう思った
佐野勇斗
もう一度言うとその人は少し黙って、それからゆっくり笑った
…さっきと同じ笑顔
でもどこか違う
山中柔太朗
その人は納得したように小さく頷く
山中柔太朗
山中柔太朗
頷くしか無かった
頭の中は、真っ白だった
名前も、過去も、何も無い
ただ、『知らない』っていう感覚だけは しっかりしていた
山中柔太朗
その人は少し考えるように視線を落として、 それから、またこっちを見た
山中柔太朗
ベッドの柵に手をかけて、顔を近づけてくる
逃げられない
山中柔太朗
その声はやけに優しかった
山中柔太朗
嫌な予感がする
根拠なんてないのに、体が強張る
山中柔太朗
ゆっくり、言葉を選ぶように話す
山中柔太朗
メンバー?
その単語さえわからない
山中柔太朗
山中柔太朗
距離が近い
息がかかる
山中柔太朗
__違う
何故かそう思った
でも、違うと言い切れる理由もない
だって記憶がないから
山中柔太朗
その人は少し笑った
山中柔太朗
その言葉が、やけに重く落ちてくる
胸の奥に、鈍く沈む
佐野勇斗
思わず聞いてしまった
その人は目を細めながら言った
山中柔太朗
と、静かに言った
責めるような声ではない
でも、逃げ場が無くなるような声
山中柔太朗
山中柔太朗
そうだ
覚えてないから否定ができない
山中柔太朗
優しい声
でも、その中に混ざる何かに、背筋が冷える
山中柔太朗
ぽん、と頭に手が乗る。
やけに自然な動作
なのに、どうしてか落ち着かない
山中柔太朗
あぁ逃げられない
この人から。
この状況からも。
山中柔太朗
山中柔太朗
視線が絡む
逸らせない
山中柔太朗
___怖い
はっきりとそう思った
でも、
佐野勇斗
頷いてしまった
他に選択肢がない気がしたから
その瞬間その人は満足そうに笑った
山中柔太朗
その言い方に、ぞわりとする
でも、体は動かない
山中柔太朗
ゆっくりと言葉が落ちてくる
山中柔太朗
佐野勇斗
山中柔太朗
当然の事のように聞いてくる
でも知らない
何も。
山中柔太朗
少しだけ声が低くなる
山中柔太朗
……分からない
佐野勇斗
口の中で転がす
でも出てこない
当然のことだ
佐野勇斗
そう言うと、その人は一瞬だけ黙って、 それから、ふっと笑った
山中柔太朗
やけにあっさりした声
でも、
山中柔太朗
その目は笑っていなかった
山中柔太朗
山中柔太朗
ぞくっと背中が冷えた
山中柔太朗
優しくて、甘い声
そして、俺の目をしっかりと見て、 こう言った
山中柔太朗
耳元で囁かれる
山中柔太朗
なに、それ
そう思ったのし声が出ない
心臓の音がうるさい
山中柔太朗
最後にもう一度頭を撫でられる
山中柔太朗
その言葉が酷く歪んで聞こえた
この時はまだ知らなかった
”前と同じ”なんてものは、どこにもなくて
これから作られるのは、 もっと壊れた、偽物の関係だってことを。
主
主
主
主
主
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!