轟姫
轟姫
鴉の脱走から1夜明けた。 轟姫(とどろき)は蛇のスープを飲み干すと静かに問う。
霧我
轟姫
轟姫
霧我
轟姫の握った拳から細く煙が立ち上っていた。 白いテーブルクロスに焦げ跡が刻まれる。
霧我
霧我
轟姫
霧我
霧我
轟姫
霧我
轟姫
霧我
霧我
霧我
轟姫
霧我
霧我
霧我
轟姫
霧我は頬杖をつくと、横に裂けた口を舌で舐めた。
霧我
___国王が存命だったコルティアでは、蛇革産業が栄え、様々な蛇革製品が作られていた。
そして劣化等で使えなくなった蛇革製品を、感謝の意を持ってここ蛇塚に埋めるのだ。
ここは木はあまり育たず、代わりに背の高い岩がところどころそびえ立っている。
その中でも一際大きく高い岩に、注連縄のようなロープが巻かれ、その周辺の土は常に穴を埋めた跡がある。
____その注連縄の岩に今は、たくさんのカラスが武器を運んでいた。
力豪
カラスが羽を振るわせ、甲高い声で鳴き出した。
運び役の男達の背後に、いつの間にか分厚い鎧に身を包んだ男が立っていた。
風に靡く髪は鮮やかな赤。 勇者然とした立ち姿だが放たれるのは____
バキッ
背を向けた運び役の1人の片腕から、鈍い音が響く。
・・・・・・・ 親 指と人差 し指 で腕を絞め上げたまま、力豪はもう1人の運び役を見やった。
力豪
風に靡く鮮やかな赤髪。 勇者然とした立ち姿。しかし放たれるのは
冷たく鋭い殺気。
力豪
力豪
力豪は重苦しく息を吐き出すと、 絞め上げていた手を放した。
・・・・・ 力豪に摘ままれた 手は だらりと頼りなく垂れ下がり、男は地面に倒れ
___伏す寸前、力豪の右手が閃いた。
容易に骨を折る事の出来る掌は、 男の頭部を覆っている。
力豪
力豪
ミシッミシミシミシ
力豪に力を入れているようには見えないが、その音は確実に掌から聞こえる。
力豪
力豪
ゴーム
銃声。
近くの岩から、力豪に匹敵する体躯の男が踊り出た。 男___ゴームは素早く手にしていた大型の銃を構えると
頭部を拘束する手に発泡した。
力豪の手が離れ、運び役の男は今度こそ柔らかい砂地に倒れ込んだ。
ゴーム
ゴーム
ゴーム
運び役の男2人が転がるように蛇塚をあとにする。
しかし力豪はそれを追わず、視線すら送らず 赤い髪を靡かせ正面からゴームを睨(ね)め付けた。
力豪
ゴーム
ゴームは着ていたジャケットを脱ぎ捨て、銃口を向けた。 Tシャツから覗く腕に、無駄な脂肪は一切付いていない。
ゴーム
振動。 二回目の引き金を引いた。
即ち開戦のゴング。 力豪の右足首めがけて飛翔する銃弾は
しかし何にも貫通せず砂地にダイブする結果に終わった。 流石は護衛騎士団のトップだった男だ。
この程度の軌道を読むくらい朝飯前だろう。 __難なく銃弾をかわした力豪はその右足を
四股を踏むが如く勢い良く振り降ろした。 一瞬で、力豪の顔の高さまで砂煙が立ち上る。そして
薄く砂塵の向こうに黄緑の粒子が___…
ゴーム
__見えた気がしたと思った時には、 砂煙を破って力豪が突進して来た。鎧を装着してるとは思えないスピードだ。
運び役の男を襲った掌が迫って来る___…
ゴーム
___あとコンマ数秒 判断が遅れてたら、骨は木端微塵だった。
咄嗟に構えた銃は木端微塵になったが。
力豪の手は、中指と人差し指で円を作っていた。他愛も無い「デコピン」の形。
銃も骨も破壊する「デコピン」___。
力豪
力豪
力豪
力豪
力豪が再び四股を踏んだ。立ち上る砂煙と、黄緑の粒子。
力豪は静かに、五指を丸め拳の形を作った。 黄緑の、湯気のような物が拳を包む。
力豪
そして黄緑の尾を引き拳が繰り出される。
ゴーム
爆風に似た衝撃が、砂地に波紋を刻む。
一瞬でも気を抜くと吹き飛ばされる。
__力豪の隕石のような拳を、俺もまた拳で受け止めていた。
ゴーム
ゴーム
ゴーム
拮抗状態が解け、二者同時に距離を取る。 態勢を整えると俺はすぐさま走り出した。
一瞬で距離を詰めると、近くの岩に飛び移り右の回し蹴り。
ガァンッ
右足は力豪の肘に阻まれた。 しかし力豪の軸足は僅かに砂地にめり込む。
俺は口の端を吊り上げて笑って見せた。
ゴーム
力豪
ゴーム
突き。弾かれ、蹴り技。受けて、蹴り上げ__
瞬きした時にはもう相手の姿は無い。全神経を研ぎ済ませ、感じ伺う。
相手の拳の気配。 己の拳のタイミング。
近距離。 常に立ち上る砂煙の向こうの、せわしなく舞う2つの影___
ビキィッ
ゴーム
宙を舞ったのは、力豪の鎧の一部。破片。
今までで一番大きな手応え。 俺は後ろに飛んで距離を取った。
いける。この勝負_____…
力豪
剥がれた鎧を一瞥した力豪は、静かに重く 声を発した。
力豪
力豪
力豪
一際強く、力豪が地を踏んだ。 砂煙と共に舞う黄緑の粒子__
__の彩度が心なしか高い気がする。
ゴーム
そして次の瞬間、目も開けていられないほどの黄緑の閃光が視界を染める。 俺は腕で目を覆った。
力豪
未だ視界は黄緑だが、ようやく像を結べるようになって来た。
黄緑のオーラのような物を纏った力豪の頭部に、見慣れぬ物があった。 湾曲し先端が尖っている それは…
ゴーム
右肩に衝撃。激痛。身体が宙に浮いた。
突進だ。 __と理解した時には岩に背中を打ち付けていた。
ゴーム
力豪
力豪が再び突進の姿勢に入る。 立たないと、直撃だ。骨を砕きツノまで付いた突進。
立たないと、殺される。 立たないと…
力豪
ゴーム
力豪
ゴーム
力豪
ズボッ
大量の血が零れ落ちる。 堪らずうつ伏せに倒れ込んだ。
ツノの先端を血に染めた力豪は静かに重く、声を発した。
力豪
力豪
力豪は 注連縄の岩に放置された武器の山から大振りの剣を掴み取った。
力豪
力豪
心臓部めがけて剣を振り下ろす力豪の
動きが止まった。
力豪
ゴーム
ゴーム
力豪
血に濡れた砂を掴み、震えながら半身を起こす。
ゴーム
ゴーム
ゴーム
力豪
抉れた左脇腹を抑えながら、俺は立ち上がった。
ゴーム
ゴーム
ゴーム
ゴーム
力豪
ビンッ
鎧ごと。 力豪の片腕が飛んだ。
間抜けな音を立てて、大剣も砂地に落ちる。 力豪が目を見張った。
ゴーム
力豪
空いてる手を掲げ、 その五指をゆっくり曲げていく。
ゴーム
ゴーム
力豪
ギシギシと音を立て、糸が力豪を蝕み始める。 鎧は剥がれ、ツノが飛んだ。
それでも、俺の手は完全な拳の形を作らない。 指が押し返される。
力を込めると脇腹から血が吹き出た。
ゴーム
力豪
ゴーム
「ごとき」。 その言葉は聞き飽きた。
鍛練なら積んだ。 叶わなかったが、城に住み王族を護衛する為に。アレンを、護る為に。
城に住めなかったから何だ。 「粋がってる」とは言わせない。 俺だって護衛するんだ。
「ごとき」とは言わせない。
拳。
力豪
血の雨。 そして、倒れ伏す音。
ゴーム
ゴーム
霧我
アレン
アレン
ゴーム
アレン
アレン
ゴーム
アレン
ゴーム
アレン
ゴーム
レジスタンス総本部。医療室。
その窓辺。 2人のやり取りを、1匹のカラスが見守っていた。
その首には盗聴機がぶら下がっている___
コメント
4件
壮大な世界観と展開に心おどります! 多彩な登場人物たちにも楽しませてもらってます☺️