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遡るは数時間前
……
「んー……。」
寝床で寝返りを打ち体勢を整える。
呼吸音が静かな部屋に響いている。
しかし睡眠をとっている体とは裏腹に、意識は徐々に浮上していく。
それが妙に不快で、思わず顔を顰めた。
それがいけなかったのか、俺の意識はまるで皮肉のように更にはっきりとしていく。
もう殆ど意識は覚醒している状態で、このまま寝ていても仕方がないと瞳を開けた。
カーテンの隙間から漏れる光が顔に差し、小さく呻き声をあげる。
「……ぅ。」
朝は苦手だ。
正確に言えば、起床時。
ベッドから起き上がり、伸びをする。
ほんのりと頭痛がする。
昨晩の仕事の影響だろうか。
俺が務めているDJという職は、基本的な活動時間は深夜帯である。
その為、どうしても他の人と生活リズムがずれてしまうのだ。
起床時の頭痛など日常茶飯事である。
「…ああ、そうだ、仕事。」
昨晩のうるさいくらいに照らされたネオンや歓声を思い出し、スマホを操作し仕事を確認する。
しかしメモを確認するものの、記載されている仕事の依頼は無い。
疑問に思いもう一度アプリを再起動して確認するが、無は変わらない。
「……あ。」
そういえばと思い出した。
昨日の仕事の帰り道のこと。
仕事の相棒であり弟であるパピルスが、兄ちゃんは働きすぎだ、しばらく仕事は俺が一人でやるとかなんたら言っていた気がする。
確かにココ最近は弟の言う通り、勤務時間以外も仕事に関する事に全て時間を使っていた。
それは音楽が心から好きだからであり、決して虚栄心からなんてものではない。
しかし、いくら断っても弟が効かないもんで、今日は無理矢理休日になったんだっけ。
……今日というか、暫くの間。
正直言うと今すぐにでも働きたいが、弟の身からしてみれば心配の方が勝つだろう。
身も惜しんで仕事に励むとなると、過労死なんて以ての外だ。
だからこそ、俺の事を労わってくれているのだろう。
「2人で一人なんだけどなー……。」
虚しく呟く。
俺はパピルスと2人組でDJをしており、言わば2人で1人と言っても過言ではないのだ。
それなのに弟一人でDJを任すなんて、何だかやるせないような気がする。
その気持ちは仕事を休みたくなかった大きな理由でもある。
「んま、……いいや。」
休日と決定してしまったのも仕方ないし、弟の気持ちも相まって、仕事の事は暫く忘れよう。
ベッドから立ち上がり、大きく大胆に伸びをする。
伸びが終わると二歩程歩いてクローゼットの前に立ち、クローゼットを開けた。
クローゼットにかけてある服をとり、ベッドに投げる。
パジャマを脱いで床に置き、ベッドの上にある服を着用した。
いつも通りの服に着替え終わり、パジャマを持って片付けようと風呂場へと向かう。
風呂場の壁にかけてあるハンガーを手に取り、ハンガーに服をかけた。
ふと、気づく。
そういえば、起床をしてから1度も時計を見ていない。
寝る時間のせいで大体起きる時間は昼頃なので時刻は予想出来ているが、一応時計を見てみることにした。
ズボンのポケットに入れておいたスマホを取り出し、電源を入れる。
ぱっと電源がつき、メールアプリやゲームの通知と時刻が表示された。
「……8時20分……?」
まだ寝ぼけているせいで見間違いでもしたのかとでも思ったが、何度目を擦っても時刻は変わらない。
「……は、早起きだ。」
他の人からしてみればそうではないかもしれないが、俺からしてみれば超がつくほどの早起きだ。
早起きは3文の徳という言葉をよく耳にする、ひょっとしたら良いことが起きる前兆なのかもしれない。
鼻歌を歌いながら風呂場から去って、廊下に出る。
ひょっとしたらポストにラブレターでも来ていたりして?
3文の第1回目だと期待をして玄関に行き、サンダルを履いた。
可愛い子の写真付きだったりして……!
玄関の鍵を開け、外に出る。
すっかり浮かれ気分で、玄関先のすぐ近くの外に設置されているポストの中身を見た。
目を凝らして探すものの、ポストの中身は店のチラシしかない。
「ま、……そう簡単にこないか。」
ポストの中にあるチラシを回収して家に戻る。
3文はまだまだ先のようだ。
「ご馳走様でした。」
朝食を食べ終わり、合掌する。
皿に盛り付けられてあった食料は食べカスとなってしまった。
並べられてあった皿を重ね、キッチンに運ぶ。
流しに皿を置いて水栓をひねろうとするが、その手は止まった。
「……後でいっか。」
今日は誰か家に呼ぶ予定もないし、仕事だってない。れっきとした休日だ。
休日くらい少しだらけたって良いじゃないかなんて言い訳をして、洗い物はそのままでリビングのソファーに座った。
ソファーの近くに設置されてあるテーブルに手を伸ばす。
そこには先程ポストから取ったチラシ類が置かれてあった。
商品を頼むつもりはないが、暇つぶしがてらチラシを見ることにした。
スーパー、
ドラッグストア、
車、
スマホ、
子供向けのチラシ、
チラシの内容はどれも生活に欠かせないものばかりたった。
……ちょっと待て、何で当たり前の如く子供向けのチラシ入ってんだ??
「俺子供じゃねーよ!」
チラシをクシャクシャに丸めて、そのままゴミ箱に投げ捨てる。
見事ホールインした。
「はあ……なんで意味のわからないもん入ってるのやら。」
チラシ鑑賞に戻ろうと新しいチラシを手に取るが、その手は止まった。
「……は?」
それは、先程の意味のわからない子供向けのチラシなどとは比べ物にならなかった。
見間違えかと思ってもう一度文字を読み返すが、でかでかとチラシに記載されてある文字は変わらなかった。
数分思考停止した。
はっと我に帰った瞬間、一気に羞恥心が襲いかかる。
だってこのチラシは……。
デ……。
デ…………!!
「デリ〇ルのチラシーーーーー!?!?!?」
動揺のあまり、大声で叫んでしまった。
マズいと口元に手をあてるが、その動作はワンテンポ遅い。
は、はぁぁぁ!?!?
な、何でこんなもん!?!?
ハレンチな店に行ってチラシがきましたー、わーならまだわかるが、俺は1度もそういう店に行ったことはない。
というかそもそもそういうことに興味が無いから行かないのだ。そうだ、これは嘘ではない。断じて、決して!
「……お、落ち着け……。」
すっかり動揺している心を静めさせようと呼吸を整える。
そうだ、これはきっと誰かの悪戯だ。
フリスクかアンダイン辺りが俺の家のポストに悪ふざけとして入れたのだ。きっと。
そうだ、きっと。……うん、恐らく……多分……
誰かの悪戯だと推測すれば、次第に心が落ち着いてきた。
「……ふぅ。」
一息つく。
完全に心は落ち着いた。
悪戯をしてきた奴には、今度爆音でも聞かせて鼓膜を破らせておこう。……まぁ、これが悪戯だとは明白ではないが、そういう事にしておくのがベストだ。
……にしても。……
机に置かれてある例のチラシを見る。
……これどうするんだ……。
ヤツだけは妙に悪目立ちしており、チラシに掲載されてある内容も非常にいかがわしい。
数秒見つめ、決心する。
よし、捨てよう。というか捨てるしかない。
「いや、でも……。」
いざ捨てようもチラシを持った手を止める。
もしこんなチラシ捨てたのが他の人にバレたらどうする?
これは決してこのチラシが気になるからとかいう言い訳からではなくてただ純粋に友達が家に来ている時ゴミ箱がひっくり返った時とかの心配だ、うん、それ以外ない。うん。うん。
念の為油性ペンで黒く塗りつぶして焼却炉にでも入れて燃やそう。後で。
「……ちょっと、見てみるか。」
捨てるまでの間、少しチラシを見てみる事にした。何回も言うが興味をそそられた訳では無い。面白半分だ。うん、ああ。…うん。
1つ咳払いをして、深く息を吸う。
いざチラシの中身を見てみた。
「……おお、
おおっ……!!
おおおおお……!!!!!」
す、すんげぇや。夜の中捨てたもんじゃねぇ。こんなお宝あったなんて!
お宝に目が輝くものの、内容も内容だ。見ていくうちにやはり羞恥心は募ってくるもので。
「ぅ……。」
1分もたたず撃沈した。
「……し、しかしまぁ……。」
うつ伏せになった顔を起こし、改めてチラシを見返す。
……まあ、凄い。いろんないみで。
ふと、視界の右端の方にカラフルに彩られた電話番号が入った。
……電話。電話すれば来てくれるのか?
デリ〇ルの仕組みなんて調べたこともないしよくわからなかったが、チラシの中に恐らく初心者向けに仕組みのことについて簡略に説明がされてあった。
チラシには電話をすれば5分以内でついちゃう♡とご丁寧にハートマーク付きだ。
チラシの内容で〇〇以内でつく!とかはよく目にするが、流石にこんな短時間は初めて目にする。まあ……こういう系は数々な店で出されたしそこは信用してないけど。
……
せっかくの休日なんだし、息抜き程度に呼ぶか?
いや、興味があるとかしたいからとかそういうのではない。ほんの息抜きだ。ほんのちょっとの!
自分から率先してやることがほとんどだったけど、最近仕事続きだったし!?なんなら頭痛もするし!?
それじゃーちょっと息抜きでもしましょうか?的な感じのやつ。そう、それだ。
……
…………
ポケットからスマホを取り出し、電話アプリを開いた。
そしてそのままチラシの番号にTEL!
見事電話は発信され、コール音も響くことなく電話は受話された。
え、はやくね??
「はぁい、何でしょう!」
電話の相手は男にも女にも捉えられる、中性的な声をしていた。
……この声が何処かで聞き覚えがあるような気がするが、きっと気のせいだろう。
「あーえっと……、そちらのお店の仕事の売上に貢献したくて……?」
「お店のご利用ですね!!」
大分遠回しにいったつもりだったが、意味合いは通じたようだ。
電話口の声のトーンは高くなり、よりハキハキとしたものになる。声だけでも喜が感じられた。
「ご希望の子の雰囲気は?」
「えーと…?攻めるのが得意な細身スレンダー?姫、?」
なんと言ったらいいかわからず、チラシに記載されてある言葉を話す。
自分には言葉の意味がよくわからなかったが、案外相手には伝わったようでだ。
ガチャリと勢いよく受話器を置く音が最後に聞こえ、電話は途切れた。
……
やっちまった。俺は。
本当に電話をかけてしまったという緊張感がドッとくる。
本当に5分以内に来るのかはわからないが、電話を掛けてしまったからには早かれ遅かれ本当に来てしまうのだ……。
……というか俺住所言ってなくないか?
ああ、まあでも近頃は技術が発展してるし……?こういう所ではプライバシーとかなんたらかんたらで言わなくても良くなったのだろう。
とにかく……そういう事をするかもしれないから部屋の片付けは必須だ。
まずは洗い物からしよう。俺は立ち上がり、流し台に向かった。
片付けをしながら待つこと、5分程度。
食器を片付けている時にチャイムの音は鳴った。
チャイムの音に、思わずガシャリと食器を流し台に落とす。
ほ、本当に来たーーーー!?!?
本当に5分で来るなんて思ってもいなかった。驚きのあまり口は半開きだった。
しかし、もう一度なるチャイムの音で我に返る。
来る間に片付けをしながら待とうと考えていたが、来たものは仕方がない。若干の不安は残るが、部屋はいつも綺麗にしているしたいして汚れもしていないだろう。
大きめの返事をして、一先ず皿だけを食器棚に戻す。
キッチンを出て、廊下を早歩きで歩く。
やがて玄関の前に立った。
……この先に、所詮デ〇ヘルとやらが待っている。
呼吸を整えて、緊張を解す。
そして、いざ扉を開けた瞬間!!