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ひえぁー面白いー……続き楽しみにしてます!
続き気にならせるの上手いですね! ソワ( •ω•` 三 ´•ω•)ソワ そして絶対この後オープニング入る…!! 続きも頑張って下さい! (๑•̀ㅁ•́ฅ✧
自信満々に私に宣言したクロトの手際は凄かった。
敵地だというのに臆することなく、淡々と失敗の芽を摘んでいく。
効果音を付けるなら……ヒュンヒュンビュンッ、って感じかな。
とにかく一つ一つの行動が素早いのだ。
それは、一種の証明だった。ここにいる彼が怪盗であることの。
まぁ……凄いのは、凄いんだけど。
私は半眼でクロトを見た。
クロト
クロト
手を使い体を使い、全身で興奮を表現してるクロトを見ると、素直に賞賛できない。
……出会った当初のミステリアスな雰囲気はどこへやら。
ここにいるのは別人ですか?
あれからずっと見てたから、そうでないことくらい分かるけどね。
私は棒読みでクロトの反応に応える。
麗美
麗美
このやりとり、今日でいったい何回目だろう。
何回もボール取ってきて、飼い主に褒めてもらいたい飼い犬みたいだな……。
麗美
クロト
麗美
クロト
クロト
クロト
クロトはしょんぼりと肩を落とした。
ますます人懐っこい飼い犬みたい……それも小型犬の。
……なんだか可愛くなってきた。
顔が分からないから、詳しくは分からないけれど、歳は私と同じくらいか、ちょっと上のはずなのに。
麗美
クロト
少し、上目遣いでこちらを窺うクロト。
うーん……やっぱり可愛い。
頭をわしゃわしゃしたい。……彼が犬だったらの話だよ?
クロトが犬に見えることはちょっと横に置いておいて……どうやら私とクロトは性格が合っていたようだ。
その証拠に、ここ一時間くらいの間で、私と彼は同じクラスの友達くらいまで仲良くなっていた。
……え? 知らない人について行ってはいけませんって?
ここは異世界だし、そんな常識はもう通用しない……ハズ!
そもそも知らない人(警官)に連れてこられた時点で、知らない人に連れて行かれているわけだし……無効だよね。そんなもの。
私がよしっと自分の手を握りしめたとき、クロトは仮面に手をかけた。
おぉ、素顔公開? ……何で今?
私が疑問に思ったのが分かったのだろうか、クロトは仮面を外しながら口を開いた。
クロト
いや、違った。何も分かってなかった。
私は、どうして今素顔を公開する必要があるのか知りたいのだ。
そうはいっても、黙っていては何も伝わらない。
クロトが外し手に持っていた仮面は、いつの間にかどこかに行っていた。
気になる彼の素顔はというと……今背を向けられてるから見えない。
素顔公開に何のメリットがあるのか、私がクロトに訊ねようとした次の瞬間、彼はボソッと、奇しくも私の疑問に答えるように呟いた。
クロト
麗美
都合がいい……?
いったい何に都合がいいのだろう。
私に聞かせるつもりではない言葉とはいえ、目的語も修飾語もなくて苦労しないのかな……。
そんな私の心情がそのまま顔に出ていたのだろうか。
クロトは前を向いたままチラリとこちらを見遣る。
そしてクロトは何を思ったのか、おもむろにこう呟いた。
クロト
え、私、小さい子供……?
軽くショックを受ける私。何も気にしていないクロト。
花の女子高生になんたる暴言。何か言い返すべきだろうか。
いや……そうしたら更に私が子供みたいに見られるか。
あぁ、もう、くそぅ、覚えてろ、よ……
麗美
––––––––その時だ。
拳を握り締め、復讐の決意を固める私の耳が、足音を拾ったのは。
…………ザッ、ザッ、ザッ、ザッ
この足音は先ほども聞いた種類のもの。
……そう、警官さん達のものだ。
思わず肩を強張らせる。怖かった。
隠れないと……隠れないと捕まってしまう。嫌いな牢屋へ逆戻りだ。
どこか身を隠せる場所は……っ。
焦る私の頭に、クロトの手が置かれた。
クロト
麗美
クロトは人差し指を立て、私に静かにするよう目で訴える。
クロトの顔が綺麗すぎて私は黙らざるを得なかった。
……ここまで計算尽くだとしたら、もう私人信じられないかも……。
私が惚けている間に、クロトは足音のする方へと歩いていく。
遠目からでも、警官がいるのが見えた。クロトは隠れもせず、向かい合った。
そして何をとち狂ったのか、自ら警官に声を掛けたのだ。
クロト
その声で、私の思考が急速解凍。フリーズしていた頭が再稼働。
……ヤバいヤバいヤバいヤバい! どうして声かけたの声かけてから攻撃するスタイル⁉︎ クロト怪盗じゃなくて武士だったの⁉︎
戦隊モノの変身シーンと名乗るシーンって敵からすれば攻撃のチャンスなのに攻撃されないのはフィクションだからだよ、ここノンフィクション!
はい、私の人生終了しました。
本当にありがとうございます(泣)!
誰か私の遺骨を拾ってくださいね……。
しかし、警官さん達の反応は、悲観にくれる私の予想の遥か斜め上をすっ飛んでいった。
何やら敬礼しだしている。
警官
…………ん? 今この警官さんなんて言った?
でんか、でん……か? でんかって何? ん……殿下?
その単語の意味を理解するのに、きっちり五秒かかった。
そして叫ぶ。
麗美
……クロト、その目を止めて下さい。
私だって頭では分かっていましたよ。えぇ。
このタイミングで声を出してはいけないことくらい!
……でもねっ、人間には反射っていう機能があるの。
仕方がないでしょ? 脳の働きによるものじゃなくて、脊髄反射によるものだったんだから……!
警官
警官
麗美
いいえ、とも、はいそうです、とも言えず、私は口をモゴモゴさせた。この時点でもう色々怪しい。
警官さんは腰にさげていた銃に触れる。
私は再度死を覚悟した。今度はより直接的な死だ。
ぎゅっと目を瞑る。
どうせ死ぬんだったら……私、こんな世界じゃなくて、向こうで死にたかったな。
そんなこと、今思ってもしょうがないのになぁ……。
やるなら早く痛くないようにして下さい……!
しかし、殺され方に対して注文の多い私の覚悟は、無用の長物となった。
クロトが私を庇ってくれたからである。
クロト
嘘だ、と思った。
ううん、手違いで捕まったのは本当だけれど、私はクロトに何も話していない。
怪盗って何でもお見通しの能力持ってるの……?
クロト
クロト
流れるように嘘を吐くクロトを、警官さんは微塵も疑っていないのだろう。
仲間内で顔を見合わせている。対応に困っているのだ。
やがて、その内の一人がおずおずといった口調で声を上げた。
警官
クロト
クロト
クロトは警官さんの台詞に被せて言い切る。
……というかアロミネルさんって六百年前の人間なの?
私、その人と見間違えられたってこと?
アロミネルさんって不老不死だったのかなぁ…………。
警官さん達はまだ釈然としない面持ちだったが、一応はクロトの言葉を信じたのだろう、銃から手を離した。
警官
警官達が見えなくなると、私はやっとホッと息をついた。
クロトはそんな私を横目で見て、不敵に微笑む。
クロト
私は戸惑いながら、彼についていった。
灯りもない暗い道を、クロトの背中を頼りに進んでいく。
見失わないようにするのは、それほど難しくない。
となると、頭の中は雑念で満ちてくるもので。
麗美
麗美
……でもなぁ、やっぱりそういう感じはしないんだよねぇ……
クロト
クロト
どうしたもこうしたもない。焦っていて聞き流していたけれど、クロトが「殿下」と呼ばれる身分の人間だなんて。
そんなお方が怪盗って……夜遊びですか?
麗美
麗美
麗美
身分が高くてもこんな感じだから、いきなり首を刎ねられるなんてことはなさそうだけど……。
クロトは渋い顔で振り返った。
クロト
麗美
クロト
クロト
麗美
クロト
おぉう、そのお綺麗な顔は自分のものだと。
自慢しているようにしか聞こえないが、本人にその気はないのだろう。
麗美
クロト
さらりと言ってのけるクロト。……それ、部外者の私に言っていいのでしょうか?
結構な機密事項じゃない?
クロトはまたもやとんでもない情報を、何でもないような顔をして口に出した。
クロト
…………死っ⁉︎
記録上の死、生きて動いている、死んだことにされた本人。
陰謀の匂いしかしないし、関わりたくない……!
そう思ったはずなのに、口は正直だった。
麗美
会ったばかりの私に、なぜそこまで教えたのか。
疑問は尽きない。野次馬根性も尽きない。
クロトは、私から訊ねたことに驚いたのか、軽く目を見張る。
クロト
クロト
クロト
クロト
クロト
クロト
そしてクロトは親指を立てた。
三の部分が適当な気もするけど……割愛ということだろう。深く突っ込めば何が出てくるか分からないものをわざわざ追求したりしない。
麗美
クロト
クロト
クロトが勝手に名前を継いだということか。著作権も切れてるから何も問題ないのかもしれない。そもそもここ異世界だし。
麗美
麗美
クロト
クロト
『(五百年以上前の)人脈使ってちょいちょいって』も気になるけれど、それよりも。
うまれ、かわり……? ウマレカワリ⁇ ……生まれ変わり⁉︎
今日一日の中で、一番衝撃的なことを言われた気が……気のせいじゃないよね?
輪廻転生かぁ……体は子供頭脳は大人って感じ? あれは転生とは違うか……。
それはそうと、五代目が五百年前くらいの人間だとするのなら、初代怪盗ブラックの彼は、大体六百年前くらいを生きていたことになる。
麗美
クロト
クロト
ふむふむ……クロトは、うちのご先祖さまの知り合いっと。
クロト
それって、地球に……かな。
私のご先祖様、自由奔放すぎない?
なんてほのぼのしてたけど、これって、私もその変な儀式とやらをすれば地球に戻れるってことだよね……。
その変な儀式の詳細を知りたい。
……正式名称が変な儀式ってわけじゃないよね?
他愛のない話をしながら歩いていると、いつの間にか目的地に辿り着いたようだ。
クロト
クロト
クロトに釣られて私が見上げた先には、飛行船があった。
飛行船に乗り込み空を見上げると、地球ではありえない光景が広がっていた。
地球の住宅街ではまず見ない、満天の星空だ。
淡く空自体が発光しているように見えるのは、気のせいじゃない。
キラキラしてて、綺麗だ。
何も言葉を発しずに、夜空に魅入る私を、クロトは腕を組んで見つめていた。
クロト
仕方ないじゃない。いいでしょう?
だってこんなにも、
麗美
クロト
クロト
そう言ってクロトは微笑った。
その微笑が夜空に負けないくらい綺麗で……端的に言うと、顔がいいからなぁ。
もっと笑う場面を選んでほしい。注意してよ。イケメン君。
そうでないと、好きじゃないのに顔が赤くなってしまうから。
クロト
あ、あ、あ、あるはずないでしょう?
むしろその言葉、お前に、そのまま、そっくり返します!
無自覚のたらしですか?
迷惑極まりない……仮面被っておいてよ。
麗美
ふいっとそっぽを向いて呟く。
それからしばらくの間、どちらからも、何も話さなかった。
そうすると、考えないようにしていた悩みが頭の中に占拠する。
……これから、私はどうなるのか。どこで暮らせばいいのか。どこで生きていけばいいのか。そもそも地球に帰ることはできるのだろうか。
家族も、友達も、もういないのに、帰ったところで意味はあるのか。
私の居場所なんて、今、どこにあるのだろう?
無条件に与えられる居場所が無くなった、私はただの高校生ですらない。
どうしようか。……どうしようもないか。
まずは働き先を見つけないと……。
クロト
クロト
麗美
麗美
……そんなこと、訊かれても困る。
どこかいい働き口、知ってる? なーんて。
クロトは怪盗だからなぁ……。
クロト
クロト
麗美
クロト
頷くしかない。本当のことだから。
行く場所がない。何をしたいかも不明瞭。
でも……世界を旅する、かぁ。
少し、魅力的かもしれない。
クロト
麗美
確かに行くあてはないけれど、クロトの誘いに乗った訳ではない。
ちょっと待ってと言うより早く、クロトはどんどん話を進めていく。
クロト
クロト
……何故だろう。
人の話も碌に聞いていない、ただの少年の滅茶苦茶な言葉なのに。
私の中に、ゆっくりと染みていくのだ。
クロトは気にしていなかったが、彼のこの言葉で、声で、どれだけ私の心が救われたか。
温かくて優しい、ただの言葉なのに。
……皆はもういないのに、私だけこんなに安心していいの?
色々なものが一気に込み上げてきて、視界がぼやけた。
麗美
クロト
クロト
クロトが見当違いなことをぶちかましてる。
……ううん、違う、違うよ、クロト
私は、多分不安だった。
これからの事もこれまでの事も。
当たり前にくる毎日が突然なくなって、らしくもなく焦ったんだ。
麗美
目元を擦って涙を拭う。
全ての不安が拭えたわけではないけれど、きっともう、しばらくは大丈夫だ。
私は私の、やるべきことをしよう––––。
クロトは腰に手を当て頷いた。
クロト
クロト
ちょ、おい待て。
は⁉︎ 今何言ったのクロト!
麗美
クロト
『え?』じゃなくて!
クロト
麗美
麗美
麗美
クロト
目が泳いでますよクロトさん。
クロト
クロト
すっごい早口。
でも出された条件はかなり魅力的だ。
麗美
渋々頷いた。
保証も何もなさそうな職業だけど……まあ仕方がないか。
麗美
口をついて出た質問だったが、クロトは途端に真面目な顔つきになった。
訊いちゃいけないことだったかな……?
クロトはどこか迷いながら口を開け、話し始めた。
––––––––曰く、彼は物の声が聞こえるらしい。
彼らは人と同じように話し、喜び、嘆き、哀しみ、怒っていた。
……けれども、クロト以外の人は、物の声に気付かない。
必要がなくなった物は捨て、新しい物を買う。誰も彼も、“物”を尊重しない。
それに嫌気がさしたとか、なんとか。
きっかけはそれだけじゃないけど、怪盗になろうと強く思ったのはそういった事情があったかららしい。
だからこそ、無駄な盗みはしない。物の心を汲み取り、その望みを叶えた後は、その場所に戻すのが通例だそう。
世間ではそれを愉快犯とか呼ぶんだろうなぁ。
クロト
眉を下げ、困ったように手を差し出すクロト。
その手を拒む理由は、今のところ思いつかない。
麗美
麗美
……それに。
麗美
口の中に苦さが広がる。
そうだ。もう、誰もいないのだ。私を知っている家族は––––。
クロトが、きょとんとした顔で首を傾げた。
クロト
…………ずるいなぁ、クロト。
ずるい。ずるいよ。そんなに、なんてことなさそうな顔で、抉ってくるんだもん。
私の心を。柔い部分を。
まだ苦しいし、痛いし、悲しいけれど。
この時確かに、折れかけていた心は繋がったのだ。
唾を呑み込み、俯きそうになっていた顔を上げる。
まだ私、大丈夫だ。
クロトは上機嫌に室内への扉を開ける。
クロト
……かなり人間が出来た少年だけど、話の逸れ方は尋常じゃない。
どういう思考回路をしているのかと、私は小さく笑った。