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あぁ、もう間に合わない
あと5分で終電が出るのに
こんな時に限って靴のヒールが折れてしまった
もう絶対に間に合わないという絶望と悲しみが一気に襲ってきた
道の端に座り込んで、ただ根元から折れたヒールを眺める
隣を歩く人達の冷たい目線が刺さる
私は目にうつるけど、それだけの存在
世界から1人取り残された気分になる
自分が情けなくて、恥ずかしい
不意に涙が頬をつたった。
その時
男性
私は驚いて、男の人を見た
茜
男性
茜
男性
まるで自分の事のように悲しんでいる
茜
何とか笑顔をつくってみせた
男性
男性
茜
男性
彼はチラリと腕の時計に目を落とした
男性
茜
男性
その瞬間、彼は私の腰の下に手を入れ、私を持った。
お姫様だっこだ。
そして、勢いよく走り出した。
茜
男性
男性
何が起こっているのか一瞬分からなかった
それでも、彼が私をお姫様だっこし、 駅へ走ってくれていることはわかった。
通りを歩く人の目線が突き刺さる 本日2度目だ。
それでも、なんだか嫌じゃなかった
お姫様だっこなんて何年ぶりだろう?
彼の顔を見る。
顔を赤くして、 一生懸命走ってくれているのがわかる
むかし、絵本で見た 王子様に見えた。
男性
女性
周りの人の声が聞こえる
でも今は、そんなの全然気にならない
本当のお姫様になったみたいだった
ただ、この時間がずっと続けばいいのに、なんて思っている自分に気づく。
男性
男性
茜
急いで、今にも発車しようとしている電車に飛び乗る
男性
男性
茜
女性
その時、周りの目線と声で、 電車の中でなお、お姫様だっこをされている自分に気づく。
男性
私を下ろす手つきからも 彼の優しさが感じられた
茜
茜
男性
男性
男性
そう言って、荒く息を切らしながら携帯に向かう彼が愛しかった
茜
男性
茜
茜
名刺を差し出した。
男性
さっき会ったばかり。
名前も今知った。
それでも、この胸の高鳴りは嘘じゃない
お姫様になった気分だった。
いい歳してこんな大人がって感じだけど、
それでも
私
あなたの
お姫様になってもいいですか?