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土カプセル内の広さは畳にして二畳ほど。
起きて半畳寝て一畳とはよく言ったもので、アルクとナミスケが寝っころがったせいで、ぼくとユトリは対角線上に体育座りで向かい合うような形になった。
ユウゴ
ユトリ
2人で顔を合わせて、かわいた笑がもれた。
あまりうるさくするとアルク達を起こして何か言われそうで、自然と小声になる。
ぼくは別荘も無いし、離島にも行ったこと無いから、これから行く場所のイメージが全然つかない。
着くまでにどんなところか知っておきたいと話したら、ユトリがスマホで撮った写真を見せてくれた。
砂浜の波打ち際で水遊びをしている写真。
広い畑を手入れしたり、野菜を収穫している写真。
ダイビングスーツを着て、素潜りで魚を取っている写真。
それらの食材を石窯で焼いている写真。
おとなしいユトリのイメージからは連想できない、アクティブな姿が並んでいる。
ユトリ
ユトリ
あっさりと海外移住を決めちゃう両親だしね。
ユウゴ
ユトリ
ユトリ
ユウゴ
当初の目的を忘れたわけじゃないけど、到着が楽しみになってきた。
今はどこを飛んでいるんだろう。
壁が全部土でおおわれているから、外が見えない。
ちゃんと目的の島に向かえているのか、段々と不安になってきた。
ユトリ
ユウゴ
ユトリ
ユトリにスマホの地図アプリを見せてもらった。
中心にある赤い矢印が自分達の現在位置だと言うことはわかるけど、背景は全部青。
画面を拡大してもらって海岸線なども見えるようにしてもらっても、地理が苦手なぼくには、今どこにいるのかはわからなかった。
とりあえず陸地と島の中間点あたりを飛行中みたいだ。
ユウゴ
座り直して壁に寄っかかると、ガタンッと結構大きめな音がなった。
壁からパラパラと小さな土が転がってきた。
ユウゴ
もし土カプセルが壊れたりしたら、大海原に投げ出されてしまう。
ゆっくりと振り向いて壁や天井にヒビなどが入っていないか確認する。
ユトリ
正面から見ていたユトリから、安全を保証する声をもらえて、少しだけほっとした。
ナミスケ
ナミスケが思いっきりむせて跳ね起きた。
ナミスケ
ナミスケ
ユウゴ
ナミスケ
ユウゴ
何度か襲われてた気がする。
ナミスケ
ユウゴ
ユウゴ
ドンッ。
土カプセルが揺れた。
壁や天井から、パラパラと小さな土が転がってきた。
アルク
アルクが思いっきりむせて跳ね起きた。
アルク
アルク
デジャブ。
ユウゴ
アルク
アルク
ナミスケ
ユウゴ
ドドンッ。
また土カプセルが揺れた。
さっきより音も揺れも大きく、壁や天井からパラパラと小さな土が降り注ぐ。
壁の一部が大きく崩れ落ちて、外が見えるようになった。
目の前は一面の青、水平線を境に空と海しか見えない。
完全な大海原だ。
ナミスケ
アルク
アルクはこう言うけど、穴のはしからはパラパラと土がこぼれ続けている。
ドンッ!
またしても土カプセルが揺れた。
穴から外が見えるようになってわかった。
この揺れは土カプセルがただ揺れているんじゃなく、何かにぶつかった衝撃だ。
土カプセルがかたむいて、海面が目の前にまで迫る。
ユウゴ
1匹だけだけど、魚にしては大きい黒いシルエット。
海の中にいるからよく見えないけど、鮫か鯱のような凶暴な水生生物か。
ユウゴ
アルク
黒いシルエットは土カプセルの真下に付かず離れずで、くっついて泳いでいる。
次に攻撃する機会をうかがっているようだ。
アルク
ユトリ
アルク
ユトリ
ユウゴ
黒いシルエットが深く潜った。
飛び上がって攻撃してくるつもりだ。
ユトリ
ユトリの地《テラ》の魔法は、ハンマーで叩いた相手をかたくする効果がある。
ユトリがハンマーで土カプセルの床面を叩くのと、黒いシルエットが土カプセルの底を叩くのは、ほぼ同時だった。
土カプセルがバスケットボールのように、ポーンと弾んで空高く舞い上がる。
ナミスケ
ユトリの魔法の性質を知らないナミスケが大声を上げる。
ユトリ
アルク
ユトリの魔法はハンマーの叩く面で2つの効果がある。
1つは叩いた相手をかたくする効果、 もう1つは叩いた相手をゴムのようにやわらかくする効果。
やわらかくする面で叩かれた土カプセルは、全体がゴムボールのようになって、勢いよく飛び上がったんだ。
衝撃で土カプセルの上半分が吹っ飛んで、お椀のような半球形になってしまったが、その分周りが見やすくなった。
軽くなったおかげか飛行速度も速くなったし、もう鮫だか鯱がかわからない黒いシルエットも追ってこれないはず。
そう思って後ろを見ると、黒いシルエットはなおもしつこく土カプセルを追いかけてきていた。
それも空を飛んで。
ユウゴ
トビウオだって風に乗ってグライダーのように滑空しているだけで、自分の力で空を飛んでいるわけじゃない。
黒いシルエットは自分の力で空を飛び、しかも、ぼく達を狙って追って来ている。
ユトリ
突然、ユトリが顔をおさえてうずくまった。
手から離れたハンマーは空中に消滅した。
アルク
ユトリ
ユトリの顔には幼い頃に魔物に襲われてついた大きな傷がある。
アルク
ユトリ
ユトリ
アルク
アルクがつぶやく。
共鳴痛。初めて聞く言葉だ。
アルク
ドォン!
黒いシルエットの体当りで、土カプセルが大きく揺れた。
アルク
アルク
黒いシルエット-……もとい、魔物鮫が大きく口を開ける。
口の中いっぱいに幾重にも並ぶ牙が見えた。
アルク
アルク
アルクが突風を起こして、魔物鮫にぶつける。
魔物鮫の腹が大きく凹み、海に落ちて高い水柱がたった。
倒し……
アルク
ては、いないみたいだ。
アルクが強風を起こして土カプセルを押し、飛行速度をアップさせる。
魔物鮫は海面に大きな波を起こしながら追ってきている。
アルク
アルクは土カプセルのスピードアップで精一杯。
ユトリは顔の痛みが激しくなったようで、声も出せなくなっている。
ナミスケが右手にダガーナイフを出して魔物鮫に向かって構える。
ナミスケ
ユウゴ
ナミスケ
ナミスケが吐き捨てるように言う。
くやしいけど事実だから言い返せない。
ナミスケ
ナミスケ
海水が蛇のようになって起き上がり、空中でうねりながら、魔物鮫を狙い襲いかかる。
攻撃の気配を察した魔物鮫が、海中深くに潜って交わす。
海に入ると海水の蛇はすぐに同化してしまったようで、魔物鮫にはノーダメージ。
ナミスケ
ナミスケも自分の魔法を完全には把握できていないらしい。
アルク
アルク
ナミスケ
こちらが攻撃をしてくると悟った魔物鮫は、海に潜ったまま、土カプセルの真下を影のようについてくる。
ナミスケは何度か海水の蛇で攻撃するが、すべて空振り。魔物鮫の近くに着弾しても、魔物鮫の体に届く前に、波にさらわれて消えてしまった。
こうなると海を根城に生きている魔物鮫が圧倒的に有利だ。
魔物鮫が頭から勢いよく水を発射し、水柱がたった。
鯨のように潮を吹いたのだ。
見た目が鮫のようだから、鮫のような攻撃しかしてこないと思い込んでいた。
元は土をかためて作られた土カプセルが、水柱攻撃によって溶かされていく。
アルク
アルクが温風を起こして、ドライヤーのように土カプセルをかわかそうとする。
ユトリ
ユトリが顔の痛みに耐えながら、溶ける土カプセルをかためようとする。
ナミスケ
ナミスケが土カプセルに染み込んだ水を操って、外に排出しようとする。
3人が3人とも自分の魔法を使って、みんなを助けようと奮闘している。
それなのに、ぼくは?
魔法の力に目覚めたばかりだから?
魔法具《マギアツール》を持っていないから?
そんなの理由にならないだろ。
ここを突破できなければ、みんなが死んじゃうかもしれないんだぞ。
最終試験を思い出せ。
闇《ケイオス》の魔法が発動した、あの時の感覚を思い出せ。
あの時、どうなった?
何が起こった?
魔法は左手から出た。
左腕から出た。
左肩の傷から出た。
きっと、ここが起点だ。
左手に、左腕に、左肩に、左肩の傷に、意識をめぐらせていく。
足元がグラリと揺れた。
アルク達の健闘もむなしく、水柱攻撃を受けた土カプセルは、大海原の上空でバラバラに粉砕した。
ぼく達4人は、景色が360度水平線の大海原に投げ出された。
アルク
アルクが落ちながらユトリの名前を叫ぶ。
それでアルクの意図を察したユトリは、ハンマーを下向きにかまえた体勢で海に落っこち、海面を叩いた。
かたくなった海面に、ナミスケ、アルクと順に落っこちた。
ナミスケ
アルク
3人はユトリが魔法でかたくした海面にうまく着地できたようだ。
3人は。
アルク
アルクが呼びかける声が遠くから聞こえる。
アルクの声が遠いのは、ぼくが海の中にいるからだ。
運悪くユトリが魔法でかためた範囲の外に落ちてしまったために、海の中を沈んでいた。
無理にでも魔法を発動させようと意識を集中しすぎていたせいで、土カプセルが壊れた時に、状況を把握するのが遅れたせいだ。
ぼくはどこまでみんなの足を引っ張れば気が済むんだ。
目の前に迫る魔物鮫。
海の上のアルク達よりも、海の中で逃げられないぼくに狙いを切り替えたようだ。
抵抗しようともがくも海水と濡れた服に体が縛られて、まともに動くことすら出来ない。
口の中いっぱいに牙が並んだ大きい口に、一飲みにされた。
水の中で息も出来ず、意識が朦朧としてきた。
無数の牙が体に食い込んでくるが、もう痛みも感じない。
暗い魔物の口の中で、光もなく、音もない。
感じるものといえばドクンという、自分の心臓の鼓動だけ。
ドクン、ドクン、ドクン。
恐怖のせいか、出血のせいか、呼吸停止の前触れなのか。
鼓動はさらに強くなり、左腕が小刻みに震えだした。
この感覚は、どこかで感じたことがある。
最終試験での魔物との戦い。
闇《ケイオス》の魔法が発動した時の感覚。
また、使えるのか?
わずかに残ったなけなしの意識を左腕に集中させる。
全身の感覚がなくなり、ただ左手の先にだけ熱と力を感じる。
左手を中心に、とても大きな衝撃が走った。
そこで、ぼくの意識は……途絶えた。
アルク
ユトリ
遠くから、ぼくを呼ぶ声が聞こえる。
ユウゴ
重いまぶたを開けると、まぶしい太陽の光が飛び込んできた。
ユウゴ
アルク
ユトリ
ユウゴ
アルクとユトリに左右の腕をつかまれて、ガックンガックンと上半身を揺さぶられた。
ユウゴ
ユウゴ
アルク
ユトリ
アルクとユトリが同時に手をはなしたせいで、ぼくの体は地面に叩きつけられた。
ボフンっ。
ユウゴ
ぼくは広い砂の上で横になっていた。
すぐ近くで波の音も聞こえる。
ここは海岸だ。
ユウゴ
頭はだいぶはっきりとしてきたけど、そのせいでなおのこと混乱してきた。
ぼくは海に落ちて、魔物鮫に食べられたはずだ。
それから後のことが曖昧になっている。
アルク
ユトリ
アルクとユトリが説明してくれてるようだけど、同時にごちゃごちゃな話をするので、よく把握できない。
ナミスケ
ずっと離れたところで様子を見ていたナミスケが、2人を制して話し始めた。
ナミスケ
ナミスケ
ナミスケ
ナミスケ
ユウゴ
アルク
入学試験でさんざんひどい目に合わされたからいいイメージがなかったけど、ガイド妖精はアミキティア魔法学校の生徒を保護する役目も持っているらしい。
ナミスケ
ユウゴ
起き上がって周りを見る。
何もない綺麗な海岸だ。
陸地に小高い丘があって、赤い屋根の小さな家が一軒だけ見える。
ユトリ
ユトリ
ユトリがビンゴ表を見せてくれた。
海岸のマスにも色がついていて、ななめに1本のラインが出来ている。
ユウゴ
アルク
アルクの返事に、全身から力が抜ける感覚があった。
昨日から無意識に張っていた緊張の糸が切れた瞬間だった。
アルク
ナミスケ
ユウゴ
ユトリ
ユトリがビンゴ表の上を指差す。
制限時間、10分。