本当はダメだが、台所の窓を開けてタバコを吸っていた。
ホムラ
…フゥ〜………

ホムラ
…どしたチーノ。
寝れないんか?

チーノ
あ、ばれたか

ホムラ
足音が聞こえたからな。

チーノ
なんでか寝れんくってさ。
ホムラも?

ホムラ
ん…まあそんなとこ。
…お前、俺になんか言いたいことあるんやない?

チーノ
え?

ホムラ
大先生の部屋にいた時からチラチラ見てたろ?

チーノ
あー、まあそうやな。

チーノ
…俺ここ来た時みんなの情報集めとったやん?

ホムラ
そういやそうだったな。

チーノ
でもその時ホムラの情報だけほぼ何も無かってん。
だから俺ホムラのこと何も知らんねん。

チーノ
これから一緒に任務していくのに何も知らないのは嫌だ。

チーノの顔は真剣だった。
ホムラはそんなチーノを見て顔をほころばせた。
ホムラ
お前は本当に良い奴やな。
いつかはみんなに話さなきゃいけないことだし…

ホムラ
お前に先に話しとこうか、俺の過去のこと。

チーノ
過去…?

ホムラ
まあ、話せば長くなるから詳しいことははしょるけど…

ホムラ
俺は色々あって両親をなくした。
そのあとは施設に入って18歳までそこで育った。

ホムラ
その施設は今調査してる所みたいに酷いところだった。
暴力はもちろん、罵倒、食事抜き、酷い時には……思い出したくもないことばかりだったな。

ホムラ
そこの施設には年上があまりいなかった。
11歳で俺はその施設の最年長になったんだよ。
下の子達はまだ幼稚園や小学校低学年の年齢だった。

ホムラ
だから俺があの子たちを守らないとって思ってた。
だから罰は全部俺が受けた。
これは罰のひとつでついた傷。

ホムラはTシャツをめくって背中を見せた。
一筋の傷が痛々しく残っていた。
チーノ
酷いな…

ホムラ
18歳の時に、下の子が所長の気に入らないようなことをしたらしく、俺は酷い仕打ちを受けた。

ホムラ
もう立ってられないくらいに痛めつけられて、もうここで命を絶ってしまおうかと思ったよ。

ホムラ
だけど、ある組織が助けてくれて生き延びることが出来た。
それから1年して兄さんに引き取られ、ここで育った。

ホムラ
俺の感覚が鋭くなったのはその罰を受けたあとだった。
多分自分を守るために身についたんだろうな。

ホムラ
…正直、今日行った施設で思い出しちゃって辛かったんだ。
当時のことを思い出すとありとあらゆる不安がおしよせる。
…もう何年も前の話なのにな。

チーノ
…そうだったんだ。
なあ、俺たちじゃ物足りないんか?
やっぱりその不安は兄さんじゃないと拭えない?

ホムラ
…え、いや……
こればっかりは兄さんでも無理、かな……。
俺は一生この不安と一緒に生きていかなきゃいけないと思ってるし、その覚悟はできてる。

チーノ
でもそれじゃホムラが辛いだけだ!

ホムラ
いいんだよ、俺は。
俺はな、周りのヤツが不幸になることより悲しいことは無いんだ。
俺みたいに諦めないで欲しいから、お前らを、家族を守りたい。

ホムラ
感情を失って欲しくない、ちゃんと人間らしい生活を送って欲しいから、
だからそのためだったら俺は俺の命だって惜しくない…

チーノ
でもそれはお前にも言えることだろ!

ホムラ
え?

チーノ
俺たちだってお前のことが大好きで、不幸になって欲しくないんだよ!
なんでそうやって自分を犠牲にするんだ、我慢しちゃうんだよ!

チーノ
俺たちってそんなに頼りない?
それならもっと頑張るから!
兄さんと会った時からお前、消えちゃいそうで怖いんだ!

チーノ
ホムラが我慢する必要ねえじゃん!
俺はお前にたくさん迷惑かけてる。
だからお前も俺に迷惑かけろよ!

ホムラ
ちょ、声でけえって!
抑えろ…!

ショッピ
チーノの言う通りっすよ。

ホムラ
ショッピ!?

ショッピはいつの間にか二人の会話を聞いていたらしく、ひょっこり顔を出してきた。
ショッピ
あんたは何かと自分を犠牲にしようとするけど、あんたがいなくなったら不幸になるのは俺らです。
あんたが望むみんなの幸福にはならないんすからね。

ショッピ
ここにいるみんな、少なくとも幹部連中は全員同じこと思ってるはずですよ。

ホムラ
…俺は幸せ者だな。
昔じゃ考えられなかったけど、俺はひとりじゃない。

ホムラ
それは分かってるけど、もうどうしようもないんだよ。
俺はあの時もう自分を捨ててたのかもな。

ホムラ
おやすみ2人とも。
明日も任務頑張ろうな!

チーノ
……

ショッピ
……

残されたふたりはしばらくホムラが消えていった方を見つめていた。
チーノ
…あの人のことは俺らが守ろう。

ショッピ
言われんでも。

ショッピ
…お前泣いとんか?

チーノ
泣いでない"っ!
