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足先から広がる
ビリビリとした鈍い痛み
まるで電流でも流されているようなこの感覚
原因は単純明快だが
俺はあえて
その原因を取り除こうとはしなかった
まだ…足りないのだ
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悠佑
国立大図書館の裏手
スタッフルームのようなこの部屋に 連れてこられた俺は
かれこれ数十分
正座をし続けていた
やってしまった……
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温かな“何か”に顔をうずめて泣きわめく
[ ]
[ ]
何もかもがわからなくなった俺は
そんな優しい声に促され
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心の内に溜めていた“本音”を漏らした
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そこからはとても言葉にできなかった
もし今言ってしまったら
俺は一生立ち直れない
そんな気がしたのだ
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[ ]
それから俺は
延々と泣き続けたらしい
トクン…トクン…トクン…
“何か”から聞こえてくる音と振動
次第に落ち着きを取り戻した俺は
重い頭を持ち上げる
そこで俺は知った
俺が顔をうずめていたものは
ゆうすけさんのお腹だったことを
鍛え上げられた腹筋
どうりで硬かったわけだ…
俺が泣き止んだことに気付いた彼は
ニコっと笑ってこう言った
悠佑
悠佑
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流石にもういい
てか、多分
涙枯れてこれ以上泣けない__
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やば
うわやった、俺やった
ゆうすけさんの腹に貼り付いている
べっとりと粘り気のある液体
既視感のあるその光景に
顔が青白くなる
これ…確か昨日も___
いるま
いるまもこの惨状に気が付いたのだろう
思いっきり吹き出した
慌てて口を塞いだようだが
微塵も笑いを隠しきれていない
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悠佑
悠佑
悠佑
何度も謝る俺を慰めてくれるゆうすけさん
しかし
本人が気にしてないとはいえ
俺はどうしても
凹まずにはいられなかった
最悪……
初対面で何やってんだ俺
悠佑
悠佑
悠佑
着替え終えた彼は視線を俺から外し
悠佑
正座する俺の横で 腹を抱えて笑い転げるいるまに
半ば呆れながら声をかけた
いるま
彼がこうなるのも無理はない
他人の服に鼻水を垂れ流すなど
極めて珍しい状況を
昨日に引き続き二度も目撃したのだ
少しは、2日連続で加害者になってしまった側の 気持ちも考えろよ!
でも良かった…
俺はそっと胸を撫で下ろす
別に「怒られなくて良かった」の安心ではない
号泣中のことは全く覚えていないが
状況と彼らの証言から
俺が何を口走ったのかは
なんとなく想像できた
決して
気持ちのいい話ではなかったであろう
にも関わらず
俺の視界に映るのは
目の端に涙をためて笑いを堪えるいるまと
俺の肩をぽんぽんと叩きながらニカッと笑う ゆうすけさん
彼らの様子を見ていると
落ち込んでいるのが なんだか馬鹿らしく思えてくる
俺は両袖で
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を拭い
赤く腫れた目で笑い返した
俺が「恩師の裏切り」について口にしたのは
この一回だけだ
コツ…コツ…コツ…
6つの靴が不規則なリズムを刻む
前にはいふさん
後ろには悠佑さんがいて
俺が逃げ出さないよう見張っていた
逃げねーよ
魔法もまともに使えないのに
首輪にそっと触れる
モニター室で装着されたこれは
魔力吸収機能搭載型
いわば魔法封じだ
魔法を主な武器とする俺にとっては
非常に厄介な代物である
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俺は溜息をつき
正面をまっすぐに見つめた
俺の前を歩くいふさんの右腕付近から
紫色の毛玉のようなものが飛び出している
いるまの頭だ
専用ポーションで一命を取り留めた彼は
引き続きいふさんに抱えられていた
未だ意識を取り戻さない彼の髪が
時折吹く隙間風で微かに揺れる
俺たちは今
暗い階段を黙々と降りていた
行き先はおそらく、いや間違いなく地下だろう
そう
かつて俺たちが生活していたであろう
実験場のある場所である
どんなところなのだろうか
本来なら
「行きたくない」と 泣き叫ぶ場面なのかもしれないが
実験場には少々興味があった
何度も言うが
俺は被験者時代の記憶が殆どない
だから知りたいのだ
昔の俺は
どんなところで暮らしていたのだろうかと
一種の里帰りみたいなもんだな
場に合わない呑気な思考
ここまで来ると
逆に冷静になるのかもしれない
悠佑
………あれ?
地下の一角であろう部屋に通された俺は
綺麗…だな
そんな感想を抱いた
100m²ほどの割と広い空間には
赤黒い絵の具が所々付着しており
亀裂の入った壁も見受けられる
常人が見れば
おそらく
誰もが“汚い”と感じるだろう
しかし
ここに来るまでに散々
悲惨な姿をした少年・青年たちの様子を 目に焼き付けてきた俺にとって
この程度はまだマシだとすら思えた
唯一難点があるとすれば
僅かながら死臭が漂っている点であろうか
悠佑
悠佑さんに誘導され
部屋の中央で一人佇(たたず)む
if
いふさんは
俺の立った位置からそう離れていない 比較的綺麗な床に
彼の両腕の中で眠っている俺の親友を降ろした
パチン
ジャラジャラ
眠ったままの彼をボーっと見つめていると
背後から音がした
悠佑さんが何やら作業をしている
なるほど
どうやら俺はたった今
この首に付けられた輪を通して
部屋にあらかじめ設置されていた鎖と 繋がれたらしい
おおかた
脱走対策といったところだろう
まー、妥当だよな
この状況を素直に受け取るあたり
つくづく俺は狂ってるのだろうと思う
悠佑
if
彼等はそう言い残し
バタン
この部屋唯一の扉から退室していった
静かだ
俺といるま
二人だけの空間
耳をすませば
親友の静かな寝息が聞こえてくる
彼が今も無事に生きていることに安堵しつつ
俺は辺りを見回した
壁に貼ってあるのは見覚えのあるタイル
明るい部屋で見た被験者の写真に
同じような壁が写っていたような気がする
となるとこの部屋は
例の実験部屋か
もしくは 同系列の別室…といったところかな?
概ね推測通りである
と、いうことは、だ
近くの赤黒い絵の具に触れる
この色……見覚えしかない
これは
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俺は顔をしかめる
今自分のいる場所を考慮すると
この血液が
かつての被験者たちのものであることは
容易に想像できた
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やべ、また……
想定内とはいえ
気分のいいものではない
吐き気がぶり返してきた俺は
咄嗟に
血液に触れた利き手を口元へと持っていき
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はたと思った
え、俺さっき血触ったよね…?
その手には
触ったであろう血液がついていなかったのだ
……でも確かに
液体の感触はなかったかも
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再び血液の付着した床に触れてみる
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叩いてみる
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こすってみる……
やっぱりだ
思いつく限り色んな方法を試してみたが
俺の手が血液の赤に染まることはなかった
床に染み込んでるのか
当たり前のことである
多少粘性があるとはいえ
血液が液体であることに変わりはない
染み込むのは当然と言える
だが今回は
そんな常識には当てはまらない例のようだ
一目見れば誰でも分かることであるが
この部屋の床は壁と同じく ツルツルとしたタイル素材でできている
多少放置しておいたところで
触れても付着しないほど 完璧に染み込んでいるのはおかしい
明らかに不自然だ
そこまで考えた俺は
数秒の後
口角を上げ
先程までの自分の思考を嘲笑った
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暇72
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ふとした拍子に懐古されるあの情景
夕日の差し込む執務室で目にした文字列は
今も脳裏に焼き付いて離れない
新聞の見出しのようにデカデカと書かれた プロジェクト名の右下には
そのプロジェクトの施行日時が記載されていた
それは
今から千年以上も前のものだった