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セイヤの言葉にみんなが動きを止めた。

時が止まったように、みんながセイヤのほうへと視線を向けたまま静止している。

ハカセ

ほ、本当かい?

セイヤ

あぁ、きっとこの方法なら、誰も犠牲を出さずに乗り切れる。

セイヤ

みんなが解毒薬を確実に飲むことができると思うんだ。

ミナミ

そ、そんな手段、あるわけないじゃない!

先行して解毒薬を飲んでしまったのはミナミだけ。

もちろん、確率は低いかもしれないが、ミナミが毒を飲んだ可能性はゼロではない。

彼女からすれば、面白くないだろう。

確実に助かる特効薬が出てきたのだから。

セイヤ

あるんだよ。
もちろん、全くノーリスクってわけじゃないけど。

セイヤ

だからこそ、50㎖で済む解毒薬を、100㎖ずつ用意したんだろ?

担任のほうを睨みつけるセイヤ。

志賀先生

さてぇ、なんのことだろうか。

ヨウタ

セ、セイヤ。
本当かよ、俺達助かるのか?

アカリ

もー、早く言ってよ。

すっかり煽動されていたアカリとヨウタであるが、冷静になってくれたようだ。

ある意味で調子が良いとも言えるが、思い直してもらえたのであれば、この際どうだっていい。

セイヤ

みんな、ミナミ以外、誰も解毒薬を飲んでいないよな?

ハカセ

解毒薬を飲んでしまった人がいたら、素直に名乗り出て欲しい。

ハカセ

セイヤは、さっきも機転を効かせてくれて、僕達の班は結果的に全員が助かった。

ハカセ

だから、セイヤの言うことに耳を傾けることは、決して無駄じゃないと思うんだ。

ハカセの問いかけに、しかし手を挙げる者はいなかった。

セイヤは机の上から降りると、教壇に向かって歩き出す。教壇に群がっていたクラスメイトが自然と道を開けるさまは、さしずめモーゼの十戒である。

セイヤ

残っていた解毒薬は――全部で17本か。

セイヤ

このうち解毒薬は1600㎖、毒が100㎖か。

セイヤ

比率にすると1対16。
多分問題ない。

志賀先生

さてさて、セイヤ。
どうするつもりだ?

ニタニタと笑みを浮かべる担任を尻目に、セイヤは1本の瓶を手に取った。

そして、担任が用意したポリバケツを手に取る。

セイヤ

こうするのさ!

セイヤは瓶を開けると、その中身をポリバケツの中にぶちまける。

本当なら、消毒された綺麗なものを使いたいが、毒を飲むくらいなら、多少不衛生な解毒薬のほうがマシだろう。

セイヤ

ヨウタ、ツヨシ、手伝ってくれ!

ハカセは議長だからと、次々と瓶を開けながらヨウタとツヨシの名前を呼ぶ。

ヨウタ

お、おう!
なにをすればいい?

ツヨシ

俺になにかできるのか?

セイヤ

俺が瓶の蓋を開けるから、全部この中にぶち込んでくれ。

ヨウタ

分かった。

ツヨシ

そうか、そういうことか。

セイヤが開けた瓶を手に取りつつ、ツヨシがかすかに笑みを浮かべた。セイヤの意図を汲み取ってくれたのであろう。

セイヤ

ポイントは、この解毒薬の中に混じっている毒と、その解毒薬がイコールになってくれるところだ。

パンやお茶に混ぜられた毒。それと同じ毒が、解毒薬の中に混じっている。

つまり、混じっている毒もまた、解毒薬で解毒できる。

ヨウタ

よし、これで全部だ!

ヨウタとツヨシが協力してくれたおかげで、ポリバケツには瓶17本分の解毒薬と毒が入った。

セイヤ

よし、この時点で解毒薬と毒が混じったわけだ。

セイヤ

解毒薬が1600㎖、毒が100㎖。

セイヤ

ざっと計算すると、この中に混じっている毒の割合は、全体の6.25%だ。

セイヤ

これをそれぞれ瓶に詰め直すと、全ての瓶に毒が6.25%入ることになる。

シズカ

それって、全員が毒を飲むってこと?

セイヤ

言い方は変だけど、そういうことになる。

セイヤ

でも考えてみてくれ。
毒の割合が6.25%だとして、残りの93.75%はなんになる?

カシン

なるほど、残りは解毒薬ということになりますねぇ。

セイヤ

先生はわざわざ、50㎖程度で足りる解毒薬を100㎖に設定した。

セイヤ

必要以上量の解毒薬を用意したのは、こうして毒を希釈して、中和できるようにするためだったんじゃないかな?

解毒薬をひとつにまとめたら、今度は分配しなければならない。

これまた、担任が用意していたスポイトで解毒薬を吸い上げ、それぞれの瓶に100㎖ずつ注ぐ。

少し時間はかかったが、教壇の上には17本の解毒薬が並べられた。

もっとも、全てに等しく、そして少しずつではあるが毒が混じっているけれど。

ハカセ

毒と解毒薬を混ぜることで、毒そのものを希釈、中和したってことか。
セイヤ、考えたね。

ハカセはそう言うと、教壇の上に並べられた瓶を手に取った。

そして、みんなに見えるように瓶を掲げると、それをみんなの前で飲み干してみせた。

いくら中和されているとはいえ、多少なりとも毒が入っている。

だから、ハカセは自身を毒味役にして、みんなに安全であることをアピールしようとしたのだろう。

ハカセ

まぁ、すぐに結果が出るわけじゃないけど、気分が悪くなる――なんてことはなさそうだ。

人間とは簡単なものであり、誰かが口火を切ってしまうと、我も我もとあとに続く。

セイヤが再分配した解毒薬はみるみるうちになくなってしまった。

ハカセ

パンやお茶を口にしていなかった人も、しっかり解毒薬を飲んで欲しい。

ハカセ

でなければ、不正扱いとして殺されてしまうかもしれないからね。

カシン

……ヒメ、ハカセの言うことも一理あるかと思います。

ヒメ

えー、頭では分かっていても、毒は飲みたくないなぁ。

ハカセ

そんなことを言ってる場合じゃないんだ。
いいから飲んでくれ。

一部、否定的な人間はいたものの、飲まなければ殺されてしまうという事実が背中を押したのだろう。

みんながそれぞれ瓶を手に取り、解毒薬を飲んだ。

セイヤ

みんなで話し合って、少しずつリスクを背負えば、誰も死なずに済む。

セイヤ

それが、この問題の答えだ。

担任に向かって言うと、まばらな拍手がセイヤに送られた。

3年D組のクーデター

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