放課後閻魔堂【完結】

放課後

半日が過ぎても、生徒たちの話題は転落事件一色だった

大事にならなかった安堵からか、聞こえるのは無責任な連想ゲームだ

そんな中を、英真は篁の後ろについて逆方向へと進む

生徒の精神面を考慮し、数日間の部活動停止が通達されたため

清掃時間を終えた現在は、英真たち以外誰もが帰路につき始めていた

小遣いは貯金に回しているため、財布にあるのはスズメの涙だ

にもかかわらず、英真はどこか楽観的に、篁に身を任せていた

理科棟を抜け、中央棟の地下へと向かう

引き戸を開けた瞬間、出迎えたのは

携帯ゲーム機に奮闘する一人の生徒だった

一瞥もせずに携帯ゲームに興じる人物をポカンと眺め

どうしたものかと居心地悪く肩身を狭める

しかしその瞬間、背後からか細く風が鳴った

床に転がったのは、小さいキャラクター消しゴムだ

側頭部に直撃したそれを涙目で拾い上げ

消しゴムの威力じゃないと愚痴る姿に引きつりつつ見返ると

呼び出しをかけた先輩のほかにもう一人

白いまゆ毛が柳のように垂れた老人が立っていた

促されるまま、一番近い椅子に腰を下ろす

しかしそのとたん、全員がまじまじと自分を眺める視線に

英真は怯えた様子で、膝に置いた手を握りしめた

引きつった声が落ちたまま、沈黙と硬直が続く

冷や汗をかかんばかりに戸惑っているその姿に、渋谷は頬を掻いた

困った様子の渋谷に申し訳なさそうにしつつ、それでも恐る恐る手を触れる

しかしその直後

まばたきもしない間に、英真を見知らぬ二つの青白い顔が覗き込んでいた

憤慨しながら二人を引き離し、部室の隅に連れて行く渋谷を尻目に

英真は篁にしがみついたままガクガクと震えている

青白い顔の二人は、明らかに透けていた

非常識すぎる説明にも、トリックや詐欺を疑う余裕がない

なにより目の前で、半透明な存在がケラケラと笑い転げている

ごくりと唾液を飲み下すことですべての疑問点を飲み込み

震えながら小さく手を挙げる

頬杖をついての試すような質問に、思わずまばたく

そこにきて、会ったばかりの三人が自分を凝視していた意味を知る

霊の存在を鮮明に教えたのは、自分にもナニかが憑いているためだと気付き

英真は蒼白になって身を強ばらせた

その時、硬質な音を立てて英真のスマートフォンが転がり落ちる

机の下に滑り込んだそれをすかさず拾い上げ

まじまじと観察したあと本田へ渡す

やがて全員が回覧したあと、本田はスマートフォンについたお守りを指さした

考え込みながら、久留間と渋谷にも意見を聞く本田の話が読めず

英真は隣に座る篁の袖を引き、小さく耳打った

篁の言葉の終わりを待たず割り込んだ久留間の声に、思わず背筋が帯びる

それをにこやかに見て、久留間は机の上に身を乗り出した

意図に気付き、また青ざめる

人好きのしそうな、わざとらしいほどに柔らかな笑顔を前に

英真はよりいっそう、鬼王の袖を掴む指に力を込めた