良枝
雅子?
良枝
やっぱり雅子だ!
良枝
すごい久しぶりだね
雅子
えっ!
雅子
もしかして良枝?
良枝
うん、良枝だよ
良枝
忘れちゃったの?
雅子
ゴメン
雅子
だって、10年ぶりじゃん
雅子
こんなとこで偶然再会できるなんて思わないもん
良枝
まあ、確かにね
雅子
良枝、この辺に住んでるの?
良枝
そうだよ
良枝
雅子はいつ日本に帰ってきてたの?
雅子
つい最近だよ!
雅子
旦那の海外勤務が終わって
雅子
この近くに引っ越してきたんだ
良枝
じゃあ、これからはご近所さんだね
雅子
こっちに全然知り合いがいなかったから、嬉しい
雅子
良枝の旦那さんは元気なの?
良枝
夫とは離婚したんだ
雅子
そうだったんだ…
良枝
でも、私にはケンちゃんがいるから
雅子
ケンちゃんって、健太くんのこと?
雅子
最後にあったとき、6歳くらいだったから
雅子
もう高校生くらいだよね?
良枝
…………
雅子
良枝?どうかした?
雅子
(私、何か変なこと言ったかな?)
雅子
じゃ、そろそろ行くね
良枝
私の家、すぐそこなんだ
良枝
せっかくだし、寄って行ってよ!
雅子
えっ、でも…
雅子
家族が待ってるから
雅子
また、今度にしようよ
良枝
いいじゃない、10年ぶりの再会なんだから
良枝
ごはんでも食べて行ってよ
良枝
ケンちゃんも雅子に会いたいはずよ
良枝
すぐ、ごはんの用意するから
良枝
雅子は座って待ってて
雅子
簡単なものでいいからね
良枝
大丈夫
良枝
昨日から仕込んであるから
雅子
(結局、断りきれなかった)
雅子
(良枝ってこんなに強引だったっけ?)
雅子
ねえ、何作ってるの?
良枝
うふふ、秘密
良枝
楽しみにしててね
雅子
(鍋で煮込んでるみたいだけど)
雅子
(カレー?それともシチュー?)
雅子
そういえば
雅子
健太くんは何処にいるの?
良枝
雅子、お待たせ
良枝
出来たよ
良枝
じゃあ
良枝
電気消すね
雅子
えっ、何?
雅子
真っ暗で何も見えない
雅子
ちょっと、良枝
雅子
何で電気消したの?
良枝
だって、仕方ないじゃない
良枝
ケンちゃんは
良枝
暗くしないと来てくれないから
雅子
どういうこと?
雅子
(何言ってるか、わからないんだけど)
良枝
ごはん、できたよ
良枝
冷めないうちに食べて
雅子
こんな真っ暗な中で食べられないから
良枝
はい、これスプーンね
雅子
(無理やりスプーンを渡されたけど)
雅子
(何だか気味が悪いよ)
雅子
(良枝の様子もおかしいし)
良枝
どう?美味しい?
雅子
えっと…今から食べるとこ
雅子
(まさかとは思うけど、変なもの入ってないよね)
雅子
(やだ、食べたくない)
良枝
あんまり美味しくなかったかな?
雅子
ううん、そんなことない
雅子
すっごく美味しかったよ
雅子
(食べてないけど、いいよね)
雅子
(どうせ、暗くて分からないし)
健太
このおばちゃんは嘘つきだよ
雅子
えっ!誰?
雅子
(子供みたいな声がしたけど…)
良枝
ケンちゃん
良枝
やっと来てくれたのね
雅子
ケンちゃん?
雅子
(健太くんは高校生くらいのはずなのに)
雅子
(さっきの声は、どう考えても)
雅子
(子供の声…)
健太
ママ
健太
嘘つきの悪い子にはお仕置きしないと
ガタンっ
雅子
ゴメン、椅子倒しちゃった
雅子
良枝、私もう帰るね
雅子
(怖い、なんか嫌な予感がする)
雅子
(早くここから逃げ出さないと)
良枝
雅子が大きな音たてるから
良枝
ケンちゃんが驚いちゃったじゃない
良枝
一緒に来てちょうだい
雅子
いやっ、ちょっと離して
雅子
(良枝に腕を掴まれてる)
雅子
(強い力で、引きずられる)
雅子
(助けて!)
良枝
ケンちゃん、もう大丈夫よ
良枝
隠れてないで出てきてちょうだい
雅子
(ここって健太くんの部屋?)
雅子
(でも何だか変な気が…)
雅子
(まるで子供部屋みたい)
雅子
(ランドセルに、壁には子供が描いたような絵)
雅子
(それにカレンダーが2009年になってる!)
良枝
ベッドの中に隠れているのね
良枝
雅子、布団をめくってあげて
雅子
えっ、私が?
良枝
いいから、早くして!
雅子
(ベッドの中に健太くんがいる…)
雅子
(今は逆らわないほうがいいかもしれない)
雅子
(隙を見て逃げ出そう)
雅子
健太くん?
雅子
布団めくるね
雅子
…………
雅子
そんな…だれもいない
良枝
ママ、どうしてこのおばさんには僕が見えないの?
良枝
ママにはちゃんと見えてるわよ
良枝
ママ、僕お腹空いたよ
良枝
ケンちゃん、もうどこにも行かないでね
良枝
ママとずっと一緒だよ
雅子
…………
雅子
良枝、どうしちゃったの?
雅子
どうして、ずっと一人で会話してるの?
雅子
子供みたいな話し方までして…
良枝
おばさん、僕はここにいるよ
雅子
すみません
雅子
良枝さんの病室はここですか?
洋一
はい、そうです
洋一
もしかして、雅子さんですか?
雅子
そうですが…
雅子
あなたは…
洋一
良枝の別れた夫です
洋一
この度は、ご迷惑をお掛けしました
雅子
私は大丈夫です
雅子
気にしないでください
雅子
良枝は元気ですか?
洋一
声をかけてあげてください
雅子
良枝、お見舞いにきたよ
良枝
…………
雅子
良枝?
洋一
ずっとこんな調子なんです
洋一
話しかけても無反応で…
雅子
あの…健太くんは
洋一
雅子さんは、ずっと外国にいたそうですね
雅子
そうですけど
洋一
だから、ご存じないと思いますが…
洋一
健太は10年前から
洋一
行方不明なんです
洋一
公園に遊びに行ったきり、帰ってこなかった
雅子
知らなかった…
洋一
良枝はずっと信じて待っていた
洋一
いつか、健太が帰ってくることを
洋一
そして、良枝の心は
洋一
壊れてしまった…
雅子
あっ
雅子
良枝が何か話そうとしてる!
良枝
ケン…
良枝
…ちゃ
雅子
良枝、何が言いたいの?
良枝
…さあ、ケンちゃん
良枝
ごはんの時間よ