翠
(でも、まさか.....)
翠
(ループなんて、そんな物語みたいな事あるわけないのに.....)
翠
(きっとこれは夢、現実じゃないのよ.....)
そう自分に言い聞かせていると、ふと思い出した。
翠
(そういえば、さっきは皆に連絡をとってなかった....)
翠
(もしかしたら、何か危ない目にあっていたら.....)
頭に嫌な予感がよぎり、私は急いでとある幼なじみに連絡をした。
それは、同い年の幼なじみ、龍斗だった。
翠
(きっとこんな状況なら、あいつが一番力になってくれるはず....)
昔からずっと一緒に遊んだりした彼なら、きっと自分の連絡にすぐ気付くはず。
そう信じて、彼に連絡をした。
翠
龍斗、起きてる?
龍斗
あぁ、今起きたけど。
龍斗
翠、どうしたんだ?
翠
龍斗、Xって分かる?
龍斗
あぁ、なんか敦子が焦って教えてきたやつだっけ?
翠
そう。それでね、皆を無事に脱出させたいから、龍斗に手伝って欲しいの。
龍斗
は?敦子に待ってろって言われたろ?
龍斗
脱出なんてそんなもの、危険過ぎないか?
翠
でも、ここにいたらいつXが襲ってくるか分かんないの。
翠
だから、皆だけでも逃がしたい。
龍斗
そんな危険に晒すような事、もし逃げてる最中に誰かがXに襲われたらどうするんだ?
翠
だからこその私と龍斗なの。
翠
私達は足が速い方だから何とか逃げられると思う。
龍斗
そりゃ、俺らは速い方だけどさ...
翠
凄く怖いのはよく分かる。
翠
でも、私は皆を救いたい。
翠
だから、龍斗が行かないなら私が一人で皆をここから脱出させるよ。
龍斗
....分かったよ。翠はやっぱり頑固だよな。
翠
ありがとう、龍斗。
龍斗
....おう。
龍斗
翠、お前今どこだ?
翠
自分の部屋にいるよ。
龍斗
なら、俺がそっちに行くから待機しててくれ。
龍斗
...うっかり音をたてるなよ?
翠
分かってるわよそれぐらい!
龍斗
それじゃ、また後でな。
翠
うん、気を付けて。
翠
.....ふぅ....。
翠
(良かった、龍斗と連絡とれて...)
これで後は、龍斗と合流するだけとなった。
でも、少しだけ違和感を感じていた。
翠
(龍斗なら、きっと12階の私の部屋じゃなくて2階の龍斗の部屋を選んでいるはず...)
翠
(なんなら、私が部屋に行く最中に皆を連れていけばいいはずなのに....)
翠
(どうして龍斗は、1階より遠い私の部屋を選んだんだろう.....?)
翠
(いいや、私の考えすぎか....)
翠
(このまま大人しく龍斗を待とう...)
そうしてしばらくして、ドアを叩く音がした。
翠
(龍斗かな...?)
私はドアの前に立ち、ドアスコープを覗いた。
確かにそこには、龍斗がいた。
ただ、彼の手には包丁が握られている。
翠
(....龍斗?どうして包丁なんか...)
翠
(...何かおかしい気がする)
違和感はもっと強くなり、不信感へ変わった。
そうして私は、ドア越しの彼に話した。
翠
...龍斗。
龍斗
...翠、早く開けてくれないか?
翠
...なんで包丁なんて持ってるの?
龍斗
なんだ、そんな事か。
龍斗
ただの護身用だよ。無いよりマシだと思ってな。
翠
....そっか。
彼は護身用だと言っている。
しかし、彼の目が少し笑っていたのを私は見逃さなかった。
龍斗
なぁ、そんな事より早く開けてくれ。
翠
...ねぇ、龍斗。
翠
...私の事、好き?
龍斗
....はぁ?
龍斗
今聞くことじゃ無いだろ?
翠
駄目、答えてよ龍斗。
龍斗
....好きだよ、友達として。
龍斗
.....これでいいだろ?早く..
龍斗
はぁ....分かった。
翠
貴方、本当に龍斗?
龍斗
何言ってんだ、本物だよ...
翠
嘘だよ。龍斗は私の事が好きかなんて聞いたら絶対口下手になるよ。
翠
それに龍斗は、意外と照れ屋だからそんなすぐに言うわけがない。
龍斗
チッ.....俺は
翠
龍斗じゃないなら帰って。私は偽物の貴方と脱出する気は無いよ。
だが、ドアスコープ越しの龍斗はニヤリと笑っていた。
龍斗?
...だからどうしたっていうんだ?