テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
1件
これは今年の秋のこと
少し乾いた風が吹き、 陽の光が柔らかく差し込むスタジオの中。
ふと、ひとつの後悔が語られた。
それは、まだ名前の出ない”あの子”の話。
本編では語られなかった、ある秋の断片。
黎翔
シャツの襟元をそっと下げながら、 黎翔が鏡に映る自分の背中を見つめる。
その肌には、1頭の美しい龍が刻まれていた。
咲き誇るでも、朽ち果てるでもなく、 ただ、永遠に近い静けさでそこに佇んでいる。 ──そんな龍だった。
インクの黒が、まだほんのりと肌に滲んでいる。
黎翔
黎翔がふっと笑う。
悠斗
悠翔は無言で肩をすくめる。
悠斗
黎翔
黎翔
シャツの襟を引き直すその仕草には、 照れも躊躇もなかった。
2人でスタジオを出ると、 外の空気は思ったよりも冷えていた。
悠斗がポケットからタバコを取り出して火をつけた。
黎翔も、何も言わずにタバコを咥える。
すると悠斗が、ライターの火を灯したまま、 手を差し出す。
悠斗
黎翔
黎翔は淡々と、火に口元を近づける。
カサ、と足元の落ち葉が鳴る。
その音を合図にでもするように、2人は歩き出した。
数歩の沈黙のあと、悠斗がふと呟く。
悠斗
悠斗
黎翔
悠斗
悠斗
黎翔
黎翔は横目を向ける。
だが悠斗は、前を見たまま話し続けた。
悠斗
悠斗
悠斗
悠斗
悠斗
黎翔
黎翔は何も言わずに煙を吐いた。
その目元に、わずかな陰が差す。
悠斗
悠斗
悠斗
タバコの灰がカチ、と落ちた。
悠斗
悠斗
黎翔は眉をひそめたが、何も言わなかった。
悠斗
悠斗
悠斗
悠斗
黎翔
悠斗
悠斗
悠斗の声は静かすぎて、風と混ざるようだった。
悠斗
悠斗
悠斗
悠斗
悠斗
ふたりの間に、また風が吹いた。
悠斗のタバコは、もうほとんど燃え尽きかけていた。
しばらくの沈黙のあと、黎翔がぽつりと呟いた。
黎翔
悠斗
黎翔
黎翔
黎翔
黎翔
悠斗は少しだけ笑った。
悠斗
煙が、またひとつ風にさらわれていった。
──それでも。
その沈黙の中に、確かに残る温度があった。
ふと、黎翔が問いかける。
黎翔
悠斗
悠斗はそう答え、一瞬だけ視線を外した。
そして──
悠斗
悠斗
それだけ言って、火の消えたタバコを足元で踏み消した。
黎翔
それ以上は訊かなかった。
悠斗は、風に向かって煙の名残を吐き出しながら、 小さく呟く。
悠斗
黎翔はその言葉に、わずかに眉を寄せたが、
その“あいつ”が誰を指しているのか── そのときはまだ、分かっていなかった。
──彼がその“名前”を出すのは、 きっともう少し、先の話。
それが“真実”として繋がるのも── まだ先の未来のことだった。
next ▶︎♡35