雨宮 凛
私…もう、蓮とは一緒にいられないの。
そう。
もう後、五日後には、蓮の元を、この世界を去らなければいけない。
運命は、世界は、意地悪だ。
愛されたかった。
こんな私でも、誰かに愛されたかっただけなのに。
やっぱり、私じゃだめなんだ。
秋原 蓮
どういう事…?別れる…って事…?
秋原 蓮
もう、嫌いになっちゃった…?
雨宮 凛
違う!そんなこと、ない!!!
雨宮 凛
ただ…一緒にいれないの。
雨宮 凛
だって、私は…。
雨宮 凛
私は。
雨宮 凛
「梅雨」だから。
秋原 蓮
え…?
言い切った。
言い切ったと同時に、私の姿は、変化する。
秋原 蓮
凛…?
制服は、形を変え、白いワンピースに。
そして、背中には透き通るほどの薄い、グラデーションのかかった、羽。
一つに束ねていた髪の毛は、ほどかれ、腰までの長さに。
靴や靴下は消え、はだしに。
どんどん変化してゆく。
これが、私の本来の姿。
雨宮 凛
ごめんね…、嘘をついてて…
秋原 蓮
なに、どういうこと…?その姿は…?凛…?
雨宮 凛
私の本当の名前は、「凛」じゃないよ。
秋原 蓮
え…?
雨宮 凛
私は、雨之宮竜神之命。この世界に、梅雨をもたらす恵の神です。
雨宮 凛
もうすぐ、梅雨が終わってしまう。だから、七月になる前にはここを去らなきゃ。
秋原 蓮
え…。
秋原 蓮
違う!!!俺にとっては、俺にとっては!凛は凛だよ。
雨宮 凛
え…?
秋原 蓮
梅雨だろうが、なんだろうが、俺にとっては、今までも、これからも凛は凛だ!!
秋原 蓮
こんなの…急に言われても信じれないけど。
凛だからこそ、信じれる。
雨宮 凛
蓮…。
雨宮 凛
でもね、蓮は、忘れちゃうよ。
秋原 蓮
え?
雨宮 凛
私の事。
秋原 蓮
忘れないよ!絶対。
雨宮 凛
いや、忘れちゃうの。私が梅雨の時期に人間として関わった人は、
私の事、私と過ごした時間や思い出の事、全部全部忘れちゃうんだよ。
秋原 蓮
え
雨宮 凛
世界は、そういう仕組みになってるんだよ。
秋原 蓮
嫌だ!!!俺はあの時、あの時、誓ったんだ!!
秋原 蓮
トラックにひかれる前、凛を引き寄せて抱きしめた時に、
凛の事は、俺が守らなきゃって!!!!!!
秋原 蓮
なのに…
秋原 蓮
これだけ、凛の事を好きにさせといて、今更消えるなんて、ずるいよ!
雨宮 凛
でも…これが、事実なの。
雨宮 凛
私は、世界に梅雨をもたらさないといけない。
雨宮 凛
だから、世界をまわらなきゃいけないの。
雨宮 凛
七月が始まる前に、日本を出なきゃ、日本に夏が来なくなちゃう!
秋原 蓮
いいよ、それでも!!
秋原 蓮
そう思えるくらいに、俺は君が好きだ!!!
雨宮 凛
だめだよ…。私が行かなきゃ、雨が降らない地域に住んでる人たちが、
死んじゃうよ。このまま日本にいたら、日本は一生晴れないし!
秋原 蓮
…そっか…俺、本当にばかだな…。
これは、自分たちだけの問題じゃないんだ…。
どれほど、君の事を好きでも、世界中が困ることになる…
雨宮 凛
うん…私が日本に入れるのは、あと長くて五日。
秋原 蓮
俺も一緒に行くのは…?
雨宮 凛
だめだよ。
雨宮 凛
私のせいで、蓮は、足が治らなくて、もうサッカーはできなくなっちゃった。
そんなの、蓮の人生を奪ってしまったの同然だから。
もうこれ以上、蓮の人生を奪いたくない。
秋原 蓮
凛…じゃあ、後五日!
秋原 蓮
五日間、たくさん遊ぼう!色んなとこ行って、楽しく過ごして。
雨宮 凛
うん!
秋原 蓮
梅雨って、毎年来るけど…、凛は、次は来年の六月に来るってこと…?
雨宮 凛
そうだよ…。
秋原 蓮
じゃあ、その時、また会おう!
雨宮 凛
…でも、蓮は私の事、忘れてるから無理だよ。
秋原 蓮
いや、大丈夫。頑張って覚えとくから。
そんなこと言っても、今まで私の事を
覚えていてくれた人は、一人もいない。
だけど…
命がけで守ってくれた、蓮なら…
微かな望みを抱いてしまう。
雨宮 凛
!!!
蓮は私をベッドの上に引き寄せ
そっと甘く、優しい口付けを落とした。
唇と唇が触れ合う瞬間。
世界中の時間が止まったように感じた。
音もない、そっと触れ合うだけのキスだったが、
何故か、涙があふれてとまらないのはなぜだろう。