ここで待ってる

素直に答えていた

この人に嘘をついても仕方ないと思ったから

いちいち言葉を選ぶほどのその気遣いが

やけに身に染みた

本当は宮田の期待にも

応えたいからこそ不安だった

それでも

不安なままでも構わないのだとしたら

俺も今日から毎日走ることにした

足は案外動いた

でも調子に乗って早くなりすぎずに

あくまで一定のペースを保つよう心掛けた

早朝の新鮮な空気を吸い込む

久しぶりに上がった鼓動と

火照った身体が心地良かった

一週間ほど継続していたある日

夕方、ランニングから帰ってくると

買い物から帰ってきた親と鉢合わせた

つい無愛想に返すと

謎に心配される

は？

んなわけ

俺はすぐさま部屋に逃げ込み

ドアを強めに閉めた

翌日、俺は職員室に呼び出されていた

かなり気を遣われている

これは昨日やけくそで

両指にマニキュアを塗ったせいだ

そのまま落とし忘れて登校してしまい

校門を通ったところで

立っていた担任にすぐさまバレた

分かるんかい

大人は職場でネイルし放題でずるいな

放課後、その話をすると

相手は腹を抱えて笑った

途端に気が引けて

指を引っ込めようとすると

すかさず握られる

慣れた仕草で

もう親指に塗り出した

あー、これは

絆創膏の時より気恥ずかしいかもしれない

窓の方に目を逸らすと

気付かれて、覗かれる

うるせぇよ

一瞬、坊主にしたことがあるという話がよぎる

今はそんなことにはならないでほしいが

やべ、また言い過ぎたかも

良い感じにまとめてくれた

ほんとにそんなことはない

なぜ一瞬

心拍が上がったのかは分からない

握られている指に

これ以上意識が向かないようにする

部室でマニキュアを塗ってもらうとか

前までは馬鹿みたいだと思ったようなことを

今はできているから不思議だ

ていうか、綺麗っていうのは

どちらかというと──

いや、マジで何でもない。

いっそ開き直ることにした

なんで爪から結び付くのかは分からないが

何とはなしに

一応親にも報告しておいた

明らかに嬉しそうだ

とはいっても、日付はまだまだだ

走るばかりにならず

手芸の方も忘れないようにしようと思った

まぁ、勉強から逃げる口実でもあるけど。

つづく