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インターホンを押し、待つこと数秒。

引き戸が開くと同時に飛び出してくる黒い影。閃く刃。それを瞬時に両手で挟み、動きを封じる。いわゆる真剣白刃取りというやつである。

この応酬も通算五度目。いい加減、慣れてきた。

ジュディ

ふっ……腕は落ちていないようだな、正之

正之

ジュディさん、そろそろやめませんか、これ

いつも出てくるなり刃を振るうのは、ジュディスティア・スティール・ディセントラ――通称ジュディ。悪魔だ。ものの例えなどではなく、地獄から来た本物の悪魔なのだ。

ジュディ

勝ち逃げは許さん

黒いローブを身に纏った彼は中性的な声で呟く。彼が男だとわかったのはつい最近のことだ。長い黒髪に小柄で華奢な身体、痩せこけてはいるが整った顔立ち。初見で男と見抜ける者はそういないだろう。

正之

勝ってる気は全くしないんですが……

彼の剣戟は柄を握る小枝のような指からは想像もつかないほど力強い。こうしている今もギリギリと押され続けていて、少しでも両手から力を抜いたが最後、脳天から真っ二つにされそうだった。

ジュディ

だが、負かしてはいない

正之

引き分けでいいじゃないですか

ジュディ

それでは私が納得いかない

正之

(頑固な人だな! 人じゃないけど!)

呆れながらもタイミングを見て素早く剣を横に払い除ける。幼少時から祖父に厳しく叩き込まれた剣術や体術が、まさか出版社勤務で役に立つとは夢にも思わなかった。

正之

先生はいらっしゃいますか?

ジュディ

奥の作業部屋だ

ジュディは思いのほか素直に剣を収めた。

〆切間際だということを彼も考慮したのだろう。ホッと息を吐き、共に遊作の作業部屋へと向かう。

小鉄

正之さん、いらっしゃーい

襖を開けて部屋に入ると、化けカワウソの小鉄が出迎えてくれた。

小鉄

ごめんね、原稿はもうちょっとかかりそうなんだ

正之の前に座布団を引きずってきて、遊作の代わりに頭を下げる小鉄。

彼が謝る必要は何もないのだが、遊作のアシスタントとして原稿の手伝いをしているうちに、責任感のようなものが芽生えたのかもしれない。

しかし、当の遊作はといえば、

遊作

疲れたぁー……眠い……おやすみぃ……

やや長めの髪を一つ結びにした頭が、ガクンと机に伏せた。

小鉄

ダメだよ、ユウちゃん! 今寝たら間に合わなくなっちゃう!

小鉄が慌てて遊作の身体を揺さぶる。ジュディも苛ついた様子で剣を抜き、遊作の首筋に押し当てて、低く抑えた声で脅しをかけた。

ジュディ

起きろ。さもなくば殺すぞ

遊作

ふぁい……

緊張感の欠片もない気の抜けた返事。遊作はのっそりと頭を起こし、ペンを動かし始めた。

漫画家の伊佐遊作――ペンネーム・友凪ユウ――は放浪癖があり、その場の思い付きで気ままに行動してしまう人間のため、〆切が迫ってきても原稿が手付かずな場合が多い。

こういう状況はもはや毎月恒例と言ってもいい。

そのくせ、何故か小鉄とジュディ以外のアシスタントは雇いたがらないのだから困ったものだ。

遊作

もうやだー! 正之くーん、手伝ってぇー!

身長183cmの大きな男が長い手足をじたばたさせて駄々をこねはじめた姿には、怒りを通り越してもう笑うしかなかった。

正之

はいはい、僕は何をしたらいいですか

小鉄とジュディがアシスタントをしてもまだ手が足りず、とうとう編集者の正之まで使われる。これもまた毎月恒例のことだった。

まったく、大変な先生の担当になってしまったものだと正之は思う。

だが、迷惑ばかりかけられて、アシスタントからパシリまでやらされても、何故か憎めない。同僚や先輩には 「おまえはお人好しすぎるから」とよく言われるが、理由はそれだけではないような気もしていた。相性の問題だろうか。

正之

(まぁ何はさておき、今は原稿だ)

正之

もう一息ですよ。頑張りましょうね、先生

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