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轟姫

で、

轟姫

奴はどうするんだ

鴉の脱走から1夜明けた。 轟姫(とどろき)は蛇のスープを飲み干すと静かに問う。

霧我

あ?

轟姫

とぼけるな。鴉の事だ

轟姫

「国王派」の回し者を我が軍に招き入れたばかりか、脱走を許した。我が軍始まって以来の大失態だ早急に

霧我

わーってる、わーってるから落ち付けって。魔術出てっから

轟姫の握った拳から細く煙が立ち上っていた。 白いテーブルクロスに焦げ跡が刻まれる。

霧我

__ま、お前の言う通り由々しき事態である事に間違いねぇよ。鴉は早急に消さなきゃいけねぇ

霧我

……俺は考えた。鴉はどこに情報と武器を流したのかって

轟姫

だから「国王派」の……あ

霧我

そうだ「対抗勢力」。確証はねぇが そいつと鴉が繋がってる可能性は大きい

霧我

潰すんなら そいつらごとだ

轟姫

…霧我(むが)にしては頭が回るな

霧我

___ってジィさんが言ってた

轟姫

残夢(ざんむ)か。
……ではその「対抗勢力」とやらを殲滅するんだな

霧我

だから落ち付けって。俺達はまだ「対抗勢力」がどんな奴らなのかも知らねぇ

霧我

だが雅美(みやび)の魔術で分かった事がある

霧我

こっから北の「蛇塚」に、不自然に大量の武器があって、それをどっかに運び込んでる奴らがいるってよ

轟姫

ほう

霧我

…だから手始めはそいつらだ。先手必勝ってよく言うだろ

霧我

そんで武器を流されたのは俺達にとっても痛手だ。出来れば取り返したい

霧我

取り返すっつっても、こっから蛇塚まで何往復もしてたら奇襲の意味がねぇ。一回で事足りる体力の持ち主__

轟姫

なるほどな。霧我の言いたい事は分かった

霧我は頬杖をつくと、横に裂けた口を舌で舐めた。

霧我

____力豪(りきごう)に行かせた

___国王が存命だったコルティアでは、蛇革産業が栄え、様々な蛇革製品が作られていた。

そして劣化等で使えなくなった蛇革製品を、感謝の意を持ってここ蛇塚に埋めるのだ。

ここは木はあまり育たず、代わりに背の高い岩がところどころそびえ立っている。

その中でも一際大きく高い岩に、注連縄のようなロープが巻かれ、その周辺の土は常に穴を埋めた跡がある。

____その注連縄の岩に今は、たくさんのカラスが武器を運んでいた。

今日も大量だなぁ

これを全部レジスタンスの総本部に運び込むってんだから今日も重労働だぞ

まぁ新入りだから仕方ねぇよ。それにあとでゴームさんも手伝いに来てくれるらしいし

___にしてもアレンさん達、本気なのかね

ん?

鴉とか言う奴だよ。この武器置いてってるカラスの飼い主

あいつ元は「侵攻軍」にいたんだろ?信じられんのか?

……あーオレ チラッと聞いたんだけど

鴉もアレンさんと同じ、昔「城」に住んでたらしいぜ

だからもしかしたら顔馴染みかもしんねぇ

マジか

力豪

成る程
顔馴染みなら匿っていても何ら不思議は無いな

!?

!?

カラスが羽を振るわせ、甲高い声で鳴き出した。

運び役の男達の背後に、いつの間にか分厚い鎧に身を包んだ男が立っていた。

風に靡く髪は鮮やかな赤。 勇者然とした立ち姿だが放たれるのは____

こ、こいつ……四元素の…

あ、アレンさんに報告を…

バキッ

背を向けた運び役の1人の片腕から、鈍い音が響く。

あが…ぎゃああああああああああっ

・・・・・・・ 親 指と人差 し指 で腕を絞め上げたまま、力豪はもう1人の運び役を見やった。

力豪

お前達に質問がある

風に靡く鮮やかな赤髪。 勇者然とした立ち姿。しかし放たれるのは

冷たく鋭い殺気。

力豪

先程「鴉」と言ったな。奴の所在は分かるか?

っ………

誰が教えるかよ……っ

力豪

____そうか

力豪は重苦しく息を吐き出すと、 絞め上げていた手を放した。

・・・・・ 力豪に摘ままれた 手は だらりと頼りなく垂れ下がり、男は地面に倒れ

___伏す寸前、力豪の右手が閃いた。

容易に骨を折る事の出来る掌は、 男の頭部を覆っている。

……!

力豪

では質問を変えよう

力豪

お前達は、我らの殲滅対象「対抗勢力」の者か?

ミシッミシミシミシ

力豪に力を入れているようには見えないが、その音は確実に掌から聞こえる。

やめ……ろ…やべて………

力豪

お前には聞いていない。
__さぁ友の頭を砕かれたくなければ質問に答えろ

力豪

お前達は我らに対抗する者か?

くっ……

ゴーム

___レジスタンス。
知らねぇならよく覚えておけ

銃声。

近くの岩から、力豪に匹敵する体躯の男が踊り出た。 男___ゴームは素早く手にしていた大型の銃を構えると

頭部を拘束する手に発泡した。

力豪の手が離れ、運び役の男は今度こそ柔らかい砂地に倒れ込んだ。

ゴーム

悪い、遅れた

はぁ…はぁ……
ゴームさん…

ゴーム

自力で歩けるか。
蛇塚を出たらジープがある。本部で手当てを受けろ

ゴームさんっ…

ゴーム

ここは俺が引き受ける

運び役の男2人が転がるように蛇塚をあとにする。

しかし力豪はそれを追わず、視線すら送らず 赤い髪を靡かせ正面からゴームを睨(ね)め付けた。

力豪

レジスタンス……と言ったな?

ゴーム

ああ。
骨の髄まで刻み付けろ。恩知らずの反逆者

ゴームは着ていたジャケットを脱ぎ捨て、銃口を向けた。 Tシャツから覗く腕に、無駄な脂肪は一切付いていない。

ゴーム

お前達を討伐する__俺達はレジスタンスだ

振動。 二回目の引き金を引いた。

即ち開戦のゴング。 力豪の右足首めがけて飛翔する銃弾は

しかし何にも貫通せず砂地にダイブする結果に終わった。 流石は護衛騎士団のトップだった男だ。

この程度の軌道を読むくらい朝飯前だろう。 __難なく銃弾をかわした力豪はその右足を

四股を踏むが如く勢い良く振り降ろした。 一瞬で、力豪の顔の高さまで砂煙が立ち上る。そして

薄く砂塵の向こうに黄緑の粒子が___…

ゴーム

__見えた気がしたと思った時には、 砂煙を破って力豪が突進して来た。鎧を装着してるとは思えないスピードだ。

運び役の男を襲った掌が迫って来る___…

ゴーム

___あとコンマ数秒 判断が遅れてたら、骨は木端微塵だった。

咄嗟に構えた銃は木端微塵になったが。

力豪の手は、中指と人差し指で円を作っていた。他愛も無い「デコピン」の形。

銃も骨も破壊する「デコピン」___。

力豪

どんなに屈強で強くとも

力豪

いずれは寿命で尽きる。しかし大地は違う

力豪

大地は変わらずそこに有る。
幾千、幾万の生物の記憶を刻みそこに有り続ける

力豪

その「息吹き」に触れた時、野生の力は増大する

力豪が再び四股を踏んだ。立ち上る砂煙と、黄緑の粒子。

力豪は静かに、五指を丸め拳の形を作った。 黄緑の、湯気のような物が拳を包む。

力豪

大地の加護を受け自身を高める。これが我の魔術だ

そして黄緑の尾を引き拳が繰り出される。

ゴーム

っ………

爆風に似た衝撃が、砂地に波紋を刻む。

一瞬でも気を抜くと吹き飛ばされる。

__力豪の隕石のような拳を、俺もまた拳で受け止めていた。

ゴーム

___要は怪力自慢だろ。奇遇だな

ゴーム

「城」に住むほど高貴な身分じゃねぇが、王族の護衛ってんで贔屓にはして貰ってた

ゴーム

武器は己の手足。
こう見えて師範代

拮抗状態が解け、二者同時に距離を取る。 態勢を整えると俺はすぐさま走り出した。

一瞬で距離を詰めると、近くの岩に飛び移り右の回し蹴り。

ガァンッ

右足は力豪の肘に阻まれた。 しかし力豪の軸足は僅かに砂地にめり込む。

俺は口の端を吊り上げて笑って見せた。

ゴーム

俺も体力には自信がある

力豪

……ふん。
城に住まわせて貰えなかったのは実力が無いからではないか?

ゴーム

反逆者のマウントなんて痛くも痒くもねぇよ!

突き。弾かれ、蹴り技。受けて、蹴り上げ__

瞬きした時にはもう相手の姿は無い。全神経を研ぎ済ませ、感じ伺う。

相手の拳の気配。 己の拳のタイミング。

近距離。 常に立ち上る砂煙の向こうの、せわしなく舞う2つの影___

ビキィッ

ゴーム

…シッ

宙を舞ったのは、力豪の鎧の一部。破片。

今までで一番大きな手応え。 俺は後ろに飛んで距離を取った。

いける。この勝負_____…

力豪

______小僧

剥がれた鎧を一瞥した力豪は、静かに重く 声を発した。

力豪

__何故(なにゆえ)我らが「四元素」と改称したか、分かるか

力豪

「地」「風」「火」「水」。
この世を構成する4つの元素

力豪

占星術ではこれを基に、12星座を4つのグループに分類した

一際強く、力豪が地を踏んだ。 砂煙と共に舞う黄緑の粒子__

__の彩度が心なしか高い気がする。

ゴーム

そして次の瞬間、目も開けていられないほどの黄緑の閃光が視界を染める。 俺は腕で目を覆った。

力豪

我の「地」に分類されるのは乙女座、山羊座。そして

未だ視界は黄緑だが、ようやく像を結べるようになって来た。

黄緑のオーラのような物を纏った力豪の頭部に、見慣れぬ物があった。 湾曲し先端が尖っている それは…

ゴーム

ツノ!?……ッ

右肩に衝撃。激痛。身体が宙に浮いた。

突進だ。 __と理解した時には岩に背中を打ち付けていた。

ゴーム

ガハッ…

力豪

___牡牛座だ

力豪が再び突進の姿勢に入る。 立たないと、直撃だ。骨を砕きツノまで付いた突進。

立たないと、殺される。 立たないと…

力豪

我ら四元素の先祖は、元は卓越した科学者集団だった

ゴーム

グッ…

力豪

魔術を物や体内に取り組む事を可能にし、戦闘においてもトップに立つ事が出来た

ゴーム

ガッ……

力豪

粋がるな小僧。
我らとの間には圧倒的な

ズボッ

大量の血が零れ落ちる。 堪らずうつ伏せに倒れ込んだ。

ツノの先端を血に染めた力豪は静かに重く、声を発した。

力豪

絶望的な戦力差がある

力豪

王家に固執するお前の手向けだ

力豪は 注連縄の岩に放置された武器の山から大振りの剣を掴み取った。

力豪

護衛騎士であった時のように

力豪

トドメは剣で刺してやろう

心臓部めがけて剣を振り下ろす力豪の

動きが止まった。

力豪

む……!?これは

ゴーム

はぁ…はぁ……へへっ

ゴーム

やっと…止められたか。厄介だぜお前の怪力…

力豪

貴様…

血に濡れた砂を掴み、震えながら半身を起こす。

ゴーム

はぁ…はぁ…
ここは、魔術の世界だぜ…

ゴーム

……いくら俺でも、お前相手に接近戦なんて…リスクの方が大きい…普通は選ばねぇよ

ゴーム

・・・・・・
張り巡らせる のに、さっきから飛び回ってるカラスは適任だ

力豪

きさ、ま……

抉れた左脇腹を抑えながら、俺は立ち上がった。

ゴーム

___俺の魔術は「糸」

ゴーム

目には見えない透明の糸を自在に操れる

ゴーム

身体が動かねぇだろ。
俺の接近戦と飛び回るカラスで、この蛇塚には無数の糸が張り巡らされてる

ゴーム

お前を止めるには糸を束にする必要があったがな

力豪

………ふん。たかが。
たかが糸で大地の加護を受けた我が

ビンッ

鎧ごと。 力豪の片腕が飛んだ。

間抜けな音を立てて、大剣も砂地に落ちる。 力豪が目を見張った。

ゴーム

無闇に動こうとするな。
武術と同じ鍛練の積み重ねで、糸の硬度は鉄以上だ

力豪

ぐ……

空いてる手を掲げ、 その五指をゆっくり曲げていく。

ゴーム

今から糸は、ゆっくりお前の身体に食い込んでいく。五体満足で居られるかは

ゴーム

お前の怪力次第だ

力豪

ぐ……ぐぁ…っ

ギシギシと音を立て、糸が力豪を蝕み始める。 鎧は剥がれ、ツノが飛んだ。

それでも、俺の手は完全な拳の形を作らない。 指が押し返される。

力を込めると脇腹から血が吹き出た。

ゴーム

ぐ…ぅ……

力豪

四元素たる我が……大地の加護を受けた我、が……糸…っ…ごときでぇっ……

ゴーム

………っ

「ごとき」。 その言葉は聞き飽きた。

鍛練なら積んだ。 叶わなかったが、城に住み王族を護衛する為に。アレンを、護る為に。

城に住めなかったから何だ。 「粋がってる」とは言わせない。 俺だって護衛するんだ。

「ごとき」とは言わせない。

拳。

力豪

ガああああああアアアアぁぁアアあァァぁぁァぁぁアアああッ

血の雨。 そして、倒れ伏す音。

ゴーム

はぁ…はぁ…
得体の知れねぇ相手に、

ゴーム

手の内は明かしすぎない方がいいぜ

霧我

帰って来ねぇな力豪。
返り討ちにでも遭ったか?

アレン

そうか、力豪を…

アレン

悪いな1人で戦わせて。……ケガまで負わせて

ゴーム

…痛くも痒くもねぇよ。お前を護れたんだから

アレン

お前が作ってくれた好機は無駄にしない

アレン

俺は侵攻軍を討つ

ゴーム

俺も行くぞ

アレン

安静にしてろ。左の腹 穴開いてんだぞ

ゴーム

こんなの…っ

アレン

俺の前で、誰かが死ぬのはもうごめんだ。
俺を護りたいなら安静にしてろ

ゴーム

……ああ

レジスタンス総本部。医療室。

その窓辺。 2人のやり取りを、1匹のカラスが見守っていた。

その首には盗聴機がぶら下がっている___

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