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8日目、朝

吹雨希 悠穂

おはようございまーす!

いつも通りの声を聞きながら私は昨晩の夢について思い出していた

―試験はまだ終わらないよ―

―だってまだ“芝居”は終わっていないから―

―舞台からは降りられないよ―

狂月 悠羅

(昨日死んだ舞婪が夢で言っていた…)

狂月 悠羅

(一体どういうこと?何かを伝えたいの?)

狂月 悠羅

(これがただの夢だと言うなら気にしなくて済むんだけど──)

狂月 悠羅

……

なんだか嫌な予感がした

人狼ゲームは終わったはずだが、なんだかまだ何かが続くような…

狂月 悠羅

(昨日結果発表すればよかったはずなのにわざわざ今日に持ち越した…)

狂月 悠羅

(それに今日の夢)

狂月 悠羅

(良くないことが、起こる気がする……)

着替えなどを済ませて、食堂に来た

そこでは既に私以外の3人が食事を始めていた

長髪の女性

悠羅ちゃん、おはよう!

ボブの女子

おはよう〜

毎朝気さくに挨拶してくれるこの2人

日々人が死んでいく中でも変わらず接してくるこの2人に、私は鬱陶しさまで感じていた

狂月 悠羅

……おはようございます

食事を受け取り、私は健斗の隣に座る

神谷 健斗

悠羅か、おはよう

狂月 悠羅

おはよ

隣に座る健斗も、前に座る悠斗と祐穂も、黙々と食べ進めていく

そんな時、悠斗がポツリと呟いた

鏡狂 悠斗

…俺さ、今日夢に舞婪が出てきたんだよ

清本 祐穂

神谷 健斗

狂月 悠羅

3人で一斉に悠斗を見た

私含め、心当たりがあるからだろう

神谷 健斗

その夢って、舞婪が芝居がどうのとか舞台がどうのとか言ってる夢じゃなかったか?

健斗が問うと、悠斗は目を見開く

鏡狂 悠斗

全くもってその通りなんだが…なんでわかったんだ?

清本 祐穂

『試験はまだ終わらない』

清本 祐穂

『芝居はまだ終わらないから』

清本 祐穂

『舞台からは降りられない』

清本 祐穂

そう言っている夢を俺も見た

狂月 悠羅

私も、全く同じ夢を見た

鏡狂 悠斗

全員が同じ日に同じ夢を…?

狂月 悠羅

やっぱり、何かの暗示なのかな…?

そんなことを考えていると、声が聞こえる

或那 舞婪

おはようございまーす

長髪の女性

あ!おはようございます〜!

ボブの女子

おはようございます

狂月 悠羅

狂月 悠羅

(……え?)

私たち4人は黙った

空気が凍りついた

生存者は私たち4人だけのはずなのに

今朝聞いたばかりのあの声が聞こえてきたのだ

狂月 悠羅

(まさか…)

狂月 悠羅

……

私は心の中で否定をしながら、恐る恐る声の方を向いた

或那 舞婪

或那 舞婪

その人はこちらに気付くと、食事を持ってこちらにやってきた

或那 舞婪

おはよう、みんな

そう言って微笑む目の前の彼は、確かに昨日殺されたはずの或那舞婪だった

或那 舞婪

どうしたの?幽霊でも見たような顔して

目の前の人を見て固まる私達に、舞婪はどこかで聞いたようなセリフを投げかける

舞婪の目を見ていると、まるでミステリードラマの舞台に引きずり込まれているかのようだった

或那 舞婪

早く食べないと冷めちゃうよ?

舞婪はそう言うと少し離れた席に座って食事をし始める

狂月 悠羅

(何がどうなってるの……?)

13時、会議室

人狼ゲームが行われていた時と同じように、私達は時間通り会議室に向かった

するとそこに居たのは──

或那 舞婪

雨葉 由乃

先程見かけた舞婪と、初日に殺されたはずの雨葉由乃だった

狂月 悠羅

(2人とも死んでいるはずなのに生きて目の前にいる…)

狂月 悠羅

(もしかしてだけど、この2人──)

この予想が当たっていることを知るのに、そう時間はかからなかった

吹雨希 悠穂

皆さんおはようございます

吹雨希 悠穂

昨日までの人狼ゲーム、お疲れ様でした

吹雨希 悠穂

ここにいる2人は我がカメレオン演劇団の団員だよ

或那 舞婪

カメレオン演劇団副団長の或那舞婪だよ

或那 舞婪

よろしくね

雨葉 由乃

カメレオン演劇団8期生の雨葉由乃です

雨葉 由乃

よろしくお願いします

由乃はニコッと笑う

その笑顔は、1度死んだとは思えないほど純粋な笑顔だった

狂月 悠羅

(なるほど、団員が参加者として紛れ込んでいたわけか…)

吹雨希 悠穂

それじゃあ、人狼ゲームの結果発表をしようか

吹雨希 悠穂

……と言っても、もう結果はわかってるだろうけどね

悠穂はコホンと咳払いをし、少し勿体ぶりつつ発表する

吹雨希 悠穂

最後に処刑された或那舞婪さんは、なんと人を喰らう人狼でした

吹雨希 悠穂

舞婪さんを処刑し終えると、屋敷から人狼の気配はなくなっていました

吹雨希 悠穂

村人陣営の勝利です

パチパチパチパチ…

悠穂がペコッとお辞儀をすると、心もとない拍手が聞こえる

舞婪と由乃だけが手を叩き、パラパラと音が散っていく

吹雨希 悠穂

さて、見事生き残った皆さんには次の試験を行ってもらいます

鏡狂 悠斗

なっ…

鏡狂 悠斗

試験は人狼ゲームだけじゃなかったのかよ?!

悠斗が叫ぶ

吹雨希 悠穂

あれ?いつ試験が人狼ゲーム“だけ”だなんて言いました?

清本 祐穂

騙したのか?

吹雨希 悠穂

まさか!

吹雨希 悠穂

騙したつもりなんてありませんよ

雨葉 由乃

そう心配しなくとも、次の試験はすぐ終わります

或那 舞婪

そうそう、それに“ルールさえ守れば”危険はないから

神谷 健斗

ルール“さえ”?

雨葉 由乃

団長、先に試験内容を説明した方がいいかと

由乃は、まるで兄に甘えるかのような態度で悠穂に話しかける

狂月 悠羅

(あんな殺され方をしたとは思えない程の距離感)

狂月 悠羅

(あれはやっぱり演技だったってことなんだ…)

狂月 悠羅

(でも、演技であそこまでリアルに……)

私は、劇団の狂気にゾッとしつつも、真実のように見せたあの演技をした彼らに、ときめきを感じ始めていた

吹雨希 悠穂

それじゃあ、試験内容を説明しようか

吹雨希 悠穂

内容は簡単

吹雨希 悠穂

とある“条件”を満たして入団許可証を貰うだけだ

狂月 悠羅

狂月 悠羅

……え?

鏡狂 悠斗

入団許可証を貰うだけって…

鏡狂 悠斗

じゃあその条件はなんなんだ?

吹雨希 悠穂

それを言ったら試験にならないじゃないですか〜

吹雨希 悠穂

ただし条件があります

吹雨希 悠穂

屋敷の探索時間は13~18時の間であること

吹雨希 悠穂

これ以外の時間に探索していた場合は──

吹雨希 悠穂

死にます

妙にはっきりと聞こえたその言葉は、私達の疑心を煽る

今まで人が居なくなっていく様子を見てきて、舞婪と由乃に関しては目の前で殺された

なのにその舞婪と由乃が生きて目の前にいる

そのせいで、ゲーム中に死んでいった参加者達は本当に死んだのか

今団長が言った「死ぬ」というのは本当に死ぬことなのか──

疑念を持たざるを得ない

狂月 悠羅

(いまいち信用し切れない…)

どうやら考えていることはみんな同じなようで、悠斗が口を開いた

鏡狂 悠斗

その死はほんとに“死”か?

吹雨希 悠穂

吹雨希 悠穂

さあ、どうだろうね?

狂月 悠羅

(どうだろうって…)

狂月 悠羅

(否定も肯定もしないの?)

狂月 悠羅

(一体この人達は何を目的としてるんだろう──)

吹雨希 悠穂

さあ、いきなり色々言われてパンクしてるんじゃないかな

パチンと手を鳴らしながら、悠穂が言う

吹雨希 悠穂

今日は、部屋でゆっくり休んで、明日から探索を始めたらどうです?

清本 祐穂

……

清本 祐穂

なあ

祐穂が恐る恐る口を開いた

清本 祐穂

入団許可証は要らないと言った場合、ここから出れるのか?

吹雨希 悠穂

うん、出れるよ

狂月 悠羅

……!

全員が息を飲んだ

これ以上振り回されるよりさっさと帰った方が…と思ったのだ

だが、その気持ちはすぐに揺さぶられることになる

或那 舞婪

でも、いいのかな?

或那 舞婪

せっかく人狼ゲームで最後の4人にまで残ったんだ

或那 舞婪

あと少しで憧れの劇団の一員になれるかもしれないのに…

或那 舞婪

そのチャンスを手放すの?

狂月 悠羅

っ……

記憶が過った

ここに来る前のこと

カメレオン演劇団に夢を持っていた時のこと

キラキラ輝く、引き込まれる舞台に憧れて、応募したこと──

狂月 悠羅

(私は、どうしたいんだろう)

狂月 悠羅

(そりゃもちろん、こんなおかしなことなんてって思う)

狂月 悠羅

(だけど……)

心の奥底では許可証を欲しているんだ

狂月 悠羅

(それこそ、ここで諦めてしまったら今までの努力が無駄になるも同然…)

狂月 悠羅

(だったら──)

吹雨希 悠穂

どう?最後の試験、受けたくなかったら帰ってもいいよ?

誰一人として足を動かそうとはしなかった

それどころか、やる気に満ちた目で悠穂を見ていた

吹雨希 悠穂

っ……!

吹雨希 悠穂

いい目だね

吹雨希 悠穂

それじゃあ、最終試験を始めようか!

──最終試験、開幕。

人狼ゲーム〜命懸けの採用試験〜

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