「報告します!
館内に侵入者……ギャアアアっ」
侵攻軍。 四元素が集う広間には、通信のベルが鳴り止まない。
無我
轟姫
無我
轟姫
轟姫
轟姫は焦げ跡の刻まれたテーブルを小突くと、苛立たし気に席を立った。
轟姫
無我
雅美
一転して優美な仕草で。 雅美(みやび)は傍の水瓶(みずがめ)を引き寄せた。
雅美
にこり と微笑む雅美を、 轟姫は一瞥しすぐに視線を戻した。
轟姫
微笑む雅美の目元が、一瞬ピクリと反応した。
しかし轟姫は振り返りもせず、長い髪を翻し広間をあとにする。 無我が肩を竦めた。
無我
無我
雅美
__雅美の顔から笑みが消え、水瓶を抱く手は震えていた。
これは運命だ。
もし神様とやらがいるなら、きっと俺達の味方をしている。
___侵攻軍 討ち入り。 夢には見ても机上の空論に終わった仇討ちが、今実現している。
イロハ
ミファエル
侵攻軍の鴉の離脱。 ゴームの力豪撃破。 ___全ての事が、今しかチャンスは無いと俺に語りかけている。
だから俺は決意した。 俺は今レジスタンスの一員として、城に住んだ者として
侵攻軍のアジトに奇襲をかけている。
今までは特に苦労する事なく兵を進めたが、
ミファエル
アレン
アジトに討ち入り、四元素がいる(鴉の情報)上階に兵を進めたが、俺たちは中庭のような場所に出た。
中庭と言っても、直方体をくり貫いたような空間だ。屋根はあり空は見えない。
それでも水が張られ、木々の緑が眩しい。 人の気配は今のところ____
イロハ
突然イロハがタックルして来た。 数歩よろめく。
俺たちがいた場所を、 高速の何かが横切った。あれは……
アレン
手裏剣はブーメランよろしく有り得ない軌道を描き、
投げた主の手に返って来た。
雅美
イロハ
木陰から、水瓶を携えた和服の女が歩み出て来た。 手裏剣はあの水瓶から出て来たのだろう。
雅美
雅美
イロハ
イロハは女と対峙すると ニッと勝ち気な笑みを浮かべた。
イロハ
イロハ
雅美
雅美の横を通り抜けるアレン達を一瞥し、水瓶から手裏剣を抜きながら雅美も対峙した。
雅美
ミファエル
アレン
ミファエル
心なしか、ミファエルが唇を尖らせた、気がする。
チラリとそちらを見ると顔を背けてしまった。 やっぱり何か拗ねてる…?
ミファエル
アレン
ミファエルの言う通り、床からは微かだが断続的に轟音が聞こえる。……イロハの「魔術」も。
俺は辺りを見回してみた。 壁際には等間隔に、鉄製の鎧騎士像が並んでいる。灯りは天井近くの角灯のみ。
ここはあの庭の真上の、回廊のような場所か___
ギギィー…
アレン
ミファエル
蝋燭の火が揺れた。 正面の重々しい石扉が、ゆっくりと開かれる。中から現れたのは__
轟姫
ミファエル
黒髪の女____鴉の情報によると四元素の轟姫__は じろりとミファエルを見下ろし、次いで俺に視線を移した。
轟姫
轟姫
アレン
轟姫
轟姫は言葉を切ると、その目を 馬鹿にしたように細めた。
轟姫
アレン
アレン
獲物を前にした獣のように、轟姫は一瞬歯を見せて笑むと、背中にクロスに装備している武器の1つ、 長槍を取り出した。
俺も手にした剣を構え……
ミファエル
所にミファエルが片手を広げて俺の視界を遮った。
アレン
ミファエル
轟姫
ミファエルは轟姫の言には耳を貸さず、相変わらずの無表情で石扉を指さした。
ミファエル
アレン
ミファエル
ミファエル
2人になった回廊に、静かな怒りを湛えた声が浸透する。 轟姫は大きく肩を揺らして、息を吐いた。
轟姫
長槍の柄で床を強く突くと、轟姫も臨戦体制に入る。
轟姫
___手裏剣が来る。
イロハ
全速力。 私は石灯籠の影に飛び込んだ。
手裏剣は石灯籠に阻まれて終わり。もう軌道は読めてるよ! ___だけど。
石灯籠に激突する寸前、手裏剣は有り得ないカーブを描き、石灯籠を迂回して私に迫る。
イロハ
私は素早く地面を2、3度踏み鳴らした。 足元から小さな音符がいくつも飛び出し、庭に軽快なメロディーが響く。
音符の色は赤。だから私の足を包む光も赤。
ネイロ 赤の音符 は素早さが上がる。
私は はちゃめちゃな軌道を描く手裏剣を瞬間移動に近いスピードで引き離すと、投げ手である雅美に肉薄し腰の短剣を_____
雅美
___抜く前に突如巻き起こった突風に吹き飛ばされた。
イロハ
砂利にお尻からダイブした。丸石で薄いけど石は石だ。痛い。
雅美
イロハ
雅美
雅美
イロハ
イロハ
雅美
雅美は優美な仕草で片手を広げた。 頬をそよ風が撫でる。
雅美
雅美
イロハ
イロハ
雅美
雅美は目を細めて笑むと、広げていた五指を、人差し指だけ残して手中に折り畳んだ。
その指が空(くう)を時計回りに1度撫でる。
ゴウッ
時計回りの、竜巻だ。 立て続けに雅美の人差し指は2、3度時計回りに踊る。
イロハ
私も赤色の音符を発生させると、踏み出した足を一気に加速させた。
___竜巻は丸石も石灯籠も切り裂いて霧散した。 あと数秒、ううん1秒判断が遅れてたら私も真っ二つだ。
___と胸を撫で下ろしてる場合じゃない。 目の前にはもう手裏剣。
イロハ
指を鳴らす。 飛び出したのは紫の巨大な
八分音符。
聞く者を元気付けるパレードの行進曲を振り舞いて、丸石も石灯籠も手裏剣も切り裂いて八分音符は突き進む。
イロハ
雅美
雅美は竜巻を発生させて音符の進行を迎え打つ。
___今のうち!
私は再び地を踏み鳴らした。 発生したのは水色の音符群。
水色の光が両足を包む。 地を蹴ると一気に雅美の頭の高さまで飛び上がった。高音の「ソ」と「ラ」。
雅美
音符を四散させた雅美が、ようやく頭上の私に気づいたようだ。
イロハ
雅美
…舐めてられるのも今のうち。 私の腕は
今 虹色の光に包まれてる。その腕をサッと水平に振る。
虹色の尾を引き現れたのは、音楽を嗜む者にはお馴染みの五線譜。 隙間、線上、隙間。下から順にタッチして行く。
飛び出すのは当然、ドレミファソラシドの8音符。
「ド」から順番に、弾丸のようなスピードで雅美に迫る。
雅美
イロハ
虹色の腕を、今度は縦に振る。 __残った五線譜も うねりながら雅美に突進した。
雅美
雅美の目と口が丸く開いた。 その隙を逃すはずなく五線譜が雅美の両腕に巻き付く。水瓶が地面に放り出された。
竜巻も動きも封じた。 これで私の剣術でも大丈夫なはず!
音符と共に、重力に身を任せ腰の短剣を抜き雅美に___
雅美
しかし雅美の顔にもう動揺の色は浮かんでいない。 その口をアヒルのようにすぼめると
次の瞬間、強風。
ため息を吐くかのように出された壁のような風は、音符を蹴散らし私を上空に弾き飛ばした。
雅美
………ここは屋根のある庭だ。 風に弾き飛ばされるまま、背中を屋根に強打した。
イロハ
視界がチカチカと明滅する。頬をそよ風が撫でた。
地面に墜落すると思った私の身体は、しかし下から吹き上げる強風によって浮遊していた。
雅美
右側から雅美の声。 断続的に上向きの風を発生させながら、雅美もまた浮遊していた。
雅美
雅美
雅美の指が反時計回りに踊る。
左側。 現れたのは一際大きな竜巻。
私を切り刻むでもなく、蠢(うごめ)きながらその場に停滞する____
___違う。 この竜巻、人の形を作ってる。
竜巻が霧散し、中から現れたのは
雅美
・・ 雅美
右の雅美が、かんざしに似た鋭利な刃物を髪から引き抜く。 左の雅美もそれに倣う。
イロハ
血飛沫。 墜落。
イロハ
体中が痛い。血が止まらない。 息を吸って、吐いて出て来るのは血だ。
雅美
斬りつけられた所を、雅美が足で踏みつけた。
イロハ
雅美
雅美
__轟音。上階からだ。
屋根の一部が砕け、巨大な火柱が降って来た。 __雅美の顔が忌々し気に歪む。
雅美
雅美
雅美
雅美
水の張られた池に豪快に突っ込んだ火柱に視線を遣った雅美の眼前に
音符の弾丸が飛び込んだ。
雅美
「ド」から順番に雅美に命中し、両の肩から腕にかけて血飛沫が舞う。
腕を虹色の光に包んだまま、私は笑って見せた。
イロハ
雅美
雅美
___音符には五線譜が付き物。音符の弾丸と五線譜はセットだ。 喚く雅美に五線譜が巻き付く。
雅美
痛む体に鞭打って立ち上がった私に、強風が襲いかかる。
地を踏む。 重低音と共に発生したのは緑の音符。
イロハ
続けて赤の音符も発生させて、強風の中に飛び込んだ。
目も開けていられないほどの強風。手探りで雅美の衣服の裾を捉える。 響く低音。
雅美の上に馬乗りになった事を感触で確認すると、すかさず短剣を抜く___
雅美
__風が止んだ。 私の手と短剣には温かな血。雅美の顎から上唇にかけても血にまみれていた。
イロハ
イロハ
雅美
イロハ
イロハ
イロハ
雅美
雅美
雅美
雅美
イロハ
私は答えず、血まみれの雅美の口に指を捩(ね)じ込む。
取り出したのは、ピンク色に発光する小さな二分音符。 __それを自分の口中に放り込む。
イロハ
雅美
イロハ
イロハ
雅美
闘いで破壊された石灯籠の、拳大の破片を掴む。
イロハ
イロハ
イロハ
石を持つ腕を振りかぶる。 雅美の顔から完全に余裕が消えた。
イロハ
雅美
♪
雅美
___雅美の体が大きく波打ち
イロハ
大量の血を吐き、動かなくなった
___事を確認すると、私の意識も急速に遠ざかった。
……後はアレン達が何とかしてくれる。 だから今暫くは、
いつまでも鳴り響くこの美しい音に浸っていよう_______
参考
コメント
1件