テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#怪異
耐え内
196
#会話劇
#現代ダンジョン
夜鐘
1,295
こはる
515
まぶたの裏に、薄い光が差し込んでくる。
カーテンの隙間から入り込んだ朝日が、部屋の空気をゆっくりと温めていた。
――ピピピピッ。
何度目かのアラームを手探りで止める。
(……起きよう…)
寝起きの髪は、前髪が少し跳ねていて、鏡を見るまでもなく“寝起き感”が残っているのがわかる。
洗面所で顔を洗い、軽く髪を整えるが、完全には直らない。
(昨夜遅くまで観すぎたな)
あくびを噛み殺しながら身支度を済ませる。
急ぎ足で玄関のドアノブに手をかけて、足元のゴミ袋に気づく。
(おっと。ゴミの日だった)
アパートの外に出ると、湿り気を含んだ夏の風が頬を撫でた。
アスファルトはすでに熱を帯び始め、歩くたびに靴底が軽く音を立てる。
小学校へ向かう道はいつもより静かだ。子どもたちの声が聞こえるのは、もう少し先の時間。
大家さん
雨倉
大家さん
寝ぐせ目立ってたかな…
雨倉
大家さん
雨倉
角を曲がると、小さなゴミ捨て場が見えてきた。
ちょうど誰かがネットをめくり、ゴミを捨てようとしている。
雨倉
雨倉の足が、まるで重力に逆らうように止まる。思わずその人物を二度見する。
それはいた。
夜更かしの原因となった番組。
『原始の記憶~多種のホモ属が生きた証~』という人類考古学ドキュメンタリーがフラッシュバックする。
骨格のライン、立ち姿、仕草のひとつひとつが、まるで遠い時代の類人猿、ホモ=ナレディのそれだった。
胸の奥で何かが警報のように鳴り響く。本能的な感覚が今、目の前で見ている光景は『ありえない』『あってはならない』と叫んでいる。
大家さん
雨倉
名前があるのか!
周囲は静かで、何の異常もない。
大家さんは目の前のホモナレディを『ただのご近所さん』として扱っているようだった。
増子さんは挨拶を受けながらも、その目線だけが一瞬雨倉に向けられる。そして当たり前であるかのようにゴミの分別をはじめる。
動けない。言葉や理性でこの状況を説明することはできない。ただただ困惑が全身に広がる。
大家さん
大家さんの労いに頷いて返した増子さんが今度はまっすぐ雨倉の方へ視線を向けた。
ゴミを自分に渡すよう、大きな手を差し出す。
雨倉
声を絞り出しながら、努めて冷静に自分の手持ちのゴミを受け渡す。
増子さんは小さく頷き返すだけ。言葉はないが、その動作には一切の余計なものが含まれていない。ただ淡々と分別作業をしている。
大家さん
雨倉
小学校へ向かう足取りは重い。
言葉が通じているようだった。まさか現代人?いや、早まるな。ひとつひとつ不可解な点を考えていくんだ。
まず、ゴミ当番って受け取って分別とかしたっけ。
ちがう、そんなことはどうでもいい――
コメント
1件
「おはようご…っ!?」からの流れ、めっちゃ好きです。朝のルーティンが丁寧に描かれてるからこそ、あの“二度見”の衝撃が際立ってました。大家さんが何気なく「増子さん」って呼んだ瞬間、背筋がぞわっとしましたね。しかもゴミ分別の動作が淡々としてるのが逆に不気味で。ホモ=ナレディのドキュメンタリーを前夜に観てたタイミングの悪さも含めて、雨倉先生の困惑がすごく伝わってきました。この先、どうなるんだろう…続きが気になります!