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土カプセル内の広さは畳にして二畳ほど。

起きて半畳寝て一畳とはよく言ったもので、アルクとナミスケが寝っころがったせいで、ぼくとユトリは対角線上に体育座りで向かい合うような形になった。

ユウゴ

どうしようか?

ユトリ

どうしましょうか?

2人で顔を合わせて、かわいた笑がもれた。

あまりうるさくするとアルク達を起こして何か言われそうで、自然と小声になる。

ぼくは別荘も無いし、離島にも行ったこと無いから、これから行く場所のイメージが全然つかない。

着くまでにどんなところか知っておきたいと話したら、ユトリがスマホで撮った写真を見せてくれた。

砂浜の波打ち際で水遊びをしている写真。

広い畑を手入れしたり、野菜を収穫している写真。

ダイビングスーツを着て、素潜りで魚を取っている写真。

それらの食材を石窯で焼いている写真。

おとなしいユトリのイメージからは連想できない、アクティブな姿が並んでいる。

ユトリ

なんだか恥ずかしいですね。

ユトリ

家族といる時だと、いつもより開放的になれるんですよね

あっさりと海外移住を決めちゃう両親だしね。

ユウゴ

こんな事やったこと無いから、やってみたいな

ユトリ

島に到着したら、やってみましょうか?

ユトリ

道具は別荘の倉庫においてありますので

ユウゴ

うん

当初の目的を忘れたわけじゃないけど、到着が楽しみになってきた。

今はどこを飛んでいるんだろう。

壁が全部土でおおわれているから、外が見えない。

ちゃんと目的の島に向かえているのか、段々と不安になってきた。

ユトリ

島には向かっているようですけど、今は海のど真ん中ですね

ユウゴ

わかるの?

ユトリ

はい。
わたしのスマホでも位置情報は調べられますから

ユトリにスマホの地図アプリを見せてもらった。

中心にある赤い矢印が自分達の現在位置だと言うことはわかるけど、背景は全部青。

画面を拡大してもらって海岸線なども見えるようにしてもらっても、地理が苦手なぼくには、今どこにいるのかはわからなかった。

とりあえず陸地と島の中間点あたりを飛行中みたいだ。

ユウゴ

待つしか無いのかな

座り直して壁に寄っかかると、ガタンッと結構大きめな音がなった。

壁からパラパラと小さな土が転がってきた。

ユウゴ

ええ、そんなに強くぶつかったつもりはないのに

もし土カプセルが壊れたりしたら、大海原に投げ出されてしまう。

ゆっくりと振り向いて壁や天井にヒビなどが入っていないか確認する。

ユトリ

ちょっと揺れただけですから、大丈夫そうですよ

正面から見ていたユトリから、安全を保証する声をもらえて、少しだけほっとした。

ナミスケ

げほっ!

ナミスケが思いっきりむせて跳ね起きた。

ナミスケ

ぺっぺっ、誰だっ……

ナミスケ

ぺっ、口の中に土を入れたの

ユウゴ

ごめん、ぼく……

ナミスケ

お前、おれに何の恨みがあんだよ

ユウゴ

ただの偶然で、恨みとかは……

何度か襲われてた気がする。

ナミスケ

なんだ、その沈黙?

ユウゴ

無い無い。

ユウゴ

偶然です。ごめんなさい

ドンッ。

土カプセルが揺れた。

壁や天井から、パラパラと小さな土が転がってきた。

アルク

げほっ!

アルクが思いっきりむせて跳ね起きた。

アルク

ぺっぺっ、誰よっ……

アルク

ぺっ、口の中に土を入れたの

デジャブ。

ユウゴ

そのくだりはもうやったから

アルク

もうやったって何よ?

アルク

うあー、変なところで起こされて気持ち悪い

ナミスケ

オレもこうなったのか

ユウゴ

まあ、おおむね

ドドンッ。

また土カプセルが揺れた。

さっきより音も揺れも大きく、壁や天井からパラパラと小さな土が降り注ぐ。

壁の一部が大きく崩れ落ちて、外が見えるようになった。

目の前は一面の青、水平線を境に空と海しか見えない。

完全な大海原だ。

ナミスケ

このままだと海に落ちちまうんじゃねえか?

アルク

ババア様の魔法が、こんなところで壊れるはずないわ

アルクはこう言うけど、穴のはしからはパラパラと土がこぼれ続けている。

ドンッ!

またしても土カプセルが揺れた。

穴から外が見えるようになってわかった。

この揺れは土カプセルがただ揺れているんじゃなく、何かにぶつかった衝撃だ。

土カプセルがかたむいて、海面が目の前にまで迫る。

ユウゴ

海の中に何かいる!

1匹だけだけど、魚にしては大きい黒いシルエット。

海の中にいるからよく見えないけど、鮫か鯱のような凶暴な水生生物か。

ユウゴ

海の上に見慣れない物が飛んでたから、警戒して攻撃してきたのかも

アルク

ババア様も、もっと高く飛ばしてくれればいいのに

黒いシルエットは土カプセルの真下に付かず離れずで、くっついて泳いでいる。

次に攻撃する機会をうかがっているようだ。

アルク

ユトリの魔法よ!

ユトリ

ええ?

アルク

ユトリの魔法で土カプセルをかたくするのよ。
それで、これ以上の破損はおさえられるはずよ

ユトリ

うまくいくかわかりませんが、やってみます

ユウゴ

また、来るよ!

黒いシルエットが深く潜った。

飛び上がって攻撃してくるつもりだ。

ユトリ

ええーっい! 硬化効果《ハードスタンプ》!

ユトリの地《テラ》の魔法は、ハンマーで叩いた相手をかたくする効果がある。

ユトリがハンマーで土カプセルの床面を叩くのと、黒いシルエットが土カプセルの底を叩くのは、ほぼ同時だった。

土カプセルがバスケットボールのように、ポーンと弾んで空高く舞い上がる。

ナミスケ

な、何が起こったー?

ユトリの魔法の性質を知らないナミスケが大声を上げる。

ユトリ

すみませーん、慌てていたから逆で叩いちゃいましたー

アルク

むしろグッジョブよ。
かなり離れられたわ!

ユトリの魔法はハンマーの叩く面で2つの効果がある。

1つは叩いた相手をかたくする効果、 もう1つは叩いた相手をゴムのようにやわらかくする効果。

やわらかくする面で叩かれた土カプセルは、全体がゴムボールのようになって、勢いよく飛び上がったんだ。

衝撃で土カプセルの上半分が吹っ飛んで、お椀のような半球形になってしまったが、その分周りが見やすくなった。

軽くなったおかげか飛行速度も速くなったし、もう鮫だか鯱がかわからない黒いシルエットも追ってこれないはず。

そう思って後ろを見ると、黒いシルエットはなおもしつこく土カプセルを追いかけてきていた。

それも空を飛んで。

ユウゴ

ただの鮫じゃないのか?

トビウオだって風に乗ってグライダーのように滑空しているだけで、自分の力で空を飛んでいるわけじゃない。

黒いシルエットは自分の力で空を飛び、しかも、ぼく達を狙って追って来ている。

ユトリ

痛いっ!

突然、ユトリが顔をおさえてうずくまった。

手から離れたハンマーは空中に消滅した。

アルク

ユトリ、どうしたの?
どこが痛いの?

ユトリ

か、顔が……急に……

ユトリの顔には幼い頃に魔物に襲われてついた大きな傷がある。

アルク

こういうことって、今までにもあったの?

ユトリ

いえ、はじめてです。

ユトリ

治療が終わってからは、痛みを感じることもありませんでした

アルク

共鳴痛かも

アルクがつぶやく。

共鳴痛。初めて聞く言葉だ。

アルク

自分を傷つけた魔物が近くにいる時に感じる痛みのことを言うの。
大体の魔物は発見された時点で退治されるから、めったに起こる現象じゃないんだけど

ドォン!

黒いシルエットの体当りで、土カプセルが大きく揺れた。

アルク

もう決まりね。

アルク

あいつは魔物。
それも、過去にユトリを襲った魔物よ!

黒いシルエット-……もとい、魔物鮫が大きく口を開ける。

口の中いっぱいに幾重にも並ぶ牙が見えた。

アルク

こっちに来ないでよっ!

アルク

荒削りの嵐《インスタントストーム》!

アルクが突風を起こして、魔物鮫にぶつける。

魔物鮫の腹が大きく凹み、海に落ちて高い水柱がたった。

倒し……

アルク

逃げるわよー!

ては、いないみたいだ。

アルクが強風を起こして土カプセルを押し、飛行速度をアップさせる。

魔物鮫は海面に大きな波を起こしながら追ってきている。

アルク

だれか戦える人、何とかしてー

アルクは土カプセルのスピードアップで精一杯。

ユトリは顔の痛みが激しくなったようで、声も出せなくなっている。

ナミスケが右手にダガーナイフを出して魔物鮫に向かって構える。

ナミスケ

お前の闇《ケイオス》の魔法は使えないのか?
こういう時のための魔法だろ

ユウゴ

ごめん。
まだ自分の意志で魔法を使えないんだ

ナミスケ

……こんなやつをライバル視してたのかよ。
アホらし

ナミスケが吐き捨てるように言う。

くやしいけど事実だから言い返せない。

ナミスケ

水の中にいるなら、オレの水《アクア》のテリトリーだ。
すぐに倒してやるよ。

ナミスケ

毒水蛇《サーペントウィップ》!

海水が蛇のようになって起き上がり、空中でうねりながら、魔物鮫を狙い襲いかかる。

攻撃の気配を察した魔物鮫が、海中深くに潜って交わす。

海に入ると海水の蛇はすぐに同化してしまったようで、魔物鮫にはノーダメージ。

ナミスケ

ちっ。
水の中までは攻撃できないのか

ナミスケも自分の魔法を完全には把握できていないらしい。

アルク

センスは悪くないわ。

アルク

魔物鮫が攻撃のために飛び上がったところを狙うのよ

ナミスケ

いちいち言われなくても、わかってるよ!

こちらが攻撃をしてくると悟った魔物鮫は、海に潜ったまま、土カプセルの真下を影のようについてくる。

ナミスケは何度か海水の蛇で攻撃するが、すべて空振り。魔物鮫の近くに着弾しても、魔物鮫の体に届く前に、波にさらわれて消えてしまった。

こうなると海を根城に生きている魔物鮫が圧倒的に有利だ。

魔物鮫が頭から勢いよく水を発射し、水柱がたった。

鯨のように潮を吹いたのだ。

見た目が鮫のようだから、鮫のような攻撃しかしてこないと思い込んでいた。

元は土をかためて作られた土カプセルが、水柱攻撃によって溶かされていく。

アルク

荒削りの嵐《インスタントストーム》!

アルクが温風を起こして、ドライヤーのように土カプセルをかわかそうとする。

ユトリ

はっ、硬化効果《ハードスタンプ》!

ユトリが顔の痛みに耐えながら、溶ける土カプセルをかためようとする。

ナミスケ

水がなくなりゃいいんだろ。
毒水蛇《サーペントウィップ》!

ナミスケが土カプセルに染み込んだ水を操って、外に排出しようとする。

3人が3人とも自分の魔法を使って、みんなを助けようと奮闘している。

それなのに、ぼくは?

魔法の力に目覚めたばかりだから?

魔法具《マギアツール》を持っていないから?

そんなの理由にならないだろ。

ここを突破できなければ、みんなが死んじゃうかもしれないんだぞ。

最終試験を思い出せ。

闇《ケイオス》の魔法が発動した、あの時の感覚を思い出せ。

あの時、どうなった?

何が起こった?

魔法は左手から出た。

左腕から出た。

左肩の傷から出た。

きっと、ここが起点だ。

左手に、左腕に、左肩に、左肩の傷に、意識をめぐらせていく。

足元がグラリと揺れた。

アルク達の健闘もむなしく、水柱攻撃を受けた土カプセルは、大海原の上空でバラバラに粉砕した。

ぼく達4人は、景色が360度水平線の大海原に投げ出された。

アルク

ユトリぃぃぃぃぃぃ!

アルクが落ちながらユトリの名前を叫ぶ。

それでアルクの意図を察したユトリは、ハンマーを下向きにかまえた体勢で海に落っこち、海面を叩いた。

かたくなった海面に、ナミスケ、アルクと順に落っこちた。

ナミスケ

いった

アルク

海の真ん中で溺れるよりマシでしょ

3人はユトリが魔法でかたくした海面にうまく着地できたようだ。

3人は。

アルク

ユウゴは?

アルクが呼びかける声が遠くから聞こえる。

アルクの声が遠いのは、ぼくが海の中にいるからだ。

運悪くユトリが魔法でかためた範囲の外に落ちてしまったために、海の中を沈んでいた。

無理にでも魔法を発動させようと意識を集中しすぎていたせいで、土カプセルが壊れた時に、状況を把握するのが遅れたせいだ。

ぼくはどこまでみんなの足を引っ張れば気が済むんだ。

目の前に迫る魔物鮫。

海の上のアルク達よりも、海の中で逃げられないぼくに狙いを切り替えたようだ。

抵抗しようともがくも海水と濡れた服に体が縛られて、まともに動くことすら出来ない。

口の中いっぱいに牙が並んだ大きい口に、一飲みにされた。

水の中で息も出来ず、意識が朦朧としてきた。

無数の牙が体に食い込んでくるが、もう痛みも感じない。

暗い魔物の口の中で、光もなく、音もない。

感じるものといえばドクンという、自分の心臓の鼓動だけ。

ドクン、ドクン、ドクン。

恐怖のせいか、出血のせいか、呼吸停止の前触れなのか。

鼓動はさらに強くなり、左腕が小刻みに震えだした。

この感覚は、どこかで感じたことがある。

最終試験での魔物との戦い。

闇《ケイオス》の魔法が発動した時の感覚。

また、使えるのか?

わずかに残ったなけなしの意識を左腕に集中させる。

全身の感覚がなくなり、ただ左手の先にだけ熱と力を感じる。

左手を中心に、とても大きな衝撃が走った。

そこで、ぼくの意識は……途絶えた。

アルク

……ゴ! ユウゴ!

ユトリ

……さん! ユウゴさん!

遠くから、ぼくを呼ぶ声が聞こえる。

ユウゴ

うう……

重いまぶたを開けると、まぶしい太陽の光が飛び込んできた。

ユウゴ

まぶしぃ……

アルク

起きたー! ユウゴ、生きてるわね?

ユトリ

気づきましたか?
ユウゴさん、私がわかりますか?

ユウゴ

……ぃ痛い!

アルクとユトリに左右の腕をつかまれて、ガックンガックンと上半身を揺さぶられた。

ユウゴ

起きてるっ! っていうか苦しい。

ユウゴ

かえって死んじゃうから

アルク

あ、ごめん

ユトリ

失礼しました

アルクとユトリが同時に手をはなしたせいで、ぼくの体は地面に叩きつけられた。

ボフンっ。

ユウゴ

痛……くない

ぼくは広い砂の上で横になっていた。

すぐ近くで波の音も聞こえる。

ここは海岸だ。

ユウゴ

何でここに?
いや、ここはどこ?

頭はだいぶはっきりとしてきたけど、そのせいでなおのこと混乱してきた。

ぼくは海に落ちて、魔物鮫に食べられたはずだ。

それから後のことが曖昧になっている。

アルク

ユウゴがやっつけたのよ!

ユトリ

ガイド妖精がつれてきてくれたんです

アルクとユトリが説明してくれてるようだけど、同時にごちゃごちゃな話をするので、よく把握できない。

ナミスケ

落ち着け。
オレが説明する

ずっと離れたところで様子を見ていたナミスケが、2人を制して話し始めた。

ナミスケ

お前が海に落ちて魔物鮫に飲み込まれた少し後のことだ。

ナミスケ

魔物鮫が内側から爆発するように破裂して、中から黒い煙に包まれたお前が出てきた。

ナミスケ

お前は意識を失っていたようで、その後すぐに倒れちまったがな。

ナミスケ

その後、わずかに残った土カプセルの残骸をいかだ代わりに海の上をただよっていると、ガイド妖精がやって来て救助してくれたんだ

ユウゴ

ガイド妖精が?

アルク

ババア様が呼んだ救助隊よ

入学試験でさんざんひどい目に合わされたからいいイメージがなかったけど、ガイド妖精はアミキティア魔法学校の生徒を保護する役目も持っているらしい。

ナミスケ

それで、海から引き上げてくれた後、この島まで運んでくれたってわけさ

ユウゴ

島ってことは、ここって

起き上がって周りを見る。

何もない綺麗な海岸だ。

陸地に小高い丘があって、赤い屋根の小さな家が一軒だけ見える。

ユトリ

はい。
私の家の別荘……

ユトリ

最後の目的地です

ユトリがビンゴ表を見せてくれた。

海岸のマスにも色がついていて、ななめに1本のラインが出来ている。

ユウゴ

じゃあ、入場行進は……

アルク

クリアよ

アルクの返事に、全身から力が抜ける感覚があった。

昨日から無意識に張っていた緊張の糸が切れた瞬間だった。

アルク

ちょっと、力を抜くのはまだ早いわよ

ナミスケ

ああ、お前が目覚めるのが5分遅かったら、ここに放置していくところだったぜ

ユウゴ

それはどういう

ユトリ

あの、ここです

ユトリがビンゴ表の上を指差す。

制限時間、10分。

アミキティア魔法学校の闇

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