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夜が深まると何時も同じ場所に座った
古い木造の家の2階
屋根裏部屋に続く階段を登った先にある小さな窓辺
そこから見える空は街の明かりに邪魔されず
綺麗な星が良く見えた
13の冬に初めて知ったことがある
じいちゃんが優しい声で教えてくれた
あの言葉
その日から俺の中では何かが変わった気がした
自分の見ている光は「過去」の光
今星が放った光が誰かに届くのは何百、何万と先の話
じいちゃんはそう笑った
そう言われてしまえば
俺が未来の人に……って
そんな希望みたいに感じてしまった
その日からだった
何年後かの誰かに向けて手紙を書き始めたのは
最初の手紙はお気に入りの万年筆で丁寧に書いた
2026年2月14日
ないこより未来で星を見ている貴方へ
今、13歳の俺は貴方の事を想像しています
貴方は何処にいますか?
この地球上? それとも別の星?
でもきっと夜空を見上げて星を数えていますよね
その中に俺がいた頃の地球の光が
ほんの少しだけど混じってるかもしれない
お願いがあります
何千、何万年の未来の夜
いちばん明るい星を見つけて
「ないこ、届いたよ」
と言って欲しい
声は出さなくてもいいです
俺はここで待っています
自然と笑みを零しながら封筒を閉じる
そして父さんの書斎にあった古い金属の箱にしまった
ただ少し洒落たシールが貼ってある古い錠前が着いた箱
誰も興味を示さないその箱に
大事に大事にしまった
それから毎年バレンタインデーの夜に手紙を書いた
15歳の時は失恋の話
17歳の時は大学受験の話
22歳の時は初めての失業の話
29歳の時は結婚しなかった後悔の話
38歳の時は母が亡くなった話
47歳の時は増えた白髪を笑った話
手紙は全部、同じ箱に入れた
歳を重ねるごとに紙の厚みが増していった
箱が閉まらなくなりそうになっても書き続けた
もうすぐ80歳になります
まだ生きています
星は今日も遅れて届いています
貴方はもう俺よりずっと先にいますよね
でも約束だからちゃんと読んでくださいね
そして最後の手紙
97歳の冬
もう体が言うことを聞いてくれません
でも、後悔はありません
だって俺は何年後の誰かも分からない貴方に
ずっと話しかけてきたから
貴方がそこにいると信じているから
この手紙を読んでいるなら空を見上げて
どんな星でもいい
いちばん明るい星に
「ないこ、届いたよ」
と言って欲しい
ありがとう
大好きです
その年の4月
ないこは静かに生涯の幕を下ろした
2044年2月14日
地球はまだなんとか住める星だった
東京郊外の古い住宅街の一角
もう誰も住んで居ないはずの傾いた木造二階建て
取り壊しを待つだけの空き家になっていた
若い考古学者風の男性が
屋根裏部屋の窓辺に置かれたままの金属製の箱を見つけた
埃だらけで錆び付いた錠前は簡単に壊れた
中には色褪せた封筒が87通
1番新しいものは既に145年前の日付
彼は手紙を束を手に取り一通だけ開いてみた
ないこが、最後に書いた手紙だった
読み終えた時、彼は静かに立ち上がり
開け放たれた屋根裏部屋の窓から夜空を見上げた
そこには変わらない星々が輝いていた
勿論、その光は過去のものだ
でも今夜
彼の視界に新しく届いた一筋の光があった
145年前に放たれた
地球の小さな街の明かり
ないこが最後に見たであろう、同じ夜空の1部
彼は深く息を吸って、小さく呟いた
その声は誰にも聞こえない
ただ、145年前の少年がこの瞬間を待っていた事は確かだった
星の光は遅れて届く
でも、誰かの想いは
時間と距離さえも超えて
確かに
届くことがある
「光として届く」
END