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あれから数ヶ月。 3月の空は やけに青かった。 教室の窓から見える景色は いつもよりまぶしく見える。 卒業式。
俺は 最後のホームルームを終えて 教室に残っていた。 賑やかだったクラスも 今はもう静かで 残った机と椅子が 今日という日の 終わりを告げていた。
俺の隣の席 楓弥の姿はなかった。
愁斗
最後に伝えたいことがあった。 ずっと心にしまっていたけど 今日だけは 言葉にしなきゃいけない。 "卒業"という終わりがあるからこそ 生まれる"始まり"があるって 信じてるから。
俺は立ち上がって 廊下に出た。 そして階段を上って 校舎の屋上へと 向かった。
屋上の扉を開けると そこにいた。 制服のまま 風に吹かれている楓弥の 後ろ姿。 静かに空を見上げていた。
愁斗
俺がそう声をかけると 楓弥は振り返った。 そして俺の姿を見て 少し驚いたように目を細めた。
楓弥
愁斗
心臓がうるさい。 でも 止まるな。今だけは 俺の気持ちを誤魔化すな。
楓弥の前に立って 深く息を吸う。 そして 目を見て 言った。
愁斗
言い終わった瞬間 風が吹き抜けた。
沈黙。
怖かった。でも目を逸らせなかった。 楓弥は少し俯いて それから静かに 微笑んだ。
楓弥
その言葉に 胸がじんわりと熱くなる。 世界のどこよりも この瞬間がいちばんあったかい気がした。
俺はそっと手を差し出す。
愁斗
楓弥は少し照れたように笑って 俺の手を握ってくれた。
楓弥
手のひらが触れ合った瞬間 心まで繋がった気がした。
終わりと始まりが交差する 卒業式。
俺達はきっと、ここから何度でも 恋をする。
赤いアネモネの花言葉 '君に恋する'
fin.