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2006/12/08 Re:Re:蛍が飛び始めた日

るなと出会った日の記録を途中まで書き終えた私は

持参している古いノートパソコンがフリーズしても内容が消えてしまわないように

一旦

保存をクリックしました。

カチカチとロッピーディスクにデータが書き込まれていくときの音は

心臓の鼓動に似ているような気がします。

 

結局

 

ツンデレが萌えるわぁ

 

ボクは最近

 

ヤンデレはですかねえ

 

あ、それだったら

 

いいヤンデレ漫画く

 

貸そうか?

 

それ

 

BLですよね?

 

当然ながら

 

じゃあボク

 

腐ってないんでいいです

 

え…

 

そうなん?

 

衝撃なんだけど

 

あ、言ってませんでしたっけ?

 

ボク

 

こう見えて夢女子なんで

 

マジか。

 

絶対に腐ってると思ってたわ…

 

まあ、ある意味

 

腐ってはいますけどね

 

確かに

 

オタクはみんな腐ってる

放課後

五十嵐と大川

(ちなみに実際そう読んだことはありませんが2人がそう呼び合ってるので心の中でそう呼んでいました)

がお手本のようなオタク用語を振らせる部室の隅で

こうして

この少し黄ばんだキーボードを叩くのが

私の主たる活動と言ってといいでしょう

今は日記を書き記していましたが

大抵は小説を書いています。

父が亡くなってからというもの

それまで自分にも小説が書けるなんて発想すらなかったのに

私の指はまるで呪われたかのように

物語を紡ぐことを求めました。

それに告げられた通り

自分には才能があるような気もするのです。

書いた小説を誰かに読んでほしくなり

個人サイトを立ち上げて発表してみると

予想もしていなかった感想の数が

BBS(掲示板)に書き込まれたりもしました。

といっても私が創作している小説は

既存のキャラクターを主人公にした

いわゆる二次創作と呼ばれるもので

さらに

もともと需要のある人気ジャンルの王道カップリングを扱っているからかもしれません。

未だオリジナルの物語を創作したことはありませんでした。

書くことを恐れているのかもわかりません。

だって小説というのは自分の中からしか生まれないのです。

もしも自分の心がどす黒い何かで汚れきっていたらと思うと

一体どんな物語が生み出されてしまうのか

想像するだけで私は恐ろしくなってしまうのです。

それに

 

 

小説など書いてはいけない。

そう

頭ではわかっていました。

 

では保存の音が鳴り止みましたので

あの日の続きを綴り始めます。

私は基本的に

誰とも目を合わせないように生きていました。

だけどあの瞬間ばかりは

部室

(といっても校舎の改築工事を経て光の当たらなくなってしまった空き教室を与えられただけですが)

の入り口で微笑むるなの可憐さに

無抵抗なほど魅入ってしまうのです。

そして…

始めてるなと視線が重なった瞬間のことは

生涯忘れられないでしょう。

だってるなは

私にも聞いてくれたのです。

 

あなたもメールアドレス教えてくれる?

と。

私の順番は回ってこない

そう思っていたのに。

オタクの巣窟と呼ばれるこの生物部の中ですら

私は背景でした。

五十嵐や大川に無視をされてるわけではありません。

ただ私が

声を発することができないからです。

病気ではありません。

頑張れば話せることもわかってます。

けれどそれはとても聞き取りづらい音になるでしょう。

私の顔には

右頬から口元にかけて

およそ十センチ四方のひきつれたやけどの跡があります。

うまく発音できなくなったのは

この傷跡が原因です。

あまり思い出したくないのですが

 

 

二年前ほどに負ったものです。

食事のことなども考えると包帯も巻けない箇所で

大きめのマスクで隠してはいますが

覆い切れない部分はどうしても露出してしまいます。

どうにか鼻の下辺まで前髪を伸ばしてカモフラージュしてはいるのですが

異様な姿であることには変わりありません。

辛いというか

この火傷の痕のおかげで

東京の学校に通ってた頃のように

残忍ないじめに遭うということはありませんでした。

相当気味が悪いのでしょう

クラスメイトは誰一人として話しかけてこないからです。

京都(ここ)では

私の素性を誰も知らないからなのかもしれません。

とにかく喋れないのも相まって

教室ではいないとこになっていました。

でも放課後だけは

背景といえども五十嵐と大川は私の存在がちゃんと認識していてくれます。

ときどき楽しそうに話しているふたりを無意識に眺めてしまい

視線がかち合ってしまうと

笑いかけてもくれます。

きっと私が生物部(ここ)に居やすいように

アロたんの餌やりも任せてくれました

母には

 

お前がいると息が詰まるから十九時まで帰ってくるな

と言われているのもあって

校門が閉まるギリギリまでこの空間で過ごすことが

いまとなっては唯一の安らげる時間でした。

 

 

少し脱線してしまいましたが

るなから声をかけられた喜びから

こうしていつになく詳細すぎる日記まで書き残してしまうほどだったのに

緊張が頂点に達して

あの日私はなかなか反応できませんでした。

 

良かったら

 

携帯出してくれる?

すると火傷の痕が見えたのでしょう

私が話せないことを悟ってくれたのだと思います。

微笑みを絶やさないままに

るなはそんな指示をくれたのです。

すぐに頷いて

スクールバックの中から

時代遅れの二つ折りにできないケータイを取り出しました。

赤外線機能もついてないので

るなはわざわざ

私の長たらしい初期設定のままのアドレスを打ち込んで

登録してくれました。

 

名前は?

そう聞かれたので

ブレザーの胸ポケットから学生書を取り出して見せました。

 

ふうん。

 

のあ…か

 

すごくいい名前だね

内緒話を耳元でささやくようにして

るなは褒めてくれました。

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