恥の多い生涯を送ってきました。
自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。
……どこです?ここ。
助かります。
大丈夫です。
重い瞼を開けると、そこは、先がないのではと錯覚する程広い図書館でした。
どういうわけか、こんなファンタスティックな現象に巻き込まれたようです。
自分がどういう人間なのかの記憶は朧気ながら覚えています。 ただ、ここまでの記憶はすっかりなくなってしまいました。
それどころか、こんな場所など少しも知らないのです。
ありがとうございます。
見知らぬ人からの食べものを口に含むのは危ないと分かっていますが、あいにく、空腹に耐えられなかったのです。
素朴な味付けのお粥を口に流し込みましたが、やはり、素朴な味付けというのもあり、物足りないと薄々感じました。
…あの、食べないんですか?
見ると、お粥を作ってきた人は少しも口に運んでいないのです。 一応目の前にお粥の入った皿は置いてあるというのに、ただ何もせず、石像のごとく静かに座っているのでした。
そう、思ってもいないことを言うように流暢に理由を話しながら、お粥を食べ始めました。
自分とこの人の間に、暗い水底のようにどんよりした空気が渦巻いているのに気付いて、それを感じたくなくて、自分も同じようにお粥を口に運びました。
あっ、是非。
声を露骨に上げ、突然そんなことを言い出すものですから、相手のペースに乗せられて返事を返してしまいました。
ただ、本心からも、この図書館に置いてある数多の本については気になっていたので、勢いで返事したことに後悔は感じていませんでした。
そう言って差し出された本に、自分は、今までに感じたことがない程惹き付けられました。
借りてもいいですか?
大丈夫、という言葉が聞こえた瞬間、半分奪い取るような形で本を手に持ちました。
驚くことに、その本は表紙に題名が書かれていませんでした。 それどころか、物語に関連した絵すらないので、表紙を見ただけでは一体どういう物語なのか判別することができないのです。
その本の内容がどうしても気になってしまったので、本を開きました。
そうして、本が音を立てて落とされました。 正確に言うなら、落ちました。
それは、本を持っていた人物が突如としていなくなってしまったのが原因でした。
その場には、空になった皿と、表紙に何も書かれていない本だけが残りました。
「世間というのは、君じゃないか。」
神に問う、無抵抗は罪なりや?
人間、失格。 もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。
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