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コメント
1件
切なくて悲しいけどそれがとっっってもいいです!
全ての青薔薇が、一斉に咲いた。
世界がまた
“記憶に塗り変わる”
雨の匂い
濡れた地面
遠くの音
戦場のはずなのに
足元は、あの路地裏。
いさぎ
現実が、二重に重なる
かいざー
目の前の男がまた、呟く。
でも今回は、余裕がない。
かいざー
いさぎ
叫ぶ。互いに。
その瞬間
また
ーー「困ってた…から…?」
声が、響く
いさぎ
また…同じ。視界が割れる。
誰かの背中
温もり
掴まれた服
いさぎ
頭から名前がでかける
かいざー
震える声。我慢してる声。
かいざー
かいざー
また、一歩、踏み出してくる。
かいざー
いさぎ
かいざー
いさぎ
叫んでも、男は止まらない。
かいざー
青薔薇が、さらに咲く。
空間が、耐えきれずに歪む。
かいざー
その声は
もう、命令でも、威圧でもない
ただの
かいざー
ただ一つの
願いだった
いさぎ
その瞬間
全てが繋がる
雨
声
言葉
かいざー
いさぎ
喉が震える
かいざー
視界が、定まる
目の前の男と
記憶の“そいつ”が
重なる。
いさぎ
名前が、出る
それと同時に
静かに
“何かが、壊れた”
_青薔薇が崩れる
いや
“消えていく”
一枚、また一枚と
花弁が
存在ごと
ほどけていく
いさぎ
違和感
さっきまでそこに居たはずの男の輪郭が
薄れている
いさぎ
カイザーは少しだけ驚いた顔をした
それから
小さく、笑った。
かいざー
かいざー
ゆっくり
理解したように。
かいざー
自分の手を見た
指先が透けている
かいざー
いさぎ
でも、自然とカイザーには焦りが見えなかった。
かいざー
ゆっくりと俺の方を向く
その顔は
さっきまでの狂気が嘘みたいに
静かだった。
かいざー
俺をまた呼ぶ
その名前だけははっきりしている。
いさぎ
いさぎ
その一言に
カイザーは目を細めて
かいざー
短く、答える
かいざー
それ以上の説明は、しない
厭、できないのかもしれない
いさぎ
いさぎ
言葉が続かない。
何を言っていいかわからないから
かいざー
かいざー
かいざー
自分でもわかっていないように呟く
身体が、さらに透けていく
青い花弁と一緒に
かいざー
言葉が途切れる
一瞬
何かを思い出そうとして
でも
掴めない。
かいざー
自分の事なのに
わからない。
思い出せない。
それでも
大切な人へ向ける視線だけは、外さない。
かいざー
小さく、息を吐く
かいざー
かいざー
風が吹く。
花弁が舞う
その中で
カイザーの輪郭が崩れていく
かいざー
最後に、もう一度呼ぶ。
いさぎ
答える
かいざー
言葉が途切れそうになりながら
それでも、必死に、絞り出す。
かいざー
その声は
あまりにも
弱かった。
沈黙
答えられない
わからないから。
かいざー
カイザーが笑う
かいざー
納得したように
目を閉じて
かいざー
かいざー
その言葉と同時に
カイザーの身体が、ほどける。
青い花弁になって
空に、溶けていく。
残ったのは
静寂と
一輪の青い薔薇
俺はそれを拾った。
いさぎ
見つめる。
その一瞬
ほんの一瞬だけ…
胸が、傷んだ。
いさぎ
いさぎ
名前が溢れる
だけど
すぐに消えてしまった。
いさぎ
何も分からない
何も残っていない
それでも
涙だけが落ちた。
いさぎ
理由はない
見つからない
それでも
この青い薔薇だけは
離せなかった。
end.