逃げられない檻

彼は、逃げた。 壊れた心を抱えて、それでも夜が来るたび、息がしづらくなる。 気づけば、同じ路地に立っている。 優しさのようなものに縋りながら、何かを埋めようとして。 けれど── 満たされることはなく、静かに、何かが削れていく。 何を思い出しているのか、自分でもわからない。 ただ、目を閉じると、耳の奥に誰かの声が滲む。 そんなはずはない。 ……もう、終わらせたはずだったのに。