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すちさんがシェイカーを振る音が聞こえる。手慣れた手つきでグラスにソーダを注ぐ姿が板についていて、かっこよかった。
すち
そう言ってすちさんは淡いピンク色のソーダが入ったグラスを渡してくれた。グラスのふちには切れ込みが入ったオレンジが飾られている。
みこと
すち
みこと
確か会社の休憩時間に一回だけ飲んだノンアルがそれだったなぁ…
すち
みこと
すち
みこと
やけに衝撃を受けているすちさんに、俺は失礼なことを言ったかと焦る。
すち
みこと
すち
すち
みこと
やはりここは俺なんかが来ていい場所ではないのかと思ったが…
すち
すち
慌てて必死に否定してくれるすちさんが微笑ましくて思わず口角が上がった。
みこと
みこと
すち
少し緊張しながらグラスを口に運ぶ。
みこと
ソーダをほんの少しだけ口に含み、ゆっくりと飲み込んだ。果実味と程よい甘さが体に染みる。
確かに、味の広がりや口当たりのよさ、飲みやすさがコンビニのものとは全然違う。
みこと
みこと
俺がそう言うとすちさんは優しく微笑んでくれた。
すち
味の感想を言っただけで笑顔をくれるすちさんが優しすぎて泣きそう。 それより俺は、なぜカシスソーダを出してくれたのかふと気になった。
みこと
すち
みこと
すち
みこと
すち
すち
みこと
すち
すち
すちさんの声と目に全て委ねそうになってしまい、慌てて気を引き締める。
みこと
何も言わずごまかすつもりだったのに、勝手に口が動いた。どうせ明日からは出会わない人なのに、俺はすちさんを信用しきってしまっているのに気付いた。
みこと
すち
初めて努力が認められた気がして、涙があふれそうになった。でもいま弱い姿を見せるわけにはいかない。下唇をかみ、あごを軽くひく。ずっとこうやって、涙をこらえてきた。
泣くのを我慢しないといけない瞬間はいやというほどあったから、慣れているはずだった。でも油断してしまっていて、少し隙を出してしまった。
みこと
俺がごまかそうとしたところ、やけに真剣な表情ですちさんが見つめてきた。
すち
すち
みこと
そのときのすちさんは、ひどく悲しそうな目をしていた。ただの綺麗な赤い瞳だと思って見ていたのが、たくさんの辛い経験を飲み込んだものに見えた。
すち
みこと
すち
みこと
分からない。なぜそんなに他人の心配をしてくれるのか。俺なんかを気にかける必要なんて、ないだろう。
みこと
みこと
すち
みこと
すち
すち
みこと
あまり理解できなかった。
みこと
あのクソ会社で、俺はどれほど変わってしまったのか。
すち
みこと
すち
すち
みこと
すち
「大きな魅力」です
みこと
すち
すちさんはそう前置きしてから話を聞かせてくれた。
すち
みこと
すち
すち
みこと
すちさんはテレビで見たカウンセラーの人のように、壁に立てかけてあるスケッチブックにきれいな字と図を描いて説明してくれた。
すち
すち
すち
確かに、最初は自分を守れていたはずなのに、最後はあの会社にしか居場所はないのだと思い込んでしまっていた。今思えば、父の横領をあそこまでして隠蔽する必要はなかったのだろう。
すち
すちさんの説明で、腑が落ちた気がした。
みこと
すち
みこと
改めてグラスを見つめもう一口飲む。
美味しい。お酒を美味しいと思って飲めたのは久々だった。
すち
すち
みこと
すち
みこと
俺は少しおびえながら答えた。この髪色を気味悪がって離れていった人に何度も出会ってきた。
いつもなら、期待なんてしていなかったからどうでもよかったけれど、すちさんには拒絶されたくなかった。
すち
みこと
すちさんは、少しも驚かなかったから、むしろ俺のほうが驚いてしまった。
みこと
そう言うとすちさんは目をぱちくりとして俺のほうをみた。
すち
すち
みこと
すち
嬉しかった。愛想笑いされて密かに避けられるのでもなく、化け物呼ばわりされるのでもなく、当然のようにそれを受け止めてくれた。
その瞬間、ぶわっと何かが込み上げてきた。
すち
すちさんが俺にハンカチを差し出していた。やけに視界がぼやけている。
みこと
みこと
必死に涙をこらえようといつものように下唇をかむ。でも、涙は止まらなかった。
すち
そうすちさんが優しく声をかけてくれて、俺は涙が止まらなくなってしまった。
すち
みこと
すち
すちさんが隣でなだめてくれているうちに、いつしか涙は止まっていた。
みこと
すち
すち
みこと
本当に、すちさんはすごい。俺は感謝でいっぱいだった。
俺の涙もひっこんで落ち着いてきたころ。すちさんが俺の目を見て言った。
すち
みこと
すち
みこと
すち
みこと
みこと
昔の苦しみを思い出す。
みこと
みこと
小学校低学年のころ。まだ世界を何も知らず、幸福に満ちていたころ。 とあるクラスメイトが話しかけてきた。なんだか心の奥で嫌な予感がした。
クラスメイト
みこと
クラスメイト
みこと
クラスメイト
みこと
クラスメイト
みこと
クラスメイト
最初は褒められていた。クラスの中心になれて、嬉しかった。
でも、その数日後。周囲の態度は激変した。
教室の扉を開け中に入ると、全員がこちらをにらんでいた。
みこと
クラスメイト
みこと
クラスメイト
クラス全員がざわついた。
みこと
クラスメイト
クラスメイト
みこと
クラスメイト
だいぶ時が過ぎてから分かったが、どうやら誰かの母親が、特殊な髪色と目の色の子供は化け物だという噂を流したらしい。
そこから周囲の態度は変わることなく、進学しても救いはなかった。高校に入っても、留学しても、社会人になっても、今でも、その呪いは続いている。
みこと
みこと
みこと
すち
みこと
すち
みこと
みこと
ほんとうは会社でもけなされ続けていたが、それは言わないでおいた。
すち
すち
みこと
すちさんの目が、ふっと細くなった。まるで俺を見極めるように。
すち
すち
みこと
口では感謝を伝えたけれど、会社のことは話せないな、と思っていた。上司の「口外するな」という言葉だけが頭の片隅に残っていた。
その上司はもう死んだけれど、心に残った傷は深い。
すち
みこと
すち
みこと
すち
びっくりした。でも、同じような境遇というだけで、心が軽くなった。
みこと
改めてすちさんの髪と瞳を見つめる。髪は綺麗な深緑色で、右サイドに黒メッシュが一筋入っている。そして瞳は、美しい深紅だった。
みこと
すち
みこと
すち
みこと
すち
みこと
すち
みこと
すち
みこと
すち
みこと
すち
みこと
すち
みこと
すち
それから俺達は、ずいぶんと長く談笑していた。気づくともう2時間ほどたっていた。
すち
すち
みこと
みこと
みこと
すち
みこと
すち
すち
みこと
すち
すち
みこと
すち
みこと
嬉しかった。本当は、ずっとここにいたいぐらいだったから。もう一度ここに来れる理由が出来たことが、すごく嬉しかった。
すち
みこと
すち
みこと
すちさんに頭を下げて俺はホテルへ向かった。
みこと
みこと
すちさんのことを思い出すと、なぜか顔が熱くなった。
みこと
すちさんは、未だにあのクソ会社にとらわれている俺の魂を、解放してくれる気がした。
みこと
みこと
すちさんのおかげで俺の日常が輝き始めた。
みこと
みこと
俺はもう姿の見えないすちさんに、静かにつぶやいた。
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